「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」を読んで-外国人留学生のチャレンジ

本日は、室橋裕和さん著作 角川文庫出版「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」を紹介します。最近日本への移民に関して、X上で意見をいう人や、政治の世界でも排外主義を政策に掲げる党も出てきました。一方、日本に暮らす海外の方がそんなに問題を抱えているのか、その実態はどうなのかというのを理解するために、手に取ったのがこの本です。新大久保や高田馬場、池袋など、昔から韓国、中国人が住み、その中でも新大久保は今や多国籍な人々が住んでいる印象があります。この土地でどのように海外の方と日本人が折り合いを付けて生きているのか、どういった課題や認識をして日本に住んでいるのか。この辺りを調べてみたいと思いました。

目次

第1章 単なるコリアンタウンではない、他民族混在の街

第2章 外国人コミュニテイを支える商売人たち

第3章 新大久保には神さまがたくさん

第4章 この街に人生を賭ける外国人たち

第5章 外国人が暮らすための「インフラ」とはなにか

第6章 オールドカマーとニューカマー、ふたつの世代の韓国人たち

第7章 はじめて開催された4か国合同の「新大久保フェス」

第8章 「よそもの」たちが紡いできた新大久保の歴史

第9章 結婚もビジネスもお祈りも音楽も、なにもかもが多国籍でごちゃ混ぜ

第10章 外国人との軋轢、日本人住民の葛藤

第11章 コロナウイルスは新大久保の姿を変えるのか

第12章 この街の未来を担う子供たち

①単なるコリアンタウンではない、他民族混在の街

著者がタイから戻り、日本で多国籍の人たちが暮らす街がどうなっているのかを知りたいと考えた際、最も人種の混在が進んでいるのが新大久保だったことから、「移民」たちの社会と日本人社会とのコミュニケーションの最前線にて、いったいなにが起きているのか、生活者として体感したい。

これが室橋さんが新大久保に引っ越した理由なんだそうです。

そんな街を歩くと、東京メトロ東新宿からJR山手線新大久保までの大久保通約700mとその周辺に韓流が密集しており、山手線の高架をくぐって西側に行くと、東南アジアや南アジアの人々が目立つようになる。

そこに広がるのはアジアの人たちの「生活の街」だったそうです。

また、日本で暮らすベトナム人としてイメージするのが技能実習生ですが、東京 新大久保には、留学生が多く、日本語学校や外国人を受け入れている専門学校が密集し、1983年に中園康弘首相が「21世紀には10万人の留学生を受け入れる国にする」とぶち上げ、「国際学友会」という施設による留学生受け入れから、外国人対象の学校や、彼らが暮らす寮が増えていったそうです。

現在は、学生の街で、中国、東南アジア、南アジア、アフリカの留学生たちが授業を終え、アルバイトとして居酒屋やコンビニ、ホテルの清掃員、スーパーマーケットなどで働いているそうです。

また、ベトナムの人は、高度経済成長期にあるにもかかわらず、将来よりも、いま豊かになりたい、稼ぎたい。

そんな若者が国中にあふれており、世界的な労働力の輸出国になっているそうです。

また、ビザの手続き、学校の授業、渡航費など業者に支払うお金が70万円と200万円のオーストラリアなどと比較すると、安いことから、日本を選ぶ人も多いそうです。

また、ベトナム人は、専門学校を卒業して、即起業。

外国人は500万円以上の投資を前提に会社設立ができるが、あるベトナム人は、アルバイト代と親の援助で会社を立上。

ベトナム人の若い人たちが気軽に集まれる場所をつくりたかったから安くてだれでも出入りできる気軽なカフェ「エッグコーヒー」を立上。

更にベトナム人であるにもかかわらず、韓国料理や「Gogiちゃん」を立ち上げたりと、柔軟なようです。

また、新大久保にはハラル食材店「Ex.ジャンナット・ハラルフード、ナスコ」も多く、バングラデシュ、パキスタン、インド、ネパール人なども増えてきて、外国人、とくにムスリムにとって便利な街なんだそうです。

