本日は、前JICAインド事務所長であった松本 勝男さん著作「インドビジネス ラストワンマイル戦略」を紹介します。
松本さんの本を読んだのは、「日本型開発協力」が最初でした。
今回、「インドビジネス ラストワンマイル戦略」を読み、JICAという地域貢献を目的とする組織人の立場で、相当インドの事を実地で研究されたことが良くわかる本だと感じたため、是非紹介させて頂こうと思いました。
第1章 社会イノベーション大国
第2章 インドの開発状況と「インパクト企業」の対等
第3章 ラストマイルの奮闘
第4章 改めて知るインドの光景
第5章 SDGsビジネスの主流化
➀社会イノベーション大国
インドは経済の発展状況や人口規模の大きさから、社会課題は多岐に渡り、生活に必要なモノやサービスが行き渡らない人の数が膨大です。
従って、NPOや社会的企業の活動領域が先進国や他の途上国と比較してすこぶる広大
だと松本さんは言います。
近年では、欧米のビジネススクールなどで学んだインド人留学生の帰国組が新たな組織を立ち上げるケースも増えてきているそうです。
②世界最大の学校給食事業
この「社会を変える」取組の一つとして、アクシャヤ・パトラ財団による約150万人の児童や生徒に給食を届ける世界最大の学校給食事業者を紹介しています。
インドで5歳未満の子供の約4割が低体重で栄養上の問題があるそうです。
そのような背景の中でこの給食サービスの提供により、健康状態が改善し、小学校の就学率が向上。
その事実を認識した結果、2004年にインド政府が公立学校での給食制度を正式に導入するに至ったそうです。
2019年時点で、全国24か所にセントラルキッチンを有し、28州のうち、10州、11000校を対象に給食事業を行っているそうです。
この事業団体が特徴的なのは、NPOにもかかわらず、民間企業の先進的な運営手法を導入しているそうで、
➀大手IT企業での品質管理を有する職員の雇用、
②トヨタ自動車のカイゼン方式の実践、
③最新機器の導入をしている
とのことです。
収入は、州政府からの受託収入と民間の寄付に頼っており、寄付は2018年の4年間で21億円から45億円にまでなったそうです。
③安価且つ簡易なトイレの設置企業
衛生分野においても、数年前まで人口の半分がトイレへのアクセスがない世界最大の野外排泄国で会ったのに対して、2014年に発足したもモデイ政権により人口の9割がトイレ使用が可能な状態にあるそうです。
このトイレの普及に長年従事し、今や国際的に注目される団体がスラブ・インターナショナル・ソーシャル・サービスという団体だそうです。
かつては、カースト制度の4階級の更に下層に位置づけられる不可触民(ダリト)が上位階層の家を回って便所を掃除し、集めた糞尿を廃棄する仕事に携わっていたそうです。
一方、1つの便器に2つの貯留槽がつながり、1つを使用しもう一つは排泄物を堆肥化する構造になっているそうで、日本円で1,800円程度で家に設置可能だそうです。
1970年以降2019年時点でインド国内に設置した家庭用トイレは150万機以上。
公衆トイレは9000箇所、毎日約2000万人がトイレを利用しており、公衆トイレの一部は有料制で同団体が建築と維持管理を請け負っているそうです。
同団体の財源は自ら製造したトイレの販売やトイレ事業の請負、及び民間からの寄付金だそうで、寄付や協力を行う民間企業が年間150社。
財務的に安定していることが活動の継続を可能にしているそうです。
④効率的な白内障手術の確立
他にもアラビアンド眼科病院は、白内障治療の費用を極端に押さえるシステムを構築し、インド南部に14か所の眼科病院を展開。
また、手術効率を上げるため、一つの手術室に複数のベッドを置くことで、1日当たりの手術数を増やし、1人の石の執刀する手術数は年2000件に上るそうです。
更に、病院まで通えない農村部の住民に配慮し、年間2500回に及ぶ出張診療を実施。
1村落当たり100-200人の患者に対して検査、診療、疫病の啓発活動を実施。
尚、白内障の輸入レンズについては、自らレンズ製造会社を設立し、レンズコストを約200円まで引き下げたこと。
