本日は奥野一成さん著作「ビジネスエリートになるための投資家の思考法」を紹介します。
奥野さんのことは、YouTubeなどで、投資家のご意見番として話しているのを見て気になっていました。
大杉 潤さんの「定年ひとり起業 生き方編」での紹介から、今回本を読んでみて、物事を凄くわかりやすく説明できる投資家の方だと感じました。
奥野さん自身は、日本長期信用銀行に入社、その後UBS証券、農林中央金庫に転職し、2007年より長期厳選投資ファンドを運用、2014年より農林中金バリューインベストメンツのCIOだそうです。
第1章お金に困らなくなる2つの方法
第2章インベスターという生き物
第3章インベスターが用いる3つの視点
第4章企業の本質に迫る5つのプロセス
第5章お金と価値を生み続ける最強のポートフォリオ
➀キーエンスの売っているものは、プロセスの改善という顧客満足
まず著者は、キーエンスの粗利率が5年平均で82.1%、営業利益率54.3%に達する事実に触れながら、一例として、商品の蛍光顕微鏡について、紹介しています。
蛍光顕微鏡は、がん細胞などのサンプルに色を付け、光を当てて観察するために使われるそうで、従来の製品では、暗室で見なければならなかったそうです。
つまり、観察→メモ→議論→観察というプロセスを暗室から出たり入ったりしながら何度も繰り返さなければならなかったそうです。
そこで、キーエンスが開発した蛍光顕微鏡は、顕微鏡自体を箱で多い、暗室そのものを不要にし、全て電動で操作することで、反射角で観察する顕微鏡と比べてサンプルの特徴を正確に把握できるクリアな画像を提供、画像はモニタに映し出せるのでその場でデイスカッションできるようになったそうです。
つまり、キーエンスが売っているものは、顕微鏡ではなく、プロセスの改善という顧客の満足だったそうです。
この顧客も意識していない問題を発見し解決するために、営業担当者は現場の細かいニーズまで探り出せるよう鍛えられているそうです。
そして訪問先で聞いた困りごとや要望をニーズカードに書いて、商品開発部門に全体で約2000件以上報告する仕組みになっているそうです。
この事例から見ても顧客は自社のコストを減らして利益を増やすためにはどうすればよいかという課題を抱えており、顧客の業務プロセス全体をみてその過程における課題を改善できれば、より多くの利益が生み出せることになります。
このように顧客が抱えた問題を大きく解決できる企業の利益率が高いのは当然だそうです。
つまり付加価値の高い事業をやっている企業しか、従業員に高い給料は払えないそうです。
つまりあなたが売ろうとしている商品が取引先が抱えているどんな問題をどう解決するか。
これに一定の答えを出そうとすれば、取引先のビジネスプロセスそのものに対する知見が必要になります。
顧客の問題に接しているうちに、自社の商品の問題点、改善点も見えてきます。
自社商品の改善案を開発部門に提案できれば、さらに営業担当としての付加価値は高まります。
このように常に顧客のことを具体的、分析的に考える癖は、ビジネスマンが経験を積んでいく中で必ず生きていくそうです。
また、モノがあふれる現在の先進国では、扇風機の送風という機能的価値にはお金を払わない一方、羽のないダイソンの扇風機には高い対価を支払う。
つまり顧客の抱える問題が「機能」という具体的かつ画一的なものから「意味」という抽象的かつ多様なものに移っているそうで、このような意味的価値の世界では、顧客の問題は「解決」する前にまず「発見」しなければならないそうです。
この顧客自身すら気づいていない、より大きな問題を発見し、解決できれば、その対価である報酬が比例的に大きくなるそうです。
②お金に困らなくなる2つの方法
「お金はありがとうのしるし」
「利益は問題解決の退化」
という「お金の本質」を考えたとき、お金に困らない2つの方法が論理的に導かれるそうです。
1.自己投資:顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できるビジネスパーソンになり、自分が働く。
