本日は、竹田 茂さん著作インプレス出版「会社をつくれば自由になれる 中年起業という提案」について紹介します。
著者の竹田さんは、日経BP社でインターネット事業の企画、開発業務を統括、様々な実験メデイアのプロデユース後、42歳で独立した方だそうです。
竹田さん自身が当時の会社の仕事が、独立後の仕事と変わらなかったと言っていることから、職種の上で、会社員の延長線上に独立がある点では特別にも見えます。
但し、その後十数年独立してやってきた実感として書いた本書は、中高年の起業に対して、大切なものを示唆していると感じ、今回紹介しました。
第1章 企業は基本的に学校である
第2章 起業した方がいい人、しないほうがいい人
第3章 勝つのではなく負けない零細企業を目指す
第4章 「ヒト・モノ・カネ」より、「人間関係・経験・健康」
第5章 中年企業の財布事情
第6章 ポスト資本主義時代の起業基準
第7章 定年企業の場合
①労働の基本は「自給自足」にある
竹田さんの考えでは、労働の基本は「自給自足」であり、家族を活動の最小単位として何年も継続している老舗は、労働の原型に比較的忠実なので、とても堅牢な経営形式だと考えるそうです。
一方、賃金労働は、
①分業形式が規模の拡大に寄与するための効率的な形式であること、
②なんらかの理由で「自給自足できない人の救済策」として有効であることを要因に増加したが、本来特殊な制度であり、専門性を高まるほどカラダに不自然な動きを強要しており、雇用という形式は不健康だと結論づけています。
従い、現代社会における自給自足とは、とりあえず自分をすべての株式を保有する社長にしてしまって、様々な資本(ヒト・モノ・カネ・時間など)に関する裁量権を獲得することからすべてが始まるという発想だそうです。
サラリーマンが社長をめがけて脱落する椅子取りゲームと考えると、「どのタイミングでこのゲームから離脱して、新しいゲームに参加するか」について裁量権があると考えているそうです。
特に、次長や担当部長といった、実質的な「部長」にはなれない「外れた」スタッフとなった時に、起業の準備をするために「さほど責任もなく、しかし課長よりは偉く、管理職っぽいが管理業務がない」状態こそがベストなんだそうです。
また、今後中年サラリーマンがつくる会社は、いま在籍している会社の価値と合算して評価される。
有名企業に在籍していると、自分の実力で上げた成果でもその成果の中に占める「会社自身のブランド力」の比率が相当高いと自覚する。
しかし、「私が仮に今の会社を辞めて新しい会社を作った時に、私に付き合うつもりがあるか。」と良好な関係を築いていると思われるクライアント候補に聞いて回る。
その評価を積算してある程度の売上が推定できるなら、起業はさほど危険なものではないと考える。
また、起業すると「以前在籍していた会社での実績は必要以上に重視している」顧客はあなたの経験知に対してカネを払うのであって「ビジネスモデルの斬新さ」とか「差別化要因を作れ」などというきれいごとは少なくとも起業後の数年では作れるわけはなく、起業直後の売上の源泉は経験知にしか存在しないんだそうです。
②起業した方がいい人、しないほうがいい人
中年サラリーマンが起業を検討するときには、まず「顧客になる可能性が高い人」に打診する必要があるが、それに先立つ形で会っておいた方がいい集団。
それが「すでに小さな会社を経営している友人や知り合い」だそうです。
彼らにどんな苦労があるか、何が失敗したかなど教えてもらえると思うが、会う目的は、「独立するの?じゃあ、私の会社手伝ってよ」と言われるか/言われないかだそうです。
どの友人からも一切のお誘い(取締役になってくれ)がない場合は、起業しても失敗する可能性が高いんだそうです。
友人に対して「起業しようかなと思ってんだよね」という軽い相談をしてみて、「「おう、頑張れよ、応援するよ」としか言われない場合は、起業計画自体を白紙に戻した方が安全で、逆に「えっ?だったらうちの会社手伝ってよ」と言われたら、あなたには起業の資格があるんだそうです。
内部から湧き出る微量な能力すらまったく存在しないとまで言わないが、むしろ能力の中核は関係性の中にある。
馬鹿なあなたを支援してくれる人が何人くらいいるのかが、あなたの能力の実態、すなわち人的関係資本こそが能力なんだそうです。
また、中年企業はカネをゴールにしてはいけなく、さほど儲かるわけではないんだそうです。
③勝つのではなく負けない零細企業を目指す
多くの零細企業やこれから起業しようとする中年にとって重要なのは、NO.1になることや「勝つ」ことではなく、土俵際まで追い込まれても踏ん張ることであり、ゲームが行われている場所から退場しないこと=倒産していないことだそうです。
また、安心できる起業はないが、安全な起業はある。
①1,000万円程度のどぶに捨てても後悔しないキャッシュがある。
②3社以上の比較的規模の大きな会社から月額でフィーが支払われる請負契約が確保できる
③事務所の家賃がゼロまたは数万円程度である
④受注した仕事を手伝ってくれるフリーランスに近い立場の人がいる
⑤借入しなくても経営できる
⑥心身ともに健康である
⑦毎月10万円程度を貯蓄または保険で積み立てることができる