所得階層別に手術料金を設定することで、貧困層が安価な医療サービスを受けることが可能になっているそうです。
実際に患者の約半分は手術代が無料。
支払い能力のある患者には市場価格でサービスを提供するというビジネス形態を取り、この経営手法がアジアやアフリカなど約30か国の病院に伝授されているそうです。
⑤白い革命(ミルクの流通革命)
世界最大のミルク生産国はインドだそうで、2018年は約1億9000万トンあったそうです。
インドは菜食主義国家で国民の3割以上がベジタリアン。
ジャイナ教や仏教の不殺生の教えがヒンデイー教に取り入れられ、現在店で販売される食品すべてに採食か肉食かのラベル表示が義務付けられていること。
ベジタリアンの主流は、肉や魚をとらなくとも乳製品は食べるラクトベジタリアンであり、ミルクが貴重なたんぱく源として、ベジタリアンの食生活を支えているといっても過言ではないそうです。
このミルクの販売流通網についても、直販する生産者協同組合連合となるアムルが発足、その後マザーデイリーといった企業の参入し、大きな流通革命に繋がったそうです。
また、最近では農家からのミルク収集システムと品質保持のための露光による包装技術の開発により、乳製品の期限の延長、乳製品製造によるブランド確立を図るミルク・マントラという企業も出てきているそうです。
この会社は牛の飼料会社と提携し、資料を農家が安く入手する方法も確立しているそうで、牛の病気や世話に関する情報提供、牛や農具などの購入を計画する農家への融資のあっせんも行っているそうです。
ちなみに、農家からのミルクの質を確認するために、スタートアップ企業のステラップテクノロジーが開発したセンサー機器を使用し、品質結果と同時に販売価格を農家に提示することで、仲買人の干渉を排除し、価格と品質の透明化を図っているそうです。
このステラップテクノロジーは、独自のセンサー技術を使って牛の健康状態や餌の摂取量を管理・記録し、遠隔で10位と農家を繋ぐサービスを提供しているそうです。
その結果、生乳生産量は約20%の増加、家畜の治療費用は約50%の節減につながったそうです。
⑥緑の革命(米)と赤い革命(鶏肉)
ちなみに、農作物の品種以下医療、化学肥料投下、灌漑普及、農法の改良による米の生産拡大による世界第2位のコメ生産国となったこと。
外国品種のブロイラーが養鶏農家に届けられ、全国的な鶏肉生産・流通システムが整備されたことで鶏肉が食肉の代表的な存在になったこと。
この3つが近年の白い革命、緑の革命、ピンクの革命と言われているそうです。
⑦医療分野の状況と、社会的企業の出現
インドでは、医療を受けるサービスも脆弱であり、医療機関のうち、民間が7割を占めている状況ですが、人口1000人当たりの医師の数は0.86人と最低必要な医師数の基準1人に達していないそうです。
2018年に国家健康保護計画を導入し、加入者は2019年前半に約5億人まで増加し、貧困層のほとんどが公的保険により医療費支出をまかなえる耐性が整いつつあるそうです。
一方で、病院の質の問題から公立の医療施設を回避する傾向が顕著である中、村落で生活する住民に病気・怪我の症状に迅速かつ安価に対応するサービスが求められています。
その中で、AIを活用してオンラインで医療診断を行うスタートアップ企業や農村部の住民に特化した円滑医療サービスを行う社会企業が出現しているそうです。
そのうち、ドックスアップは良質な医療を1億人にアクセス可能にをミッションに掲げ、遠隔医療を行うバンガロール拠点のスタートアップだそうで、一般診療に加え、深夜の緊急診療やセカンドオピニオンを求める患者などにオンラインの医療サービスを提供しているそうです。
スマートフォンがあれば、農村部からでも医師の診察や薬剤の書評を24時間いつでも受けることができる。
ドックスアップの診療プラットフォームには約1万人の医師が登録しており、婦人科、皮膚科、循環器科、消化器科、小児科等幅広く対応している。
どの医師が対応するかは、専門性と患者の居住地に近い医療施設に属しているかで決めるそうです。
