「高田明と読む世阿弥」を読んで-日々新しく

本日はジャパネット高田の創業者 高田明さんと能研究の第一人者 増田 正造さん監修の「高田明と読む世阿弥」を紹介します。

元々世阿弥や能のことは、過去歴史の教科書でしか学んだことがなかった私が、最近興味を持ったのは、知らないと損する年金の真実 – 2022年「新年金制度」対応 – (ワニブックスPLUS新書)などを書かれた大江英樹さんがビジネスで参考になる生き方として世阿弥を紹介しており、まともに考え方を勉強してみようと考えたのがきっかけです。

更には、あの有名なジャパネットたかたの高田明さんがご自身のビジネス経験から世阿弥の考え方に近いところがあるそうで、今回取り上げました。

ジャパネットたかた創業者 高田明さんは1948年生まれ。

阪村機械製作所に勤めた後、父親の経営するカメラ店で働き、1986年37歳で独立し現ジャパネットたかたを設立。

90年に地元ラジオ局でのラジオ通販にて成功したことをきっかけに通信販売の世界へ。

1994年テレビ通販へ進出し、1700億円企業に成長を果たし、2015年に引退。

現在はa and liveという会社の社長でいらっしゃるそうです。

第1章 積み重ねる 自己更新

第2章 伝える プレゼンテーション

第3章 変える 革新

第4章 つなぐ 永続

➀変えられないことで思い悩まない

自分の実力や努力とは関係なく、何をやってもうまくいくときもあれば、どんなに手を尽くしても駄目なときもある。

世阿弥はそれを男時と女時と表現しています。

男時とは、勝負事において自分の方が勢いがあるとき。

女時とは相手に勢いがあるときを言い、この男時と女時の時流は努力ではどうにもならない宿命と捉えたそうです。

自分ではどうしようもないことなら、それに翻弄されたり、あらがったりするのではなく受け入れる。

何かが変わることを待つのが大切だそうです。

男時に果敢に攻める。

女時はじっと耐え忍び、やがて来る男時に飛躍するための英気を養う。

女時は、今自分がやれることにもっともっと集中して取り組むしかない。

そうすれば男時がめぐってきたとき、自分の夢に近づけるのではないかと言う考えだそうです。

外部環境に変化が起きたら、自分ではどうすることもできない部分は諦めて、自分がどうにかできることに集中するしかない。

この考え方に高田さんも通ずるものがあるそうで、過去の成功体験から得た教訓も、長年にわたって会社を支えた主力商品も、別のものにシフトする覚悟が必要だと言うのが高田さんが得た教訓だそうです。