→顧客の問題を発見・解決できる人材は、組織内外で高い評価を受けるので、組織の中で重宝され、昇格・昇進するそうです。
転職も簡単。
このような人材になるためには、顧客や取引先企業の事業の経済性を読み解くとともに、それを解決するスキルが不可欠だそうで、このような問題解決型人材になるべく自分に投資することが「自己投資」だそうです。
2.長期株式投資
顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できる企業オーナーになり、その企業に働いてもらう。
→非常に高い事業の経済性に支えられ、持続的に高収益を上げる、キーエンスなどの素晴らしい企業で、ビジネスパーソンとして働くのは素晴らしい事ですが、誰もがそこに就職できるわけではありません。
そこで、誰でもできる方法として「オーナーになること」をお勧めだそうです。
そのような高収益企業を見つけることができるのであれば、株主としてその素晴らしい事業の経済性に働いてもらった方が効率的で、筆者がファンドマネジャーとして実践している「長期株式投資」だそうです。
この二つには、「顧客・社会が抱えた問題を発見・解決するポジショニング」を見極める必要があり、その土台となる考え方をインベスターシンキングというそうです。
なお、若いうちは、圧倒的に「自己投資」に比重をかけ、「長期株式投資」はひたすらフローの中からコツコツと積み立てしていくことになるそうです。
若いうちに身に着けた「自分で稼ぐ力」は不況で勤め先が倒産したとしても奪われることはなく、経済環境の変化に対する耐性も金融資産より強いそうです。
③インベスターシンキングとは
事業の経済性は、3つの要素で構成されているそうです。
①付加価値:その企業が提供する財・サービスに顧客にとっての付加価値があるのか。
顧客にとって必要なもの、問題解決につながるものか。
②圧倒的な競争優位性があるのか。
参入障壁といえるまでに高められているのか。
③長期潮流:人口動態のような不可逆的な長期潮流があるのか。
普段から心掛けておくべきは、不可能な相場予測などに時間を費やすのはやめて、事業の経済性を見極めることに焦点を当てましょうとのことです。
具体的には事業ごとに財・サービスの性質、競合環境、ビジネスプロセス、顧客は誰でどのような問題を解決しているのか等の非財務情報を徹底的に掘り下げていくそうです。
この情報に加えて、人口動態や経済状況等のマクロ情報を組み合わせて、各事業の経済性に関する仮説がある程度見えてきたら、企業訪問し、投資先を見極めるそうです。
なお、企業が提供している財・サービスの付加価値を考えるときに、供給者サイドかからではなく、需要者・利用者サイドから見ることがインベスターシンキングの要諦の一つだそうです。
そのうえで、ビジネスの勝敗の8割を決める「事業においてどのポジショニングで戦うのか」を見極める上で、以下3つの視点が大切だそうです。
④-➀インベスターシンキング‐俯瞰的にみる
その事業を見る際に産業バリューチェーンという視点で見ると、川上産業と川下産業で付加価値が高い。
つまり絶対に必要な原材料を持っているものは強く、川中の組立、製造で沈んだ付加価値が、流通・販売で少し上がります。
販売店が持つ顧客との接点が付加価値になるからだそうです。
これをテレビを楽しむという観点で見ると、コンテンツ制作が最も付加価値を享受し、また川下に位置する配信プラットフォームも一定の付加価値を得る反面、テレビを作って売る事業領域は付加価値が最も低くなるようです。
④-②インベスターシンキング‐動態的に見る
タイムトリップして産業の変化を考えてみると、I-phoneの登場及び通信速度の飛躍的向上とコスト低減により、デジタルカメラメーカー等の衰退などが起きた一方、データ一元管理により、GAFAによる個人情報支配が起こったと言えるそうです。
このような単純な製造業や小売業が産業バリューチェーンの動態的な変化の中で付加価値を失うプロセスに巻き込まれる一方、産業バリューチェーンを川上に駆け上がる企業もあるそうです。