診断を受けるために、患者はまず同社のホームページにアクセスし、診断用のアプリをダウンロード。
年齢や性別等の基本情報と症状を入力すると、AIによる問診が行われ、医師が選定。
医師が決まれば、早ければ数分以内にオンラインで診断が行われるそうです。
診察後、薬の処方箋がオンラインを通じて発行され、医師の所属する近接地の医療機関以外にも提携するデリバリー会社への注文もネット上で出来るそうです。
地方でも注文の翌日には薬が届く迅速さとなっており、診察代は民間病院の約6割程度となる400-900ルピーだそうです。
同社のAIによる問診結果や診察内容は全てデータとして蓄積され、次回の診察に利用される。
現状1日当たり1万件を超える規模となっているそうです。
⑧インドのデジタルトランスフォーメーション
モデイ政権の主要政策の一つにデジタル・インデイアというものがあるそうです。
デジタルインデイアは、
➀公共サービスとしてあらゆる市民にデジタルインフラを提供する、
②電子行政サービスのオンデマンド化を図る、
③市民のデジタル知識を向上させる
ことを目的に掲げられているそうです。
国民共通の身分証明書「アーダール」のデジタル認証機能としての活用があり、この身分諸制度は貧困層や農村部へ社会保障サービスが確実に届くことを意図して2009年に開始。
2018年で保持者は12億人を超えているそうです。
更にデジタル・インデイアではJAM番号トリニテイという行政手続きの効率化と国民厚生の向上を同時に図ることを目的とした制度が取り入れられました。
具体的に銀行口座、アーダール、携帯電話の3つの番号を結びつけ、行政側から対象者への送金手続きなどを円滑に行うシステムを構築するものだそうです。
その結果、コロナ下においても、事前に受給資格登録が済んでいる貧困家庭に対して、迅速に支払いが実行されたそうです。
更にデジタル化推進のため、約65万に上る村落すべてに光ファイバーの敷設を行う計画も推進されており、これが実現すれば通信ネットワークが全国隅々まで行き渡り、JAM番号トリニテイによる送金に限らず、公共サービスの遠隔管理、オンライン教育などが広く普及することになると言います。
また、インドでは電子選挙も行われており、投票所で候補者名と政党のシンボルが表記されており、字が読めない人であってもシンボルが判別できれば投票が可能だそうです。
この電子選挙の結果、
➀投票にまつわる不正や暴力事件の防止、
②紙による選挙では森林伐採など環境面での問題を解決、
③数億人に上る読み書きのできない選挙民の投票がより容易になった事、
④何より投票の効率が格段に高まった事
をあげているそうです。
また、インドには全国で1200万以上存在するキラナと呼ばれる小店舗があるが、コロナ禍にオンラインでつなぎ、在庫管理などを効率化して費用を節約しつつ支払、配達をするサービスが拡大したそうです。
この政府主導により従前の公共インフラ事業が農村部で進められる一方、最新技術を使った民間企業によるEコマースの利用が急速に拡大している事実。
このアプローチは松本さんとしては、インドに不来るから根付く精神のあり方「ジュガード」を想起させるそうです。
「ジュガード」とは、ヒンドウー語で、「革新的な問題解決の方法」や「独創性と機転から生まれる解決法」を意味するそうで、様々な社会問題をイノベーションのきっかけとし、逆境を発展の機会に変える手法がインドの強みと考えているそうです。
ジュガードの基本である「柔軟に考え、迅速に行動する」ことで、インドが既存の先進国とは異なる発展経路を辿っていると感じるそうです。
⑨CSRの制度化
インドにおいて、企業のCSR活動を制度化したものとして、純資産50億ルピー、売上高100億ルピー、純利益5000万ルピー以上のいずれか1つの基準に該当する企業は、直近3か月の税引き前利益を対象にその平均額の2%をCSR活動に充てなければならない。
尚、取締役会にCSR委員会を設立することも定めており、対象活動として、
➀飢餓や貧困の撲滅、
②安全な水の確保、
③教育の促進女性や障碍者の雇用、
④高齢者の福祉、
⑤環境保護、
⑥文化遺産の保護
