「自分の頭で考えて動く部下の育て方」を読んで

本日は篠原 信さん著作文響社出版「自分の頭で考えて動く部下の育て方」を紹介します。

久しぶりに自分に部下が出来たのですが、年の差が20歳以上。これは完全に違う価値観の人を受け持ったと考え、一から育成方法を考え直してみようと思い、Xで投稿している篠原さんの本を手に取りました。

序章 三国志・史記に学ぶ理想のリーダー像

第1章 いかにして「自律的部下醸成方法」が生まれたか?

第2章 上司の非常識な六訓

第3章 上司の「戦術」とは何か?

第4章 配属1日目~3年目までの育て方

第5章 困ったときの9の対応法

①優秀な人が指示待ち人間をつくる

篠原さんが中学時代にはまった「三国志」この中で、諸葛孔明が劉備玄徳らと一緒に職を攻めている時には、なかなか勝利をおさめられず「蜀にこんなにも人材がいるとは?」と驚いているシーンがあったそうです。

一方、孔明が蜀の支配者となり、最後の戦いのころには「蜀には人材がいない」と孔明が嘆いている。

その原因を示唆するエピソードとして、孔明の働き方を敵将が問うた時に「朝は早くに起きて夜遅くまで執務している。

どんな細かい仕事でも部下任せにせず、ご自身で処理する」と答えている。

つまり、部下に任せればよいような仕事も全部自分でやってしまうようになれば、部下は自分で考えることをやめてしまう。

自分の才能に自信があり、自発的に物事を考える人間ほど、事細かに指示されることが嫌いだ。

自分の才能を見せつける場がほしいのに、指示を出されてしまっては、功績は優れた指示を出した人間のものになってしまう。

中国春秋時代に予譲という人物がいたが、この人は自分を厚遇してくれた主君の仇討のために済を飲んで喉をつぶし、全くの他人に成りすまして復讐の機会を探したが、とうとうつかまった。

殺されかけた人物もあまりの執念に仇討ち相手も思わず感嘆し、「最後に仕えた主君の前に、二人の主人に仕えていたが、なぜ最後の主君のためだけにそこまでするのか。」と問うた。

予譲は

「最初の二人の主君は私を軽くしか扱わなかった。だからそれに見合う働き方をしたまでだ。しかし最後の主君は私を厚く遇してくれた。ならば私はそれに報いるまでである」と答えた。

自分を信頼し、自分を厚遇してくれた人には、なんとしても答えたい。

人間心理にはそうしたものがあるらしい。

「この人についていったら得をしそう」というリーダーがいる。

こういうリーダーの手段には勢いがあり、急速に大きくなる。

ただし、リーダーばかりが目立って、その他大勢はちっぽけな存在に見える。

「この人と一緒なら楽しそう」というリーダーがいる。

こうしたリーダーの周りには、ユニークな才能を示す人が多い。

少々の苦難があっても、みんなでわいわい楽しみながら乗り越えてしまう。

最初のリーダーは項羽タイプ。

リーダー自身に大変な能力があり、部下の多くが愚かに見えてしまう。

馬鹿にされても集団から離れないのは、利益があると思うから。

逆に言えば、利益がないと見限られたとき、みなが立ち去ってしまう。

後者のリーダーは劉邦タイプ。

リーダーを馬鹿にしたりできる自由な空気がある。

実際、リーダーに大した能力はない。

でも憎めない。

なんだかそばにいたい。

そばに居続けるために、みんなが異能を発揮する。

一人ひとりが育ち、部下の能力が高くなる。

リーダーは欠点だらけのリーダーのまま、愛されている。

劉備玄徳の圧倒的な力、それは承認欲求を満たす力なのかもしれない。

自分の存在価値を認めてくれる。

この人がいれば自分はこの世に生きていてよいのだと思える。

そうした承認欲求を満たしてくれる稀有な存在だったのではないか。

この人と一緒にいるためには、もっと強くならなければ。

もっと賢くならなければ。

もっと活躍しなければ。

こうして部下が自発的に動く環境を提供する。

その能力に劉備玄徳や劉邦は長けていたのかもしれない。

大切なのは、部下の高い能力を認め、伸ばしてやること。

パフォーマンスを向上させるほどうれしくなるような「場」を整えることなのだ。

山本五十六の「やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ」という言葉が率先垂範の見本に考えられているが、「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」と続くそうだ。

