「20億人の未来銀行」を読んで-業態変えてもモザンビーク。

この数年アフリカの数か国を訪問し、会社では、ODA絡みで橋梁建設の仕事も受注しました。

しかし、幾つかの有望と言われる国を訪問し、多少なりともアフリカの勉強をしつつも、コロナ禍における国家財政の悪化などもあり、持続的な自律した発展がどのように進んでいくのか、あまり見えない気もしていました。

アフリカ全土で人口は増え、インフラが整備されれば、特に要衝となる国や地域を中心に、発展する可能性はある。

しかし、資源開発以外に、輸出産品が増え、より経済が大きくなるイメージが中短期では思いつかない。

アフリカの各国政府は、PPPによる民間投資によるインフラ整備を望んでいるが、民間の動きも極めて局所的である。

そんな中で、どういったカタチで各国の発展に繋がるのか。

そもそも商売していくのか。

そんな時に、この本を手に取りました。

この本の著者 日本植物燃料株式会社の合田 真さんは1975年生まれ。

2000年に会社を立ち上げ、2012年にアフリカモザンビークに拠点を写し、再生可能エネルギー及び食料生産の支援と共に、Fin Techなどにも取り組んでいるそうです。

著者が言うには、モザンビークが世界で最も貧しい国の一つ、その北東端にあるデルガド州のいくつかの農村で事業を行っているそうです。

村に電気は通っておらず、ほぼ自給自足の生活をしている農民たちは、本当に微々たる現金収入しかない。

「世界で最も貧しい国の一つ」のモザンビークで、その中でも一二を争う「お金の回らないエリア」でビジネスをしているんだそうです。

この地域では、これまで銀行がないため、村民は、農作物を売って得た現金を自宅の地面に埋めるなどして保管していた。

合田さんは、モザンビークの農民たちが労働時間、身体的な辛さでいえば、はるかに農産物という目に見える価値を生み出している。

一方、いくら働いても先進国に住む私たちのように豊かに離れないでいる。

この構造的な問題をどうにかして解決したいんだそうです。

実は筆者は大学時代に働いて貯めたバイトで南米ペルーに山登りをしに行った際、現地でお菓子を売る少女を見たときに、この少女が地球の裏側まで生き、山登りをしながら遊んで暮らすなんて夢のまた夢であることに気づいたそうです。

この不条理を生み出す一因と考えられる既存の金融システムに代わる新しいお金のものがたりのモデルを作り出すことを取り組んでいるんだそうです。

世界銀行のレポートによると銀行口座を持たない成人は現在約20億人。

さらにその数は今後40億人に増え、世界人口の半分を占める。

特にサブサハラと呼ばれるサハラ砂漠以南のアフリカ地域では、銀行口座を持たない成人の割合が34%と極めて高くなる。

このファイナンシャルアクセスのなかった人のうち、1割でも新しいお金のルールで動くようになれば、今後50-100年の間に世界が変わってくるはず。

その「次の文明の設計図」を今のうち世界に組み入れておきたいんだそうです。

1章 新しいお金のものがたり

2章 見つけた光明

3章 いつも舞台は未開の地

4章 行く先々に岩と穴

5章 挑戦の行く末

①世界は「現実」と「ものがたり」からでできている

合田さんのいう「現実」と呼んでいるのは、エネルギーや食糧など、物理的にこのように存在しているモノであり、物理的なルールに従ってこの世に存在している。

著者が長らく植物油から作ったバイオ燃料を扱うビジネスに従事してきたが、バイオ燃料も木を植え、ちゃんと育つよう条件を設定し、精製するための技術と施設を整えてという手順を踏んで、バイオ燃料が得られる。

一方、「ものがたり」と呼んでいるのは、人間が作ったルール。

「とりあえずそうしたほうが都合がよい」という理由で人々が作り出しお互いに受け入れているに過ぎない。

その一つにお金というそれらを使って行われる価値交換の仕組も指すそうで、この「ものがたり」は変えることができるものだと考えているそうです。

モザンビークの農村で働く人たちは、労働への対価をモザンビーク中央銀行が発行する「メデイカル」という通貨で受け取る。

一方、世界には様々な発行主体の通貨が存在しており、長らく頂点に立っているのは、USドル。

一方、メデイカルは下から数えた方が早い位置にある弱い通貨である。

こういう経済構造の中では、モザンビークの農民がどんなに個人的に努力を重ねても、通貨の序列を乗り越えて豊かになるのは難しい。

ここに合田さんは不条理を感じるそうです。

人間が生きていく上で最も根源的に必要なモノが、エネルギーと食糧の二つ。

一方、お金というのが、「現実」にあるモノを分配するかという分配のルールがお金ととらえており、人間が作り出したものだから思考の中で自由に変えられる。

一方、「現実」の現状は、「資源拡張期」と「「資源制約期」に分類され、今はエネルギーや食糧の生産が横ばい、あるいは減っていく資源制約期であり、この時代に合わせた「ものがたり」が必要だと考えているそうです。