なお、筆者が足しげく通う八百屋に「新宿八百屋」があり、24時間営業、レッドオニオンなど日本の野菜に交じって南国さんの食材も売っているそうです。

この東南アジアや南アジアの人が多く来るようになったのは、2011年の東日本大震災時に中国人と韓国人が一斉に帰国した際に、日本政府が海外志向の強いベトナム人やネパール人を対象にビザの要件を緩和し、増えてきたそうです。

新宿八百屋でも、「果物やクンシンサイ、更にはコリアンダーやバジルなど香りの強いもの、そしてニンニクやショウガ、それとじゃがいも、人参、玉ねぎ」はどの国でも定番のようです。

この八百屋は、やがて8時閉店だったはずのお店が閉店間際にも次々とお客が来ることで、24時間営業に変わっていったそうです。

レストランを閉めた後に仕込みのために食材を買い込みに来る人、夜勤帰りの外国人、歌舞伎町でのお勤めを終えたお姉さん。

今は毎日2100人ほどのお客さんが訪れるがその8割が外国人なんだそうです。

また、ラマダン期間は、新大久保にもあるそうで、更に5月は代々木公園にてカンボジア、タイ、ラオス、カリブ中南米フェスと週末ごとに怒涛の如くうち続くそうです。

②この街に人生を賭ける外国人たち

新大久保は都内近郊だけでなく、地方からも女子が列挙する日本全国から注目される観光地。

とくに中高生にとって憧れの街なんだそうです。

その中で、流行に目ざとい商売人がタピオカドリンクやチーズダッカルビやらシーシャバーやらガールズバーやら色々な商売に手を出します。

その一方で、ミャンマー人が営む日本風の焼き肉屋「おかやま」があるそうです。

2000年にやってきたタンダーリンさんが夫妻でお店を経営しており、格安でお腹いっぱい食べられるランチを始めた。

お客の声を聞いて夕方4時まで続け、それから1時間休んで5時からすぐに営業。

外国人経営者の場合ある程度の規模のお店でないと新規のビザが発給されないため、自分で昼も夜もずっと働いているそうっです。

なお、お店の名前の由来は「お母山」

つまり、「お母さんの愛情が山みたい。大きくて高くて、そんな気持ちを感じられるお店にしよう」と決めたそうです。

ちなみにネパール人一押しのお店に「ラトバレ」というお店もあるそうです。

③外国人が暮らすための「インフラ」とは何か。

日本でも類をみないほど多国籍集住地帯となってきた新大久保。

室橋さんが暮らしてみると、外国人に必要なインフラがなんなのかぼんやり見えてきたそうです。

まず「食」

多彩なレストランと食材店が新大久保の名所となっている。

そして「衣」

インドネパール坰の民族衣装。

そして美容室についても中華系や韓国系のお店など。

更に「心」

この街には日本の境界、韓国の境界、モスク、台湾の廟、ヒンドウー廟まであるそうです。

そして「送金会社」

日本で暮らす外国人は「稼ぐため」に来ており、まずは仕事をし、お金を為て、家族を守り、富むことを目的としてきている。

日本で稼いだお金は母国の家族のためにせっせと送金する。

送金会社の中には、ネパール人やバングラデシュ人に特化し、大手銀行だけではなく小さな地方銀行もカバーし、格安の手数料で送金できるんだそうです。

実は海外送金の業務は銀行にしか許可されていなかったため、3000円だの5000円だの高い手数料を取っていたのが、2010年の「資金決済法」により銀行以外の業者にも海外送金のライセンスが降りるようになったそうです。

