「新規事業の実践論」を読んで

今日は、麻生 要一さんが書いた「新規事業の実践論」を紹介します。

私自身は、既存の商品を新しい販売先、海外顧客に営業するといった経験はありますが、事業を0→1で立ち上げた経験はありません。

そこで、新規事業の作り方について、少しずつ知見を増やしていきたいと考えています。

本日紹介する著者の麻生さんは、2006年リクルートに入社後、IT事業子会社を立上、150人規模まで事業を拡大後、新規事業開発室長として1500の新規事業を支援。

その後起業家に転身し、新規事業開発の支援企業となる株式会社アルファドライブを創業。

医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同操業、UB VENTURESベンチャー・パートナーとしてベンチャー・キャピタリスト業を開始したとあります。

この本では、大企業にいる社員が生活の保障をされながら、新規事業に取り組むことが、その取り巻く環境が良いことを踏まえて、リクルートで培った新規事業立ち上げの成功と失敗の法則について、明かしています

目次

第1章日本人は起業より「社内起業」が向いている

第2章「社内起業家へ」へと覚醒するWILL(意志)のつくり方

第3章最初にして最大の課題「創業メンバーの選び方」

第4章立上前に必ず知るべき新規事業「6つのステージ」

第5章新規事業の立ち上げ方(ENTRY期~MVP期)

第6章新規事業の立ち上げ方(SEED期)

第7章「社内会議という魔物」を攻略する

第8期経営陣がするべきこと、してはいけないこと

①WILL(意志)を作り、ゲンバとホンバで原体験化する

まず新規事業の取り組みには、「①誰の」「②どんな課題を」「③なぜあなたが」「解決するのか」

この3つの質問に対して、明確で力強い回答を作ることが大事だそうです。

その取り組む領域が明確で、使命感・圧倒的当事者意識が高いと、社内起業家として覚醒するという段階に踏み出すようです。

その為には、ゲンバ=課題の根深い現場に行くことで、取組課題が明確化されていく、またその課題にあえぐ当事者と対話をする、それらと触れ合う経験が、「ただのサラリーマン」を社内起業家へと変える小さくて大きな一歩になるそうです。

また、ホンバとは「新規事業開発の最前線」を言い、テクノロジー系でいえば、シリコンバレー、深セン、企業でいえば東京のスタートアップ企業や先進的な大手企業の社内ベンチャーもホンバといえるそうです。

ゲンバを訊ね解決の糸口が見えない課題を知り、ホンバで視座の高さや技術を体感し、またゲンバに戻る、この繰り返しにより経験を原体験化し、具体的なゲンバの人に自分の考えをフィードバック/約束する。

この約束が新たな一歩を踏み出すことになるそうです。

②創業メンバーの選び方-3名以下が妥当

創業メンバーを決める際に大事なことは、新規事業開発という仕事は「既存事業では触れたことのない情報を、必要なだけ、決められた期限内に集め切る」という情報戦の側面があり、これを限られた時間の中で行うためには、コミュニケーションスピードは極めて重要だそうです。

「事業が立ち上がったチーム」を振り返ると、立ち上がり期のコミュニケーションは、アワリー(1時間単位)が殆どであったことです。

一方で難易度の高い壁に直面する際の回復力を表す「レジリエンス」がチームとして備わっている必要がある、この観点からは、仲間がいる方がチームレジリエンスは高まります。

更にチームでさばくことのできる業務量も勘案する必要はありますが、筆者はコミュニケーションスピードを重視し、「2人が最強」という感覚を持っているそうです。

③全ての創業チームに必要な3つの力-Network, Execution, Knowledge

自分とは異なる異分野・異業種の人たちとゼロから人間関係を構築するNetwork力

あらゆる業務を、圧倒的に実行し、やりきる力となるExecution力

③自分の組織が「これまで手掛けたことのない領域」において何かを生み出す活動を行う際、「自分が何を知らないのかを知る」ことが出来る力、そのベースとなる教養の厚みと取り組む領域に関する個別の知識となるKnowledge力

の3つが大切だそうです。

この3つの力をチームとしてそろっている状態を作ることが大切で、そのためには異なる能力をリスペクトし、巻き込んでいくことが大切だそうです。

④新規事業には6ステージある(ENTRY期→MVP期→SEED期→ALPHA期→BETA期→EXIT期)

WILLを抱き、創業メンバーを見つけてチームを編成した新規事業リーダーが迎える最初のステージがENTRY期です。

このステージでは、

①顧客は誰か。

②課題は何か。

③その課題はその方法で解決できるのか。

④検証方法は何か。

といった事業仮説を構築することだそうです。

この4つのポイントにイメージが持てると次のステージに進みますが、ENTRY期の段階では、上の4要素以外揃える必要はない(事業計画、収益性、競合も一切必要ない)ということだそうです。