人の悩みの99%は、悩んでもどうにもならないこと。

過去の出来事にとらわれたり、将来のことに不安に思ったり、みんな悩まないでいいことで悩んでいる。

つまりほとんどの人が自分ではどうにも変えようがないことで息苦しくなっているのではないかと高田さんは言います。

過ぎてしまったことは、自分の力ではどうにもならない。

高田さんはどんなときも起きたことを受け入れたそうです。

その上で何ができるか、どう変えていくかを考え、本当に必要だと思うことに全力を注いだ。

ひたすら目の前の課題に没頭すればいい。

取り組んだけどうまくいかなかったら別の方法を試せば良い。

成功したら続けてみればいい。

何より大切なのは、プロセスの中で200%、300%の力で物事に取り組んでいるか。

もうこれ以上できないと言うレベルまで日々全力で仕事をしていたら、結果的に失敗したとしても、すぱっと気持ちを切り替えられるのではないか。

これが高田さんと世阿弥の考え方に共通する一点目だそうです。

②未熟であるということは、まだまだ成長の余地があるということ

世阿弥は芸の未熟さを指して初心と呼んでいます。

無様な失敗や挫折感、それを乗り越えるために重ねた努力を忘れてはいけない。

その初心として3つを挙げているそうです。

➀修業を始めた時の芸の未熟さ、

②年を重ね経験を積むとともに刻々と味わう芸の難しさ、

③老年を迎えた時の老年の初心。

高田さんは年齢を重ねたからといってこれ以上自分を高められないということはない。

人間はいくつになっても成長していけると考えているそうです。

とかく人間は年齢を重ねるにつれ、自分は完成していると思い、横着になったり謙虚さがなくなるものだそうです。

初心はどんどん変わっていくし、変わっていくべきものである。

一途に一つの夢にこだわる必要はなく、1日1日の積み上げ、さまざまな人や書物などの出会いで人の考え方は変わっていくものである。

それが高田さんが世阿弥の初心と言う言葉から感じた思いだそうです。

③ライバルは昨日の自分。慢心は落とし穴。

一時的な花を、まことの花であるかのように思い込むと、真実の花になる道から遠ざかる。

にもかかわらず、誰も彼もが、この一時的な花を本物と混同してしまう。

少年期や青年期に脚光を浴び、ベテランの役者より高い評価を得るようになってもそれは若さによる一時的な花の珍しさで勝っているだけ。

一方まことの花は生まれ持った才能に加え、努力によって高められた能力をいい、時が去ってもしおれることなく、より長く花を咲かせ続けることができるという考えだそうです。

本当は商品力やジャパネットというブランドがあるから売れているにもかかわらず、全ては自分の力で売れたと勘違いする人は伸びるのが遅い。

できなかった部分を改めるのを怠ってしまうからだと高田さんは言います。

時分の花とまことの花の違いをしっかりわかっている人は、商品が売れたときでも慢心せずに、もっと売り上げを伸ばすためにはどうしたらいいか。

この部分が足りなかった。

どんな言葉で伝えればよかったか。

と研究を惜しまない。

常にそんなふうに努力を続けている人は次も必ずすごい実績を残すそうです。

人生が続く限り、ライバルは昨日の自分。

いくつになってももうこれでいい、自分はできていると思わないこと。

今を一生懸命生きたら、明日が絶対に良くなる。この考え方が高田さんの生き方だそうです。

④独りよがりにならず機を捉える

能役者が舞台で声を発する際、心と体の中で音程を整え(一調)、タイミングを計り(二機)、息を溜めてから声を出す(三声)とよいと言います。

相手を引きつけるトーンとタイミングを踏まえ、その上で初めて声を出せという教えだそうです。

高田さんはこれを間と捉えました。

効果的に間を入れるため、常にテレビやラジオの向こうにいるお客様の姿を思い浮かべ、紹介する商品や当日の天気などによって話すスピードやテンポ、声のトーン、どこでどう間を入れるか研究したそうです。