その結果手数料の低価格化やサービスの充実、特定の国への特化などでしのぎを削っているんだそうです。

そして「行政書士」外国人の在留資格に関する手続き、

つまりビザの取得や更新、変更、家族の呼び寄せ、永住許可申請などを行う存在なんだそうです。

そして出入国管理に関する一定の研修を受けた行政書士が代行するそうです。

また、外国人の入居者に対して、部屋を探している外国人に応対し、生活する上での注意点を説明して、家賃保証まで総合的に行っている家賃保証会社も出てきているそうです。

更に商売や暮らしの必然に迫られて、生活の場を共有したりしていくことがこの街であちこちで起きている。

いまや留学生や勤め人だけではなく、外国人の事業主がどんどん増えている。

それならいっそ、商店街に入ってもらうはどうか。

こうして発足したのが、インターナショナル事業者交流会で、現在、日本、韓国、ネパール、ベトナムの事業者が参加しているそうです。

ひとつは商店街だから店が繁盛しなくちゃならない。

そのためにはどうしたらいいのか。

どうやったらお客さんが足を運んでくれるのかを商店街で考えていくこと。

それともう一つは地域の住民との関係。

この町に住んで良かったと思ってもらえるためにはなにをしたらいいのか。

「このところ話し合われているテーマは「どうリピーター」をふやしていくか」というもの。

新大久保にはたくさんのお客さんが来てくれる。

とくにいまは若い女のことが多い。

そうやって流行に乗ってくる人たちにまた来てもらいたい」

「例えば、参加している事業者でアンケートを行ってみて、依然とお客さんがどう変わったのか、変わっていないのか、リピーターが増えたのか減ったのか、面白そうなアイデアがあれば、他の事業者とも共有していく」

こんなテーマを国籍を超えて考えていくそうです。

(但し400の事業者のうち、商店街への加盟は160ほど。うち半数が日本人経営で韓国が40軒。外国人はまずなによりも具体的な数字や結果を求める傾向があるようです)

また、新宿区には「新宿生活スタートブック」なる小冊子があり、ごみの分別、基本的な交通ルールや生活音などのマナー、区役所での手続き、災害時の備え、外国人向けの相談窓口や日本語教室の多岐に渡り、銭湯の入り方まで解説しているそうです。

34万人の住民のうち1割を超える3万8000人が外国人。

これに対応するため2005年につくられたのがしんじゅく多文化共生プラザ。

「プラザのサービスとして、まず日本語教室があるそうです。

プラザの日本語教室は入門編から、いくらか話せる人向けの会話サロンまでさまざまなコースがあり、優良なものでも1学期(約3か月)週2回で4000円とリーズナブルなんだそうです。

また、外国人向けの相談窓口も設置されており、英語、中国語、韓国語、タイ語、ミャンマー語、ネパール語を話す外国人スタッフがおり、日本語に不慣れな人でも生活の悩みを相談することができるそうです。

さらに、ここに来れば区や国で発行している多言語のパンフレットなどが手に入るそうです。

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④オールドカマーとニューカマー 二つの世代の韓国人たち

高度経済成長期からバブル期にかけて、歓楽街として爛熟を迎えた歌舞伎町では、沢山の外国人女性が働いており、台湾、タイ、フィリピン、韓国の女性が新大久保に住んでいた。

そこから韓国の家庭料理、美容室、韓国系の協会などが出来始めた。

そして日韓ワールドカップ、冬のソナタにより韓国のお店が増えていったそうです。

2010年には「文化センターアリラン」ができ、韓国や挑戦、日本との関わりなど幅広い蔵書が4万点そろうそうです。

また、アリアンホットドックで出すホットグ、チーズタッカルビ。

また、レストランや食材店、ショップには新大久保に寮を持っているところもある。

ワーキングホリデイのビザは1年。

一方、日本の不動産契約は2年単位なので、アパートが借りられない。

そこで寮が普及したんだそうです。

更に留学生はこの街で働いて経営のノウハウを吸収し、日本語を集め、資金をためると、自分で店を開業するようになる。

今、新大久保にある韓国のお店のかなりの部分が元留学生、元ワーキングホリデーによる経営なんだそうです。

このコリアンタウンとしての土台に、留学生やワーキングホリデーの若者がバイトし、事業主となっていく。

いまはベトナム人やネパール人が沢山働いている。

何故韓国人にとって外国人のベトナム人やネパール人を雇うかというと本当によく働くからだそうで、日本語が上手い子も増えたし、味もちゃんと覚えてくれるそうです。

ネパール人向けのレストラン「ニュームスタング」は1か月の家賃が5万円(朝食、夕食付)の寮だったのが、食堂が美味しいと評判になり、一般レストランとしてオープンしたそうです。