つまり、エネルギーや食料の生産が増えていく時代においては、競争して勝った人が多くを得るという自由競争の分配ルールに従っていればおおむねうまくいく。

一方、資源制約期になると、分配できる資源の総量が減っている中、競争に負けた側から見ると、今年1だったものが、来年0.5に、再来年2.5に減ってしまい、この先どうやって生きていけばいいのかという見え方になること。

そうなると、もはや今の社会体制をひっくり返すしかないという発想にならざるを得ない。

合田さんの見立てでは、近年アラブ諸国で政治体制が倒された背景に、石油の産出量が消費量と並び、分配できる資源の総量が減ったためと分析しています。

また、製品やサービスの環境への影響を評価する手法に、ライフサイクルアセスメントというものがあり、製品を作るのに必要な資源の採掘から、その製品の使用、廃棄段階までライフサイクル全体を考慮して総合的に評価するLCAの考え方に基づくと、エネルギーの観点からは、日本のコメ生産に関して、現在の機械化されたコメ生産は、10投入してやっと1取れる状態になっているそうです。

これはアメリカやオーストラリアでも同様である一方、アフリカでは機械化も化学肥料の投入も進んでいないため、1のインプットに対して2とか3のアウトプットがあるそうです。

アフリカでは1ヘクタールあたり1トンのコメしか取れないのに、日本では5トンも取れると言われると、日本の農業の方が疑いもなく素晴らしいものに見える。

しかし、資源制約期に入った今、生き残るのはエネルギー収支がプラスになっているアフリカの農業であり、世界が再び資源拡張期に入るまでの間は、お金という分配ルール自体を資源制約期に合ったものに変える必要があるのではないかというのが、著者の問題意識なんだそうです。

②収益分配型モバイルバンク

モザンビークで市中銀行から借り入れすると20%以上の金利を支払う必要があり、その偏りが共同体を崩壊へと導くと考えていること。

従い、金利を取らず、電子マネーを使って買い物をする際などの決済手数料とする収益分配型モデルを合田さんは考えているそうです。

更に、分配する先は、個人に1%、残りの19%は村単位に分配することで、村に分配した分は、インフラや事業の設備投資に使ってもらおうと考えるそうです。

長い目で見れば、個人に微々たる金利を還元するよりも、村にまとまった額の投資をした方が村人全員の生活水準が向上するはず。

そして村が手掛ける事業の収益が拡大していけば、結果として合田さんが運営する銀行も潤うという仕組みなんだそうです。

現在カーボデルガド州のいくつかの農村でパイロット版となるプロジェクトを進め、数百人規模の村人に対して、キオスクでの買い物や農作物の買取などの場面で電子マネーによる決済を導入し、一部の人に対して小規模の融資を行うことを始めているそうです。

③バイオ燃料ビジネス+電子マネーサービス@モザンビーク

合田さんたちが最初に始めたビジネス。

それは、バイオ燃料の製造、販売をする会社だったそうです。

バイオ燃料とは、バイオエタノールとバイオデイーゼルの2種類に分かれ、バイオエタノールは、アルコール度数を高めてガソリンと混ぜて使うもの。

一方、バイオデイーゼルはデイーゼルエンジン用に使う軽油の代替燃料で、日本植物燃料は、バイオデイーゼルを製造しているそうです。

2000年からバイオ燃料が注目され、パーム油を使って作ったものが主流となっていたのに対して、合田さんは上流の原料部分から押さえるために、ヤトロファという中南米原産の落葉低木に目を付けたそうです。

更に欧州企業が大規模な土地の囲い込みを図るのに対して、「単位面積当たりの生産量で世界一のポジションを取りに行く」という目標を立て、経産省の公益団体法人となる地球環境産業技術研究機構(RITE)から補助金を受けながら、フィリピンに開発拠点を設置、ヤトロファの育種や精製技術の研究を始めたそうです。

結果としてこれがうまくいき、最終的に通常の300%以上も効率の良い品種の開発に成功し、投資家が今後大きな金額を張り、投資することはないにしても地産地消のモデルであれば、十分成り立つはずという算段が付いたそうです。

また、モザンビークでは、農水省によるODAの一環として、キュウリやトマトなど10種類ぐらいの作物を作って市場に売るという仕事をやっていたそうで、2011年から5年間JICAとJSTの支援を受け、東京大学と一緒にモザンビークでバイオデイーゼルの国際共同研究を開始したそうです。

事業モデルは、現地の村人にヤトロファの苗木を育ててもらい、そこから採れた種を合田さんたちが買取、搾油しバイオ燃料にして売るモデルだそうです。

フィリピンで開発に成功した生産性の高いヤトロファの品種を全てモザンビークに空輸し、栽培に必要な農具と一緒に現地の農民に配って、畑と畑の間の垣根として売れるよう指導。