リーダーは必ずしも部下より優れているわけではない。

優れている必要もない。

というより、部下はリーダーよりも何かしら優れた能力を持っていると考えるのが適切なんだそうです。

②「指示待ち人間」はなぜ生まれるか。

篠原さんのところに来た人は、指示を求められた場合、「どうしたらいいと思います?」と反問するのが常なんだそうです。

「いや、私もどうしたらいいか分からないんですよ。でも何かしなきゃいけないから考えるきっかけがほしいんですけど、何か気づいたことあります?」もちろん私の希望とはズレた的外れな意見も出てくることがある。

でもそれもむやみに否定せず、「なるほどね。ただ今回は、こういう仕事を優先したいと思っているんですよ。

その方向で考えた場合、何か別の意見がありませんかね?」といい、私が何を希望しているのか、伝えるようにしているそうです。

つまり

・私の考えを折に触れて伝える

・後は自分で考えて行動してもらう

・失敗があっても「しょーがない」とし、改めて私の考えを伝えて次回から軌道修正してもらう

この3つの注意点を繰り返すだけで、私の考え方を忖度しながらも、自分の頭で考える人ばかりになる。

これに対し「指示待ち人間ばかり」とお嘆きの優秀な方は、特に3つ目の「失敗」に対する対応にシビアで

「あの時きちんと指示しただろう!なんで指示通りやらないんだ!そもそも少し頭で考えたら、そんなことをするのが駄目なことくらい分かるだろう!」

多分「指示待ち人間」は自分の頭で考えられないのではない。

自分の頭で考えて行動したことが、上司の気に入らない結果になって叱られることがあんまり多いものだから、全部指示してもらうことにきめただけなのだ。

「指示」にはどうしてもあいまいさが残り、部下が自分で判断して行動せざるを得ないもの。そしてその結果をビシビシ「違う!」と怒ってしまうか、

「そもそも指示があいまいですもん、やってくれただけでありがたい」と感謝するか、そこが大きな分かれ道となるんだそうです。

また、「教えない教え方」をやってみる。

ある家庭教師で「究極に分かりやすい説明」をしてしまうと、安直に考えて、頭に何も残らないタイプの子供がいた。

この子に対して、ちっとも「教えない」ことにしてみようと心に決め、「分からないことがある」という質問があると「教科書を読みなさい」と突き放す。

その結果、本人はついに諦め教科書を最初からめくり始める。

その結果、例題で解き方まで書いてあるところを見つけ、一度で覚えてしまった。

つまり教えない方がどうも理解が深まり、問題も解けるようになり、しかも忘れなくなるらしい。

受け身ではなく能動的、主体的、自発的になることが理解と記憶を深めるらしい。

この本の自発的部下醸成方法に篠原さんが気づいた瞬間なんだそうです。

③上司の非常識な六訓

部下ができたら楽になると思うなかれ。

上司の仕事は、「部下に働いてもらうこと」だが、「上司の仕事を部下にやってもらうこと」では決してない。

上司は自分がやるべき全体的思考、長期的視野での作戦立案など、部下がやっていられない仕事をしっかり担当する必要がある。

部下には、自分が担当する仕事をきっちりこなしてもらう。

また、上司は部下より無能で限らない。

自分が誰かの部下だった時代は、アイデアや自分の業績を上司にアピールするくらいの方がかわいがってもらえる。

だからついつい「俺は仕事ができる」というアピールが成功体験として身についてしまっている。

しかし、部下への「俺は仕事ができる」アピールは基本不要で、部下に仕事を教えることができる程度の能力は必要だが、常に部下よりも「できる」必要はない。

上司の仕事は、部下が持っている潜在能力をできる限り引き出し、仕事の上で発揮してもらうこと。

そのために雑用をこなし、部下が高いパフォーマンスを発揮できるようにおぜん立てする。

上司の仕事は部下が仕事をしやすいようにおぜん立てする雑用係だといっても良いんだそうです。

上司に求められる能力は、部下のパフォーマンスを引き上げる能力で、パフォーマンスを発揮してもらうには、働く意欲を引き上げることが必要。

つまるところ、上司の仕事は、部下の意欲を引き出すことだと言っていい。

その他、人を恐怖で支配し叱責で動かす方法は「考えない人」を生むための方法であること。

部下に答えを教えるなかれ。

つまり「何を教えないか」を意識した方が良い。

何事かを自分の力で成し遂げることができた。

そんな自己効力感を得られた時、人は自信を持つことができる。

そして、もっといろいろなことにチャレンジしようという熱意が沸く。