など11項目が明示されているそうです。
尚、企業ごとにCSRの定義が異なり、地元の地域社会に貢献するのが、基本となるため、大企業の多いマハラシュトラ州、カルナータカ州での投入額や活動数が多く、一方北東部の貧困州では資金が提供されていないようです。
また、タタ財団などは、CSR活動によって最も事業効果が上がるかを真剣に追求し、委託先のNPOと詳細に詰めるケースもあるそうです。
更に、セメント業界で売上第4位のダルミア・セメントは再生可能エネルギーによって自らの使用電力を100%賄っているそうですが、CSR予算はクリーンエネルギーの供給や水資源の保全を対象にしているそうです。
具体的には、無電化村向けにソーラーランタンの設置、燃料効率の良い調理器具や液化ガスの利用促進などだそうです。
社長は「産業界は社会が持続的でないと発展できない」と繰り返し発言し、従業員に浸透させているそうです。
また、マルチスズキは
➀工場近隣の村落開発、
②道路安全の確保、
③技能訓練
の3分野に絞っており、工場周辺の26村を対象に公立学校や保健施設の拡充。
また自社ワゴン車の提供により、農村部と市場を結ぶための交通手段の提供。
そして運転技術訓練センター、道路安全センターを運営しているそうです。
更に日本政府の方針に基づき、インド人製造業者育成を目的とする日本ものづくり学校の開設、自動車関連のエンジン整備や板金修理などの技能訓練、カイゼンや5Sなどの日本式経営手法の講義が実施されているそうです。
コロナ禍を機に病院建設も手掛け、大手製薬会社との病院運営にまで乗り出す総出、ロックダウン時には周辺の村落に食料の配給やマスクなどの衛生用品の提供も行ったそうです。
⑩インドの経済状況
インドの1人当たり国民総所得は2019年度で年間2,081ドル、但し、州ごとの差が激しくゴア州やアッサム州は5,000USDを超えているが、ビハール州などは1,000USD以下となります。
一方、中間所得層(年間世帯所得5000~3万4999USD)の割合は2000年の4%から18年になんと約54%に。
1万$以上と設定した倍でも0.6%から20%まで増えているそうです。
携帯電話の契約数は、2000年はアメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリスが上位5か国であったが、17年は、中国、インド、インドネシア、アメリカ、ブラジルがその位置を占めているそうです。
⑪世界最大級の社会課題大国とインパクト投資
インドでは、経済的リターン追求の意向の強い民間企業から、社会的リターンを追求する伝統的なNPO間の間に社会課題が沢山存在することを松本さんは指摘しています。
その中でも
➀労働市場で就労が困難な層を対象にした雇用創出型、
②行政や民間のサービスが行き届かない層に従事する社会サービス提供型、
③地域の福祉などに資する地域貢献型、
その混合型が社会的企業と定義しており、社会的企業がターゲットとする顧客層は、市場価格によるサービス購入が困難なものであり、具体的に低所得者、高齢者、障碍者等になるそうです。
この社会課題の解決と経済活動を両立し、斬新な手法で事業活動を展開する比較的若い中小希望の企業が数千社以上本格的に活動しており、マイクロファイナンス、保健、教育、電力、農業、水供給などが主要な活動範囲となっているそうです。
更にインパクト投資という財務的リターンと同時に測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資であり、インパクト企業となるマイクロファイナンス、教育、保健、農業、電力供給などを行っている分野へ投資してる金額が毎年増えているそうです。
尚、このインパクト投資のパイオニアと言えるアービシュカールグループは約450億円を運用。
また、日本の投資機関であるドリームインキュベータはインド国内のスタートアップ企業に出資を行っており、保健医療分野を中心に斬新な技術やビジネス手法を採用する事業を後押し。
その中にはユニコーンとなった企業もあるようです。