以上の状況が揃って初めて、起業について悩む資格が発生する。
1,000万円くらいあるととりあえず会社でもつくってみようかなという気になるはずで、重要なのはその1000万円を運転資金としては利用せず、開発資金あるいはそれに該当するようなものに割り当てる現金としてとりあえず貯蔵しておくことなんだそうです。
サラリーマンがどんなに優秀なひとであっても、適切な使い方を発見するためには起業から2-3年の経過を要するそうで、金の使い道を考えるのはそれからでも遅くないそうです。
また、竹田さんの仲間によると、「いかに東京から仕事をとってくるか」に尽きるそうです。
地方に閉じた経済は、結局のところ交付金、助成金頼みが基本姿勢となる。
日本には経済ブロックがいくつか存在し、そのハブとなっている都市。
札幌、仙台、東京、名古屋、京都、大阪、博多。
これから起業する人は、自分の会社がどこであれ、東京から仕事を取ってくるしかなく、東京から仕事を取りやすい人の最右翼が、東京本社の大企業に比較的長期間勤務していた人なんだそうです。
起業としての知名度・信頼感、そして幅広い人脈を作りやすい環境が起業した時の原動力になるそうです。
起業に当たって必要なのは、事業計画を作ることではなく、毎晩様々な’あなたが好きな人’と酒を飲む方がよほど財産になるそうです。
また、起業してしばらくはクライアントに頼まれれば何でもやる。
調査集計やグループデイスカッションの司会というおよそ門外漢の仕事さえ、カネがもらえるのならやる。
なんやかんやで5年ぐらい会社をやっていると「ある種の成功パターン」の原型が見えてくるそうです。
出世も諦めたが起業もしていないという状態が、深刻な問題の先送りであり最も危険な状態であるそうです。
④「ヒト・モノ・カネ」より。「人間関係・経験・健康」
会社を構成する資本は「ヒト・モノ・カネ」と言われるが、零細企業にとっては、サラリーマン自身が個人として保有する無形資産なんだそうです。具体的には、
①関係資本(人間関係)
②経験(知)
③健康
の3種類だそうです。
この①と②は経時劣化しないどころかむしろ時間を積み重ねることで資産価値が上がる。
一方、③の健康は明確に時間と共に劣化していくため、個人事業主という選択肢ではなく、会社設立し、当初から外注費を積極的に利用する働き方でしか選択肢はないと竹田さんは考えるそうです。
「若者ってのは”たまに具合が悪くなる人”のことで、中年というのは”たまに調子がいい日がある人”なんだそうです。
⑤中年起業の財布事情
資本金は、ある一定期間、売上がゼロでもなんとか食べていくための費用の総額と考えるそうです。
資本金で重要なのは、「いつから売上が立つ見通し」があるかなんだそうです。
また、起業直後の価格設定は「不当に安い価格を自らに設定してしまう」という間違いを犯しやすく、トップダウン方式による「その価格にふさわしい業務を納品する」という考え方。
逆にボトムアップは原価から積み上げ、自分が出来る業務にふさわしい価格にしようという発想ですが、自分でも「高いなあ」と思ってしまう価格を設定し、ふさわしい仕事を納品しようと頑張る方が利益率が高くなるそうです。
また、「10万円で自分は何が納品できるか」および「10万円でどの程度人は動いてくれるか」をひとつの基準額とし、その倍数で事業を膨らませていくと自分自身の会社の料金表が出来上がることになるんだそうです。
更にワンショットで結構高額なデイールは意外ともうからず、「少額の、月額固定で、長期間」を基本にした方が確実に利益率は高いんだそうです。
また、起業前の事業計画シミュレーションは、不調な場合だけを念頭に計画書を作るのが正しいこととなる。
最初からかなりシビアな事業計画を作り、悲観的な数字でもなんとかやっていけそうだと確信できるなら起業に値するが、数年以内に倒産しそうな数字しか描き出せないならサラリーマンが経営者となる資格はない。
起業前にやるべき作業はたったひとつ。
「お客を探してくる」ということに尽きるそうです。
なお、お客を探すために必要なのは営業力であり、それは「単位期間あたりの移動距離」なんだそうです。
つまり、会社を辞める前に行けるだけのところに行って置き、回れるだけのところを回っておくことで、単位期間あたりに何社のクライアントから見積依頼を受けるかが営業力なんだそうです。
また、中年起業の場合、売上1億円前後が当面の目標となり、多くの場合、その売上の半分程度を外注費として消費しているそうです。
⑥ポスト資本主義時代の「品質」
今いろいろなビジネスが「今までの人類が経験したことのない総量の爆発による消費性向の質的な変化」というプロセスに移行したのではないかと竹田さんは感じており、その際に保つ品質は以下ではないかと仮説を持っているそうです。
・ユーザーの文脈や状況により変動する価値である。
・繰り返しの利用に耐えられる堅牢性がある。
・原材料より創意工夫や生成プロセスへの依存度が高い。
・大量生産と相性が悪い。
・汎用性利便性は低い。
・結果的に環境に優しくなるサービスや財であることが多いが、環境に優しいを売りにして開発されたわけではない。
・開発者の「好き」という感情の強さに大きく依存する
