本日は西岡 杏さん著作「キーエンス解剖」を紹介します。
キーエンスといえば、今や日本国内時価総額第3位の会社でもあり、給料が2千万円超と物凄く高いことで有名でもあります。
また、キーエンス出身者が、法人営業の世界でも、書籍や業界紙、YouTubeで活躍するなど、同じ法人営業の立場で、どういった会社なのか興味がありました。
著者の西岡さんは、日本経済新聞社に入社後、2021年から日経ビジネス記者としてキーエンスを取材。
2022年に日経ビジネスで特集記事を組み、そして今回本の中で営業、開発、そしてその社風や歴史という観点で執筆されています。
目次
第1章顧客を驚かせる会社
第2章営業部隊が「先回り」できるわけ
第3章期待を超え続ける商品部隊
第4章「理詰め」を貫く社風と規律
第5章仕組みの源流に「人」あり
第6章海外と新規で次の成長へ
第7章「キーエンスイズム」の伝道師たち
①アポは1日5件から。1分単位で書き込む「外出報告書」
キーエンスの営業担当は、週2日ほどの社内日は、電話やメール、オンライン面談などの顧客フォロー、午後は商品の提案や外出アポ取り、見積もり作業。
週3ほどある外出日には、1日5-10件のアポを詰め込むのが当たり前だそうです。
(5件以上ないと外出できないそうです。)
また、商談の前と後に「外出報告書」にてどんな準備をしたのか。どこを訪問して誰とあったのか。
そして反応はどうだったかといった顧客とのやり取りをタブレットで入力し、その日に上司と共有するそうです。
また、外出報告書の記入は商談から5分以内に書くことが義務付けられており、この日々の記録を営業支援システム(SFA)に蓄積。
その日々のデータの積み上げによって、SFAに登録されたデータから、競合メーカーからの置き換え需要を狙う際、競合の商品を所有している会社が一覧で出てきたり、自社の商品を購入した顧客が以前どの機種を持っていたのかを調査したりもできるそうです。
また、SFAに蓄積された情報を分析して、営業にヒントを与える役割を担う販売促進部門があり、半年以内にリースの更新期限を迎える顧客を送ることもあれば、新たに売れた顧客の〇%が過去に××(機種名)を持っていたという形で有望な顧客を示唆するメールを送ることもあるそうです。
実はFA機器メーカーは商社や代理店を活用して全国に販売しているのに対して、キーエンスは直接販売していることで、顧客から丁寧にヒアリングをすることで、鮮度高く深い情報が集まり、それが顧客にとって「かゆいところに手が届く」ような絶妙な提案につながるそうです。
ちなみに、「行動していたとしても、書かなければやっていないのと同じ」という発想で、次の営業活動のヒントになるような情報をあの手この手で顧客から引き出した社員は、その結果や自らの行動を細かく記入する。
この結果SFAに蓄積しておけば営業担当者が代わってもデータが残ることで、人に依存することなく、会社として効率的な営業活動が続けられるそうです。
②プロセスに関するKPIの設定
キーエンスには、プロセスに関する指標があり、商談件数やキーマンのフォロー率、電話を掛けた件数までデータ化し、KPIを上昇させることを意識しているそうです。
また、KPIの1位から最下位までの順位が週次で配信されたりもするそうです。
ちなみに「累積取引者数」「取引にかかわった人数」「商談数」「商談にかかわった人数」「訪問社数」「初めてアプローチした会社の数」「電話の発信数」「電話の受信数」「純粋な接触人数」などがKPIの指標で、「キーマンへの訪問回数」が受注単価や合計金額に影響したそうです。
営業関連データを蓄積し、営業施策毎の貢献度を把握したり、営業ノウハウを共有化して属人化を防いだり、営業活動を最適化する取り組みをすることで、兎に角可視化を意識しているそうです。
更に営業担当者の上司が顧客に対してフォローの電話を入れることもするそうです。
③ニーズの裏のニーズを知れ
顧客の訪問先について相談するときに、訪問の目的とゴール、顧客から聞き取ったニーズや背景などを説明した上で、顧客に言われたままのニーズと、最初は顧客から出てこない本当の需要である「ニーズの裏のニーズ」を分けて考えるよう教え込まれるそうです。