会社の経営でも

「v.ファーレン長崎に関わる全ての人が安心して業務に打ち込む体制を作りたい。

皆さんの力をぜひ貸してほしい。」

このメッセージでもリーダーの話し方でメンバーのやる気は2倍、3倍にもなる。

夫婦仲も間を取りながら話せば、きっと円満になるそうです。

職場であれ家庭であれ、誰かに一生懸命訴えているのに伝わらない。

そんな時は間が取れてないのかもしれないと考えて、間を取る練習をしてみてはどうかと高田さんは言います。

⑤情報も腹八分目がいい。余白の効果。

届けたい情報が10あったとした場合、そこから5つ抜いて残りの5を話す。

その分あとの5を語るときに間を置いて相手に考えさせることで、かえって10話す以上の効果が生まれるそうです。

あれも話したい。

これも載せたい。

一生懸命に伝えようとついつい情報を目一杯入れてしまう。

しかしそれでは言いたいことがさっぱり伝わらない。

そんな時は気持ちをグッと抑え、7部ぐらいのエネルギーで臨むとより効果が出やすくなる。

ちなみに世阿弥は十分に稽古した心を100%保ちながら、演技は70%に控える。

演じなかった30%の余白が予想外の効果を生むことになると言っています。

⑥自分の言い分だけ連呼してたら相手の心に届かない

世阿弥は「花鏡」に、演者は3つの視点を意識することが重要だと書いているそうです。

1つ目が「我見」役者自身の視点。

2つ目が離見。

観客が客席から舞台を見る視点。

3つ目が離見の見。

役者が観客の立場になって自分を見ること。

つまり客観的に俯瞰して全体を見る力だそうです。

世阿弥は、観客から自分がどう見られてるかを意識しなさいと説いている。

その視点を頭に置くのと、置かないのでは、観客への伝わり方が全く違ってくることだと言います。

お客様の立場に立って、商品の魅力をしっかり分かってもらえるように話すことで、初めて、我見と離見、売る側と買う側双方の支店が一致する。

そんなふうに自分が話していることを相手が理解しているか。

真意が伝わっているかと高田さんが想像しながら話せたときは、かなりの確率で結果もついてきたそうです。

良かれと思って製品を作っても消費者から支持されない。

常に消費者の動向を意識しながら商品開発をすべきだそうで、相手のことを分かろうとする姿勢が何より重要だと高田さんは考えるそうです。

⑦自分ではなく、相手のタイミングで

新しい商品やサービスが市場に浸透していくとき、➀イノベーター、②アーリーアダプター、③アーリーマジョリテイ、④レイトマジョリテイ、⑤ラガードの順に受け入れられる。

例えばジャパネットの通販番組で商品紹介をする時、重要なのは、アーリーアダプターとアーリーマジョリテイとの間に立ちはだかる大きな溝、つまりキャズムを超えているかどうかを意識するそうです。

キャズムを超えていない場合は、商品の紹介を丁寧に行う。

一方、キャズムを超えている場合は、商品説明はそこそこにいきなり価格をいうか決めるそうです。

場の雰囲気を察し、相手を意識し、相手が今何を感じているかを読みながら声を発する。

そうしないと自己中心になってしまい、お客様の心に響かない。

能の世界でも、役者が第一声を発するのを観客が今か今かと待ち受けているその期待値が最高潮に足した瞬間に声を出すのが良い。

早くても遅くても駄目なんだそうです。

⑧180度変えなくたっていい

心機一転、新しいことに挑戦するとき、とかく人は従来と180度違うことをやろうとして壁にぶつかるそうです。

しかし、今やっていることにほんの少し何かを足したり、アレンジしたりするだけだけでも案外大きな変化が生まれるものだそうです。

そうやって異なる切り口を想像したり、ほんの少し手を加えたりすることも、ときにイノベーションと呼ぶ。

日々の仕事や生活の中に小さくともイノベーションを生み出し続けることは間違いなく人生を豊かにしてくれるそうです。

世阿弥は、同じ時代に人気があったさまざまな芸能を遠ざけるのではなく、むしろ能に取り入れ、自分なりにアレンジし新しい形に仕立て上げた。

イノベーターであると同時にコーデイネーターだった。

オリジナリテイーにこだわるより、今あるものの新しい切り口を探していく方が、今の時代に合っているのではないかと高田さんは言います。

更に高田さんの経験として、ミズノのウオーキングシューズの販売の際、当初シューズの機能や、歩くことがどんなに健康にいいかを協調して顧客に伝えていたそうですが、どちらかというと顧客を説得するような一方的なメッセージになっていた。

これを改め、「歩くことの楽しさ」を全面に押し出す形にした。

その際、高田さん自身が会社でずっとミズノのウオーキングシューズばかり履き、フロアの移動は階段を利用していた。

更に社員10数名が歩数計をつけて歩き始めた。

その体験を元に

「歩くことって楽しいですよね。私も歩いています。だからこんなに元気です。みなさんも歩きませんか」

と番組で話したところ大きな反響があったそうです。

尚、テレビ通販の場で、高田さんは、65歳以上の高齢者約3500万人が楽しそうに歩いている姿を頭に描き、伝えるべきはシューズの底がどうこうではなく、「歩くって楽しそう!私も歩いてみようかな」という気持ちを引き出すことを優先したそうです。