また、大久保図書館には、学習参考書から日本の法律や行政に関する資料、子供向けの絵本、各国語のフリーペーパー、外国人向け終了支援パンフレットなど、英語、韓国語、中国語、ベトナム語、アラビア語、ミャンマー語、タガログ語、ペルシア語、スペイン語など23の言語で2300冊あるんだそうです。

韓国や中国の書籍は専門に揃えている書店、ベトナム語は日本語学校に頼んでベトナム人留学生に内容を説明してもらう、ネパール語は現地に行ったときに買ってきてもらうそうです。

実は新宿区の場合、中央図書館以外の図書館は、「指定管理」という形で民間が運営するようになったそうで、ヴィアックス紀伊国屋書店共同事業体は多文化サービスに力を入れることをアピールして、大久保図書館の指定管理業者になったそうです。

その頃から幼稚園からベトナム語、ネパール語の絵本がないのか問い合わせが増えたことで、絵本の多言語化を勧めていったそうです。

更にアラビア語のお話会、民族衣装を来たりなど大人も文化を知るきっかけになったり、

「外国人が母国語に触れる、日本時にとっては異文化に触れる機会になれば」という考えで取り組んでいるそうです。

加えて、日本語の学習支援も行っており、外国人の子供に日本の絵本を読み聞かせ、少しでも日本語に接してもらう。

また、歌を謳って日本語を覚えようという催しも行う。

「子供だけではなくて、もう日本に長い事暮らしているって大人もたくさん来る。

日本語の会話に不自由はなくても、本を読むのは難しいという人は多いみたいで。

「多国籍図書館」として、さらに多言語での生活情報発信も大切な役目として、東京都や新宿区が発行している在住外国人向けのパンフレットはここでもそろう。

無料の日本語教室とか外国の文化を日本に伝えようというクラスのチラシもある。

「お話会、日本語学習支援、生活情報の発信」

この3本の柱をもとに運営しているんだそうです。

⑤外国人との軋轢、日本人住民の葛藤

外国人の住居トラブルは、ごみ、騒音、多人数同居の3つが多いそうですが、21世紀に入り爆発的なペースで外国人が増える時代からもう20年経っており、少しずつ落ち着いてきたようです。

食べ歩きで出るごみを客が方々に捨てる。

客引きの声や大音量の音楽。

そこで韓国の店主たちが商人連合会を結成し、マナーを守るよう呼びかけ、清掃活動を行い、地域に溶け込もうと努力してきた。

更に竹島問題なども起きながら、商店街で日本の商習慣になじんでもらうよう取組、苦情やトラブルがだんだん減ってきた。

この土台にベトナム人やバングラデシュ人やネパール人が乗っかり、例を見ないインターナショナルタウンとなっているそうです。

一方、昔からいた日本人移住者は他に引っ越すか、あまり心地よいと感じていないが、抗議の声を上げるのを諦めたという面もあるそうです。

⑥私の所感

改めて思ったのは、留学してまで日本に来る外国人はガッツがあり、能力もある人たちが多いということ。

一方、それを受け入れる素地を新大久保は地道に築き上げ、今やインターナショナルな街になった。

では、他地域でここまで外国人を受け入れることはできるのか。

大多数の日本人にとってはあまり好ましいと感じないとも感じる中、少なくとも日本に来た外国人にとって最低限住めると思える環境はあってしかるべきだと思いました。