「答えを教える」よりも、「できるようになった快感」をどうやって強めるかを意識してみる。

部下に仕事を覚えてもらおうと思うなら、楽しく、興味が湧くように仕向けるのが一番で、「気持ちよく働ける」環境を整えないとうまく機能しない。

ましてや、他人に仕事を覚えてもらおうとすれば、よけいに「気持ちよく働ける」ことが大切になる。

だから部下に仕事を覚えてもらうためにも、部下の意欲を削ぐことになりかねない「答えを教える教え方」には要注意となる。

また、部下のモチベーションを上げてやろうと上司が働きかけると、部下のテンションは逆に下がる。

部下のモチベーションを直接引き上げようとするより、モチベーションを下げてしまう要因を除去することに努力した方がよい。

それは成長の段階に合わせて「できない」を提供すること。

親は子供が一つ一つの課題を克服していくことだけで驚き、喜ぶ。

そんな「待ち」の姿勢でいてくれるからこそ、子供は親に喜んでもらおうとする。

部下が「できた」というその達成感を味わった瞬間に上司であるあなたがすかさず「とうとうできるようになったな」と声をかけてみる。

そうすれば部下は「自分の成長を喜んでくれている」とうれしくなる。

また、教えるときは、指示をなるべく出さないようにし、質問形式で部下にどうしたらいいか考えてもらうようにする。

質問形式のよいところは

①何故問題だと考えるのか、質問の前提として理由を伝えることができる、

②何かしら答えをひねり出さなければならないので、能動性を部下から引き出すことができる、

③自分の頭で考えたりすることで、記憶がしっかり刻まれる。

上司が正解を教えてしまうより、理由や情報を提供しながら質問し、部下に追究することを促し、自ら答えを導き出そうとしてもらう。

このことでしごとの覚えはずいぶん早くなる。

④上司の戦術とはなにか

仕事の習得期間はどのくらいを考えるのか。

一つには1年という区切りには意味があり、仕事には不思議と季節性というものがあって、去年の今頃も似たようなことをやっていたなあとデジャブ感をようやく持てるようになるのが入社2年目。

2年目は既視感を持ちながら仕事ができるようになる。

3年目になると、もう二度はこなしたことのある仕事だから、概略は頭に残るようになる。

丸3年仕事をすると、その会社のその部局での仕事はどんなものなのかおおよそ見通すことができる。

一人前として仕事をしてもらえるのも丸3年を経過したあたりからだと考えてよいそうです。

上司は農家のようなもので、苗の成長は苗自身に任せ、肥料や水やりといった環境条件を整えることに専心するように、上司は部下の成長を最大化するための諸条件を必死で考え、整えることが上司の仕事だと腹をくくるしかない。

その上で、篠原さんは、比較的頻度の高いルーチンワークの教え方は以下だそうです。

1.まず「これ、分かるかな?」と尋ねる。

2.自分が見本をやってみせる。

3.本人に実際に一回転だけやってもらう。途中で口を出さない。

4.作業を終えたと言ったら、「本当に忘れているの、ない?」と注意を促す

5.できているのを確認したら、「作業が終わったら声を掛けて」と言い残してその場を離れ、残りのすべての作業をやってもらう

6.「終了しました」と報告してきたら、出来をチェック。

事前に伝えそこなえていたことがあれば、謝罪し、もう一度やり直してもらう

7.問題ない状態になったのを確認できたら、教える作業はいったん終了。

以後、その作業が発生するたびに、何度も作業を繰り返してもらう。

8.慣れた頃に手順をきちんと覚えているか、成果物に問題がないか再チェックする

9.手順もすべて頭に入り、成果物も問題がない状態が繰り返されたら、その作業はもう任せていい状態に入る。

新人の部下には、毎日のように頻度が高く、業務量は多いけれど比較的単純な作業を最初は割り振った方がよい。

また、プロジェクトのように、長期サイクルの仕事の場合、いくら教えたところで、新人には抽象的な話にしか聞こえない。

プロジェクトの最初から最後までを一通り経験してみないと「型」の実感は湧いてこない。

まずは上司自身が進めているプロジェクトに、一通り付き合ってもらう。

そして時折「あれ、君だったらどうする?」と質問を要所要所で重ねることで、「もし自分だったら」という思考実験を重ねるクセをつけてもらうようにする。

自分が参考にした情報、その情報をもとに企画を考えたプロセス、なぜそれを面白いと思うのか、その理由を伝えて、それだけの材料に触れたとき「君ならどうする?」と追体験的に考えてもらう。