イノベーションはささいなことからも生まれることから、肩の力を抜いて、面白き事、珍しきことを日々の仕事や生活の中に探してみると良いそうです。

⑨うまくいっても次がある 完成はない

世阿弥は役者に必要なのは花だと考えていたそうです。

そして花は新鮮さと驚きがすべてであり、一度演じて好評だったからといって、そのやり方を繰り返していると、魅力は消え失せてしまうと説いたそうです。

古典芸能でも、演技や物語の形式、内容などあらゆる面で変革をおこし続けて、イノベーターの地位を確率したそうです。

どんなことでも、変化はリスクを伴う。

それでも世阿弥が自分のやり方を変えることをやめなかったのは、演じる側が常に観客を面白がらせ、魅了し、感動させなければ、人気は続かないと知っていたからだそうです。

この考え方は、どんなことにも当てはまり、変化に対応ではなく、変化を創造する。

自ら変化をつくっていかないと、企業は生き残っていけない。

今日売れたものが明日も売れるとは限らない。

新しいことを積極的に提案し、お客様や上司、部下そして家族をも期待を超えて楽しませる。

それが出来る人が真に充実した人生を送れるのではないかと高田さんは言います。

⑩その時の正解が正解

ジャパネットのテレビ通販番組では、毎回5-10点の商品を紹介するそうですが、その日に取り上げる商品のラインアップが最終的に確定するのは10分前だそうです。

3日前に何の商品を扱うかを仮決めするそうですが、その日の天候などによって商品の半分は当日変更するそうです。

テレビ通販番組は、同じ商品でも、「どこの放送局で流れるのか」「流れる時間帯はいつか」「見ている視聴者は年配の人か若い人か、男性か女性か」さらには「社会情勢」や「当日の天候」などの前提条件によって効果的な紹介方法が変わってくるそうです。

人は一度うまくいった方法を続けてしまいがちですが、有用なものは時と共に移り変わり、とどまることがない。

相手の気持ちを敏感に察し、タイミングよく対応しなければ生き残れないそうです。

⑪相手の期待を超えていく

新しいことを始めるにはパワーがいる。

一方、仕事ではただ漫然と同じことを繰り返していたら、移り気なお客様の心をつなぎとめることは出来ないかもしれない。

そこで、世阿弥は

「秘密の芸を用意しておいて、ここぞというときに使いなさい。

仮にその技が画期的でなかったとしても、観客を驚かせることができる」

という主旨のことをいっているそうです。

よく知られる「秘すれば花」という言葉です。

今の言葉で言えば、サプライズ。

高田さんは長年、お客様を驚かせる仕掛けを演出してきたそうです。

花を秘しながら、見つけ続けることができるかで、会社の明日が大きく変わってくると考えているそうです。

V.ファーレン長崎でも、

「9月に何かが起きます。ぜひスタジアムで目撃してください」

とサプライズを演出し、LED看板の導入を図り、選手たちの躍動する姿やメッセージを映し出す仕掛けをつくりだしたそうです。

その際、ただ、「看板を設置しました」だけで終わらせたのでは勿体ない。

この効果を2倍、3倍にも増幅させる仕掛けを考え、「何かが起きる」発言や、当日除幕式を開催し、更にハーフタイムに花火も打ち上げたそうです。

どんな仕事でも、お客様をわくわくさせる。

それに尽きるそうです。

⑫私の所感-古典からも他業界からも学べる

改めて、この本の書評を通じて、相手に見せる(魅せる)演出という点で、全く自分の力を発揮していないことをよく理解しました。

B to Bビジネスだろうと、B to Cビジネスのような顧客をわくわくさせる要素をもっと取り入れて良いはずです。

また、顧客のことを意識すること、そして常に昨日の自分を乗り越えるという考え方で仕事を進めることなど、改めて初心を大事にする考え方が大事であるかを理解しました。

日本の職人文化にもこの常に良いものにしていくという思想が入っている気がします。

そのような日本ならではの視点でも、面白い本だと感じました。

良かったら、ジャパネットたかたのヒストリー、世阿弥の考え方もふんだんに入っていますので、是非著書をお読みください。