・品質自体には適度な「ぶれ」を含むことが多く、均一さに欠けることがある
・信頼性はサービス単体ではなく、サービスプロセス全体で評価される。
例えば、コンビニ弁当を3回続けて食べることはできない。
何故なら味が完全一致している工業製品であるから。
一方、家庭料理は、味が適度にぶれているため、飽きることはない。
想定していた価値や品質を上回った時にユーザーの満足度は最高潮に達し、何も期待していない状態に対して差し出されたほんのわずかなメリットは過大評価されやすいんだそうです。
特に零細企業とビジネスをしたい場合、社長の個別事情が会社そのものであり、社長個人にとっての小さな出来事や偶然の出会いが社業全体に大きな影響を与えることになるそうです。
⑦「高齢者」と「雇用」は相性が悪い
健康寿命を伸ばすために働き続けるのがもっとも良いらしいというのは定説になりつつあるが、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」だそうです。
自分の60歳からの貴重な5年間を、確かに雇用は確保されているが、昔の部下に顎で使われ、責任ある仕事をさせてもらえない状態に置くことが、果たして「健康的に動いている」と言えるだろうか。
「雇用制度に守られた働き方」と「自分の会社を経営するという形式での働き方」は同じ労働でもまったく意味が違う。
起業を阻む心理的障害は2つ存在し、会社を作るということ自体が面倒そう、もう一つは自分は何をしているのか想像できないということだそうです。
前者に関して言えば、拍子抜けするくらい簡単である。
後者については、営業や事務職だった人の場合、基本的にはプランニングとコンサルテイングが仕事となり、利益率が高い。
今までの会社での在職時から付き合いのあった会社など、数社から顧問契約を求められるケースがあるそうです。
毎週1回クライアントと定例のミーティングを行い、実行されているプランの見直しや修正の打ち合わせをする。
クライアントが5社あれば、平日の午前中はクライアントとのミーティング、午後はそれを持ち帰っての事務作業、営業活動という名の調査、夜は親しい仕事仲間との懇談が週2回程度。
週1回のミーティングと月に1回のレポートの作成で月額30万円の固定フィーを基準に考える。
筆者の周りにいるヒトたちが、定年となり、企業年金制度により退職後も月額30万円前後の給付をもらう人が多いが、起業すると寿命が伸びるという説得を展開すると間違いなく耳を傾けてくれるそうです。
定年起業の最大のメリットは、個人事務所に近い法人になるはずなので、キャッシュはそこそこある上に固定費がなく、清算を前提にした20-30年近い長期的計画を作れるところが最大の魅力なんだそうです。
また、定年起業は事業計画作成だとかマーケテイングだとか新規事業の作り方だとかそんなことはできず、力まかせや思い付きの企業が許される30代までの起業とは、まったく別の行為であり、もはや無理の利くカラダではないことをわきまえなければならない。
定年起業は、儲けるためというよりは、健康増進のための起業なので、経営は健康的に運営される必要がある。
つまり「やりたいことに集中するために、如何にほかの作業の手抜きを考えるか」が定年起業のポイントになるそうです。
また、クライアント(顧客)になるであろう発注元の心理状態からすると、ある業務を実行するときに、それを実現するためのコストパフォーマンスの良い手段を、社内から調達するか市場から調達するかクールな判断を実行している。
加えて、クライアントの担当者は、定年起業したヒトよりも若い人であるケースが100パーセントなので、彼らが発注しやすい環境を考えると、その社長の背後に実働してくれる若い人の存在が見え隠れするようであれば、何の迷いもなく発注書を書ける。
そのために起業前にやっておくべき「人的資本の組み換え作業」とは、大別すると、
①あなたがつくるであろう会社に発注してくれる可能性が高い人(企業)、
②受注した仕事を実際にこなしてくれる人(中小企業または自営業者)、
③応援してくれる人(企業)
となるそうです。
そして実際にこれらの人たちを動かす業務を現在所属する会社で模擬実験のごとく実行してみると良いそうです。
また、定年起業の効能の一つは、今までと同じように、毎朝同じ時刻に家を出ていくべき場所があるという形で自分にリズムを与えることで健康が維持できる点にある。
自宅ではない外のどこかに自分の居場所を作る事が、定年起業の第一歩だそうです。
定年起業の居場所の設計ポイントは、「小さな居場所を複数確保する」月額10-20万程度の契約を5か所くらいから確保するのが、最も長続きして安定する経営になるそうです。
そしてさらなる安定を目指すために必要なのが、事務所、すなわち自分の拠点となる。
住んでみたかった街に六畳一間を借りて月一回出張する形もあるそうです。
⑧自分の所感-起業のイメージがクリアになった!
中年起業は人脈が命。
定年起業は健康のため!
実際に起業した経験値を元に書かれた本書は、凄く説得力がありました。
曰く、人的資本の形成が行うべきことだとか、むやみに売上を拡大させないだとか、面白かったです。
興味のある方は、是非こちらの本読んでいただければと思います。