尚、アービシュカールグループには、上智大学や三井住友海上キャピタルが参画しているそうです。
⑫農業と社会的企業
その他、エクガオン・テクノロジーは、農家の実態に合わせ、作付け方法や天候などの情報サービスを行う社会的企業で、事前に調査した農地や作物の種類などの特性を考慮したアルゴリズムを考案。
天候や季節に応じて工作に必要な情報を送っているそうです。
携帯電話を試用することで、遠隔でのサービス提供を実施。
顧客の広がりに従って、農家同士や農家と消費者を直接結びつけるオンラインのプラットフォームも構築したそうです。
自らオンラインマーケットを立上、農家から直接仕入れた米、豆類、香辛料、砂糖など50種類以上の作物を直接消費者に販売する業務だそうです。
結果として6割の売上額向上に寄与しているそうです。
⑬水、電気の不足と取り組む社会的企業
また、インドの水事情は深刻で、約6億人が水不足に陥っており、子どもを中心に毎年20万人以上が水の疾患で死亡しているそうです。
更に地下水に頼っている人口は全体の4割。
近年この地下水の水位が低下しており、全国で5割以上の井戸の水が減少し、2020年には主要都市21か所の井戸が枯渇したそうです。
地下水の汚染状況がひどい中、ウオーターライフ社は、汚水処理機器、移動式浄水装置の販売により、一般の業者から水を購入した場合40ルピーのところを7ルピーで販売しているそうです。
その仕組みは、村落への啓蒙活動の段階で利用者登録を行い、初期の需要を確認。
並行して水道事業開始後に設備の管理を行う地元出身のオペレーターを雇用。
村に設置される浄水設備により不純物を取り除くシステムを備え、毎時500-1000リットルの水が供給できる浄水設備をラインアップ。
電気が通っていない村の場合は太陽光発電が可能な設備を使用するそうです。
同社の取組は官民協力によるコミュニテイ参加型の事業で、一代5万~6.5万USDの費用だそうです。
同社の水道設備を利用するために、村民は毎回20リットル単位で7ルピーを支払うことで、運営維持費用を上回り、収益を上げるそうです。
⑭世界最大のトイレ普及計画
ヒンズー教の慣習では、人の排泄を不浄とし、なるべく遠ざけ、排泄後は清めが必要と定めている。
つまり、家にトイレを設置するには、信心深い年長者の考えや習慣を買えることが不可欠だそうです。
一方、2014年に発足したモデイ政権が、全国規模でトイレの普及を図る「クリーンインデイア」政策を表明し、2019年時点で人口の9割がトイレの仕様が可能な状態になったそうです。
尚、インドの土地や環境に適したトイレの普及を行っている企業にLIXILがあり、同社が開発した簡易用トイレ「SATO」は設置が容易、少量の水での洗浄、そして原価がわずか約600円だそうで、排泄物を亜ガスと開閉する弁の機能で病原菌や悪臭を低減する仕組みだそうです。
更に鳥取県の大成工業は、JICAの支援を受けて、公衆トイレの実証調査を行っており、トイレからの汚水を敷地内で処理する自然浄化汚水システムが機能するか確認しているそうです。
⑮電化に関する日本企業の幾つかの取組
インドでは、未だ未電化の村が多く、パナソニックや東芝プラントシステムなどは、ソーラーランタンを提供している。
また、グルガオンのオーエムシーパワーでは、三井物産が投資を行い、通信会社への電力供給を主目的とした事業を展開。
太陽光、蓄電池、エネルギーマネジメントを組み合わせたミニグリッド事業であり、通信会社には通常の商業的な条件で電力を供給。
一方、近郊の農村には低料金で電化を行うビジネスモデルだそうです。
更にミニグリッド事業の派生として、農村での冷蔵設備の不足を解消し、小規模法人にスペースを貸し出すマルチユーテイリテイ事業も行っているそうです。
⑯リサイクルビジネスと廃品回収人
インドの大気汚染や水質汚濁を含む環境問題に関連する死者数は、世界で年間約830万人、そのうちインドは230万人だそうです。(第2位は中国の180万人)
インドの環境問題でまず挙げられるのは、大気汚染であるそうで、世界で最も汚染されている30都市のうち、21都市はインドにあるそうです。