顧客から要望が出た際、「なぜこれが必要なのか」「これを導入してどんな成果を望んでいるのか」を顧客に問う中で、顧客の課題を解決するために一歩踏み込んだ提案書が出来上がるそうです。
この時営業担当者が徹底的に意識するのは購買の意思決定者で、性格、意思決定の癖もSFAに入力、定期的に情報を更新するそうです。
更にニーズの裏のニーズを探るコツとして業界全体や、顧客が取り組もうとしている工程全体を見渡して説明することで裏にある本当のニーズが見えてくることがあるそうです。
その為、自社の商品に関する勉強会も何度も行われるそうです。
④事業部間の壁を超える。個人の取り組みが組織に広がる。
ある事業部の営業担当が別の事業部の担当にこの顧客にこの商品の需要があると紹介すると成約した時に金一封がもらえ、自分の評価にもつながる制度があるそうです。
事業部間の垣根を超えたチームワークを発揮し、そんな機会損失をなくそうとする狙いでつくった仕組みだそうです。
元は京都で当時の巨大企業 オムロンに対抗するために、始めた施策を全国営業大会で紹介したところ、全国展開されたそうです。
「個人でやってみた施策がいいと思われれば、部署やエリア、事業部が積極的に取り入れていく」
ある事業部門責任者が担当のころに始めた商談の最初にアンケート調査で「予算」「導入希望時期」「導入しなければいけない理由」を記入するといった工夫も事業部門に広がっていったそうです。
⑤顧客の「欲しい」それでは遅い-粗利8割の秘訣
どういった商品を開発するかを、お客さんに言われて決めているようでは、既に遅く、顧客の要望通りのものを作っても、付加価値は高くならない。
開発陣は現在の市場の情報を把握したうえで、顧客自身が気づいていないような潜在需要を掘り起こさないとだめだそうです。
この付加価値の創造こそキーエンスの存在意義で、開発、販売、生産など一人ひとりが商品を通じて世の中のありようを変えたいという思いをもっているそうです。
その付加価値の目安としているのが、粗利8割という数字だそうです。
この付加価値を高めるポイントとなっているのが、機能的価値だけではなく意味的価値で、「なぜそれがいいのか。」「どのように生かせるのか」という提案の価値を分かりやすく提示できているそうです。
なお、顧客の潜在ニーズに合った商品が開発できる理由の一つの企画立案部門主導で製品開発をしているそうで、営業と開発の仲裁役をしながら、商品の企画を練るそうです。
更に顧客のニーズを把握するためのニーズカードを営業担当者が月1件以上提出することになっており、「世の中にあるものではまだこれができない」というニーズを顧客からヒアリングし、営業が書き込むことで、的を得た商品開発に繋がりやすくなるそうです。
このニーズカードの提出に対するインセンテイブもあるそうです。
また、商品化承認のプレゼンでは、20-30件顧客から聞いたことを前提として企画書として認められるそうです。
ちなみにキーエンスの開発費回収期間(粗利累積>開発費)は通常1年だそうです。
⑥即納へのこだわり
全商品当日出荷、全商品在庫蟻。顧客から注文を受け取ったらその日に出荷することを付加価値としているそうです。
従って、全商品の在庫を持っておくことになりますが、需要予測と原材料の調達リードタイムと生産リードタイムを厳密に考慮しながら在庫を切らさないようにする体制を作っているそうです。
このことは、災害時の対応や日本を超えて世界でも高く評価されているポイントだそうです。
⑦自分の所感について
改めてキーエンスのことをちゃんと理解しようと書評でアウトプットすることを前提に、読んでみましたが、簡単に誰もが短期間で真似できないような真面目な仕組み作りがキーでした。
粗利8割の商品作り、更に海外比率も7割と売上が上がっていく理由もよくわかります。
昨今これだけ元キーエンス出身者が活躍する中、更に本体は強くなっているようです。
今の会社に取り入れる部分がないか考えてみたいですね。
このほかにも、創業者の考え方やキーエンスの哲学から派生してできた会社の紹介などもあり、興味がある方は是非読んでみてください。