例えば、高品質なベーシックアイテムに特化し、少品種大量生産を可能とさせ、企画開発から販売までのリードタイムを限界まで短縮して商品の回転率を上げることに成功したファーストリテイリング。
小売からの付加価値シフトという構造変化に対して、いち早く川上の製造プロセスに上り、商品企画から開発、生産、流通まで一貫して主体的にかかわり、高品質な商品を日本中どこでも買えるようにしたのがセブン&アイホールデイングスのセブンプレミアムだそうです。
④-③インベスターシンキング‐斜めから見る
さまざまな分野の優良企業同士の比較を通じて、アナロジー(類似・類推)を意識することも大事だそうです。
例えば、➀従来メーカーがすべての機能を内製していたモデルから各機能を専門性の高い企業に外注するモデルへシフトするトレンド、あるいは②支払うコストに対して得られる効用が非常に大きい財は価格競争にならないも現在のアナロジーの一つだそうです。
この斜めから見ることで、企業のより本質的な力を見定めることが出来るそうです。
⑤インベスターシンキングを自分自身に適用する
著者はこれまで話してきたインベスターシンキング、つまり事業の経済性を見極める手法を使って、ビジネスマンの経済性(付加価値、競争優位性、長期潮流)を見極めることを提案しています。
具体的に、➀俯瞰的に見る、②動態的に見る、③斜めから見るを使って自分を見つめ直すそうです。
1.自分の付加価値は何か。
顧客と対話している場合にも、その顧客の顧客は誰か➀俯瞰して想像することで、顧客の抱えた「真の課題」を探索・発見すること。
また、他の取引先でのフィードバックを重ねること、つまり③斜めから見ることで、真の課題を探索、発見すること。
2.競争優位性についても、➀俯瞰してみることで、「2つ上のポジションから」今の仕事現場のあるべき姿を見てみること。
また、②動態的に見ることで必要とされる能力と実際の能力が時代によって変化し、技術進歩にも対応していく必要がある中、より本質的に必要な能力を掘り下げるという姿勢(③斜めから見る)が大切だそうです。
3.更に長期潮流という視点で、自身の事業について将来に関する仮説に関する見立てを考えてみるとよいそうです。
その際、③斜めから見るを使い、多くの産業に流れている潮流、中抜き、垂直統合から水平分業への推移等を並べて考え、仮説を持ってみること自体が大切だそうです。
但し、そこにはエビデンスなどを合理的に組み合わせた仮説である必要があります。
インベスターシンキングを自分自身に適用し、突き放して自分自身の資産価値を考え、将来への見立てを持つことができれば、自分がやるべきことは既に見えてくるはずだそうです。
インベスターシンキングを意識して実践し、自分という資産を磨くとともに、顧客・社会に対して付加価値を提供することができれば、自分自身の身の回りからポジテイブな順回転が始まるそうです。
それは直ちに自身の給料やポストに跳ね返ってきませんが、自分が提供する価値の方が、受け取っている給料などの処遇よりも大きい状態を保つことが、会社ニュートラルなビジネスパーソンとして余裕をもって良い仕事ができる秘訣です。
どこでも通用する自分を創れば、次のステージが向こうからやってくると著者は言います。
⑥自分の所感
顧客の真の課題を認識し、整理し、競争優位性を確保、PRしながら、解決手法を導き出す。
更には業界、他事例、顧客の先の業界の情報も収集しながら、数年先も見据えながら、幅広く課題を捉えて受注していく。
実は生産設備の法人営業でやっていることが、この本で書かれたインベスターシンキングのプロセスと似ていることが分かりました。
一方、私個人というビジネスマンという視点で見た時に、インベスターシンキングを取り入れて経済性(付加価値、競争優位性、長期潮流)を見極めるという観点、更に➀俯瞰してみる、②動態的にみる、③斜めにみるという視点は、足りなさそうです。
インベスターシンキングの考え方を知るだけでも面白いと思いますので、興味がある方は是非本をお読み頂ければと思います。