MVP(Minimum Viable Product)期には、課題を持った顧客を実際に見つけてくること、そしてその人や企業に対してソリューション仮説の検証をさせてもらうことが次の過程となります。

また、MVP期には、①売り方の設定と値付け、②コスト構造の見積もり、③時間軸を入れてシミュレーションし、将来的に儲かるという計算を成り立たせることが大切です。

この顧客が支払う金額が、提供するためにかかる費用より大きくないといけない、

それが成立していない事業は、世の中に存在しています。

例えば公共事業や非営利セクターの事業、保険が適用される医療サービス、補助金が投入されることで成立している農業・林業・漁業などの一次産業の一部です。

次のステージSEED期では、実際に商売を成立させること、そしてグロースドライバーを発見する、つまり顧客を拡大するための方法が大事です。

この際、1社からもたらされる利益を下回るコストで顧客を獲得する構造が作れないと、本当の意味での利益は積み重なりません。

SEED期を超えると、営業・マーケテイングに投資する意思決定ができるALPHA期が訪れ、実際に大きく資金を投下して、顧客と売上・利益の拡大を実現するステージとなります。

なお、この拡大期でも、徐々に利益に対してコストが上回る相性の悪い顧客になる側面があり、それが顧客獲得上限数になるそうです。

このALPHA期の後に続くステージということで、BETA期が訪れ、「成長率を落とさずに成長を続け、既存事業と比較がかのな最小規模まで到達する」ことと「既存事業とそん色ないガバナンスを構築する」ことを目指すステージとなります。

更に、BETA期が過ぎ、既存の事業を凌駕する規模への投資戦略、社内での位置づけ整理・IR方針の策定と移り、新規事業からの卒業となるそうです。

⑤新規事業の立ち上げ方(大事なのは顧客との対話と仮説のブラシュアップー300回が目安)

特にSEED,MVP期段階でやってはいけないことは、「確認・事例・調査・会議・資料」を「社内・上司・先輩・競合」に対して行う

これが新規事業では一つたりとも行ってはいけないことで、やるべきことは「仮説を顧客に持っていき、修正する」のサイクルをひたすら回すのが、Entry期~MVP期のチームがやるべき唯一のことだそうです。

ちなみに著者の経験上、300回顧客のところへ行き、仮説を回転させることで、かなりの確率で新規事業杏が導き出せるそうです。

この顧客視点に立つというのは、人は技術やトレンドにお金を払うことはなく、深い課題解決や深い感動に対してのみビジネスは成立するということ、「新規事業は、とにかく顧客だ」という原体験はここで作られたそうです。

尚、筆者は過去に新規事業開発を1500ほどテーマを掲げ、「過疎地で破綻する公共交通、差別にあえぐLGBT、守られる立場にしか置かれない障碍者雇用、黒字なのに倒産する事業承継、両立不能な子育てと仕事、適切な医療が受けられない動物病院の真実、業務過多で破綻する保育の現場、離職を防げないがために人員不足で破綻する経営の現場」などなど根深い課題の震源地を沢山めぐり、結果としてその殆どは事業としての解決策を見出すことができなかった

但しその幾つかのテーマでは、覚醒していく社内起業家の原体験化の瞬間に立ち会ったそうです。

④私の所感

心揺さぶられる本でした。

私が所属してきた会社でも新規事業に携わる方はいましたが、その殆どは技術オリエンテッドな考え方で、顧客の元に300回行き、仮説検証を繰り返すということまではやっているのをみたことはありません

この本の内容を読む限り、顧客との対話による仮説のブラシュアップという点が重要ということであれば、CEOは営業でも十分に務まるものだと考え直しました。

また、兎に角お金を掛けずに素早く対応していくことの大切さも改めて感じました。

著者の麻生さんは、この本の初めに二つのことを話しています。

一つは大企業に居ることが、労働者として守られており、また大企業が社会システムの中心である中で、新規事業も大企業から生まれる可能性が高い事。

一方、今後のサラリーマンが定年後も働かざるを得ない状況になる中、現役時代に土方すべてのスキルが陳腐化している可能性が高い事。

その際に、新規事業開発とは「自分の頭で考えたことに、自分で顧客を見つけて、自分で商売にする」業務で、この業務で身に着くスキルだけは、必ず生き続ける、もっとも普遍的なポータブルスキルだと話しています。

人生後半を過ごすに辺り、この新規事業開発能力を身に着けることを意識したいと思いました。