そうすることで、企画を考える嗜好のプロセスに慣れてもらうことができる。

企画立案するには、その業界全体の動向、最近の流行を把握できていないと、新しいテイストを加えるという、ビジネスの基本ができない。

これまで何が行われていたのか「過去」を知らないので、ありふれた過去の情報さえ、新人にとって聞き始めの話だと目新しく映ってしまう。

「何か思いついたらメモを取り、同じものが業界の中にすでに出ていないか調査して、誰もまだやっていないことが確認出来たら、今後は実現可能かどうか、必要な資金や条件はどのなものか、調査して。

誰もやったことがない、実現可能性も高い、という案件をいくつもいくつも見つけておいて」

と何度も繰り返し伝える。

実はソクラテスが歴史に名を残したのは、「無知な人間同士が語り合うことで、新しい知を生む」産婆術を得意としたことが理由ではないかと篠原さんは言います。

ソクラテスが若者と話す場合、若者の話をたいそう面白がって聞き、新たな情報を加えながら、質問を重ねる。

ソクラテスと話していると、これまでになかったほどどんどん思考が深まっていく様子が自分でも感じられて、若者は、知的な刺激を大変受ける。

「相手の答えに対して、新しい情報を加味して、新たに質問する」ことを繰り返すだけ。

相手は新しい情報とも矛盾しないで住む新たな仮説を唱える必要に迫られる。

また、部下をつぶさず、成長させるには、上司が適切に部下に成功体験を積ませる必要がある。

成功体験とは任せた仕事を着実にこなしてきたという実績。

仕事をきっちりこなしてきた、その実績が自信を与え、仕事への愛着を育み、仕事への意欲を掻き立ててくれる。

成功体験の積ませ方をまとめると、

1.前段のステージの仕事を繰り返させ、十分基礎能力を積み上げる

2.次のステージに進む技能が育ったと見込みが立ったら、初めて次の業務に「ちょっと背伸び」させてみる

3.次の業務を一度上司がやってみせる

4.上司の見守りの中で、一度部下にやらせてみる。極力口を出さない。

あまりじっと見つめず、他の業務をやりながら見守る。

5.いつでも上司に相談できる状態を用意したうえで、部下一人にやらせてみる。

⑤「頑張るな」といたわられるから頑張れる

「あんまり頑張りすぎないようにしてください」という言葉には、裏返せば「あなたが頑張っていることはよく承知している」という意味が含まれている。

ある学生がこれまでの仕事で頑張りすぎて疲れてしまった。

疲れがたまるうちに研究そのものに嫌気が指し始めたようだった。

この生徒に対して、篠原さんは、まず1か月研究室に来るな。休め。遊べといい、気持ちをリフレッシュ。

そして、朝やる事と、夕方5時には途中であっても仕事の手を止めて帰る事を伝えた。

結果自分の考えた内容で、自分のペースで仕事を進めていいとなると、人間は仕事を「自分事」として捉えることができるようになり、意欲を持って取り組めるようになる。

部下に意欲的に自発的に頑張ってほしいなら、仕事はなるべく部下自身に組み立ててもらうこと。

あるいは自分の考えが反映された仕事だと部下が実感できること。

「あまり頑張りすぎるな」と伝えること、が大切だと言います。

⑥部下をじっくり育てている余裕がない場合

もし本当に部下を育てる余裕がないのなら、無理して部下を持たない方が良い。

部下を育てる余裕がないと、あなたにも部下にも不幸だ。

「部署の急場をしのぐために部下に働いてもらう」ことと、「部下を指示待ち人間じゃない人間に育てる」ことを両立させようというのが、そもそも無理筋。

その場合は助けを求めるようにして、「これから〇か月はうちの部署はすごく忙しいから、大変悪いけど、君をじっくり育ててあげることは難しい。

すまないが私の指示通り、頼まれたことをこなしていってもらえるだろうか。

ここを乗り切ったら、君に落ち着いて仕事を教えてあげられるようになるから、それまでは協力してください」と伝え、二人で仕事をこなしていく。

⑦自分の所感

薄々分かってはいたものの、部下を育てるとなると、手間暇掛かるよなという実感を持つ本でした。

当たり前と言われれば、当たり前の仕事の伝え方が丁寧に書かれている。

なかなか実践出来る人は少ない。

というよりも、多分篠原さんぐらい仕事の全体感を捉えている上司が少ない気がしました。

この本、お薦めです。

是非ご一読ください。