プラスアルファの収入源にしてもらうことで、当時1万人の人の協力があったそうです。

なお、モザンビーク国尾内でバイオ燃料を使っている人など一人もいなかったことから、製粉機を動かす燃料として提供を考え、350軒の製粉所を顧客に。

また、漁村の漁師が魚を冷やすのにマイナス40度の氷を使う際、電化地域まで氷を買いに行っていたこと。

無電化の農村での生活でも電気ランタンを使うことがあることから、NEDOの支援を受けて、現地の3つの村に「キオスク」と呼ばれる日本のコンビニのような店舗を作り、発電機を置き、バイオ燃料でそれを回して発電しながら充電した電気ランタンを貸し出したり、冷えた飲料や製氷した氷を発売することにしたそうです。

更に、キオスクを運営すると、「売上がどこかへ消えてしまう」

そこで導入したのが電子マネーシステムの導入だったそうです。

キオスクに電子マネー用のPOSアプリの入ったタブレットを置き、NECが開発したSUICAのようなNFC機能を搭載したICカードを村人に配布するというシンプルなソリューションを選んだそうです。

この電子マネーの導入により、お金を安全に保管するための手段、つまり「貯蓄」する人が現れたそうです。

更に合田さんが導入した電子マネーシステムは、決済のためのインフラであると同時に、情報のためのインフラ、プラットフォームともいえる。

ある農民を「定期的に収入があって、あまり無駄遣いしない人」とみなせるのであれば、それが信用情報として機能し、融資を可能にする。

そしてその雄姿が継続的に行われ、期日通りに返済しているという実績が積みあがれば、より大きなお金を貸し出せる。

最初はキオスクでの決済でのみ使っていた電子マネーを、農作物の買取や労働者に給料を支払う場面などにも徐々に広げていったそうです。

更に考えてい施策は、農作物を保管する倉庫を作り、合田さんが運営。

倉庫の利用手数料をもらいつつ一時的に預かることで、倉庫によい状態で保管し、自分が売りたいときに売れるようになれば、商人に買いたたかれずに済むようになる。

なお、この電子システムは、国連食糧農業機関と共同で進める農民向け資金援助プログラムの中で、質の良い種子や化学肥料の購入費に充てることが目的となり、支援金が最適な相手に届いているのか把握するために活用されたそうです。

電子マネーのプラットフォームにベースとして蓄積されれば、プロジェクトの効果を測定可能となることで、システムと現場オペレーション、レポート作成をセットで請け負っているそうです。

④綺麗事ではない事業運営のリアル

上で紹介した事業については、バイオ燃料による電化によるキオスク運営は、沢山供給できるが故、需要が満たせず、今は太陽光発電へ。

ヤトロファ品種の生産性もモザンビークでは高くできず、今はインドの商人が進めるゴマの栽培の方が短期間で収益を稼げる構図となり、ヤトロファを積極的に進められない。

そんな中で、最貧国の農村部で収益分配型モバイルバンク事業を展開していく。

銀行といった制度を知らない人に対して、お金の「ものがたり」を提供できれば、先進国よりずっと受け入れられやすい。

また、農村部で作り上げたモデルだからこそ、横展開できる可能性がある。

海外に進出する日本企業の殆どが、人口が多く、経済が回っている地域をターゲットとし、サブサハラでいえば、ケニアのナイロビ、南アフリカのヨハネスブルグ、ナイジェリアのラゴスになる。

これらの地域へ進出する狙いが消費財を売る事であれば、選択は正しいが、横展開の可能性はあまりない。

なぜならこの3都市ほどお金の回っているエリアは、アフリカには他にないからなんだそうです。

一方、7.8割が自給自足に近い農業をやって暮らしている農村部でソリューションを確立できれば、世界中の農村部に横展開できる可能性が生まれる。

従い、苦労して挑戦する価値があると合田さんは考えているそうです。

⑤本を読み終えての所感

合田さんは、上で記載している以外にも、Youtubeをアジアで公開して、モザンビークの人々の稼ぎ口を作るだとか、日本における地域通貨を広げるなどの構想を、本に書いています。

彼が会社を立ち上げた2000年といえば、私が社会人になった年。

この年から会社を立上げ、更にアフリカでビジネスをする。

国際機関の援助に頼りまくらないと前に進まなかった現実や、最終的には諦めざるを得ないビジネスが多い中でも、ひた向きにモザンビークで活動しているように見えます。

彼の言う「世の中の不条理」を解決するために、外国であるモザンビークで金利を取らない金融モデルを構築し商売することは、とても大変なものだと感じます。

ただ、アフリカビジネスの難しさを良く理解するとともに、そんな中でも諦めずに10年以上コミットしていることが凄いと感じました。