大気汚染が原因の呼吸器疾患で、2019年は約170万人なくなっているそうです。
大気の汚染源は何かというと、冬特有の大気の状態と人口活動の混合であるそうです。
人口活動では、10月を過ぎると野焼きの季節となり、固形ごみの焼却灰などが入り混じり、工事現場の粉塵や車の排ガスも含め、大気汚染の原因となります。
更に都市部における河川の汚染もインドでは深刻です。
生活排水量が増加するにもかかわらず、汚水発生量の約4割しか下水処理されていないそうです。
また廃棄物の河川への投棄も汚染の原因で、ゴミ処理の最終処分場は野積みが多いそうです。
自動車の保有台数が約5000万台に近づき、使用済車両の買い主や廃棄の課題も顕在化しており、マルチスズキは豊田通商等と共に、使用済車両の解体とリサイクルを行う合弁会社をニューデリー近郊に設立しました。
尚、ゴミ処理業で新風を巻き起こしている社会的企業としては、ネプラ・リソース・マネジメントが乾燥廃棄物処理の分野で存在する総出、廃品回収に従事するラグピッカーを組織化し、廃品処理を集中化することで、リサイクル品の回収と販売の効率を上げることにあるそうです。
独自のアプリケーションを開発し、携帯電話を通じた連絡システムにより、ラグピッカーは、その日の回収場所、廃品の量、活動時間などを同社に報告する体制になっています。
取り扱う乾燥廃棄物は、紙、プラステ一句、家庭用品、ゴミ袋、金属、セメントであり、回収元は企業や病院だそうです。
尚、回収する廃棄物は古紙とプラステイックが全体の9割を占めて、リサイクルが不可能なゴミはセメント工場で代替原燃料にしているそうです。
2019年時点で約500tに達し、ゴミは1㎏当たり平均6.5~9ルピーで買取、17~24ルピーで販売。
売上額は11億ルピーに達しているそうです。
また、ラグピッカーが回収したプラステイックをバッグや財布に再生して、欧米で販売しているコンザーブ・インデイアでは、プラスチック廃棄物をリサイクルし、自前の工場で革製品を製造、販売しているそうです。
⑰日本企業への期待
SDGsの達成に向け国際社会が協力し、時代の要請として、SDGsと企業経営を結びつける動きが本格化している中、本書で取り上げたインドの「インパクト企業」からは、日本企業への期待が頻繁に寄せられるそうです。
農産品の高付加価値化、商品の包装技術、竹細工のマーケテイング手法、プラスチック製品の再利用、作物の保存・運搬技術、電子医療カルテ、繊維の低コスト生産等、日本企業の優れた技術や経営手法を取り入れ、自社の事業に活用したいと望む経営者は多いそうです。
インドのインパクト企業に対する日本からの投資は少しずつ増えており、農村電化を行うオーエムシーパワーへの三井物産の投資や、ドリームインキュベータ―があります。
主な対象分野は、医療、健康管理、金融テクノロジー、物流、車両移動サービスなどが含まれるそうです。
また、例えば、社会的投資団体Arunはムンバイで家政婦派遣業を展開するブックマイバイに出資。
この会社は農村やスラム地区出身の女性に必要な訓練を施し、その労働の質を上げるとともに、働き先を斡旋する活動を行っているそうです。
Arunはこの会社に5万$の投資を実行したそうです。
また、医療機器のEコマースを行うメデイカバザールにも日経ベンチャーキャピタルのリバライトパートナーズに加え、凸版印刷、CBC、Elan、三井住友海上から17億円の投資を集めたそうです。
このメデイカバザールは、地方の病院を対象として最先端の医療機器、消耗品、その他サービス等30万点の製品をEコマースで取り扱い、病院の在庫管理及び仕入れの大幅な合理化を行っているそうです。
ちなみに、凸版印刷は医療機器の包材販売、CBCはCADツールを使った歯科向けのクラウン供給を企図しているそうです。
企業以外では、上智大学がインドのアービシュカールグループのファンドに投資を開始したそうです。
投資を通じた資金面での関わりに加え、日本企業が事業の主体として参画する余地も十分にあると松本さんは言います。
例えば、医療分野のコールドチェーンでは、コロナワクチンを農村で接種を行うために、適切な温度管理の下に運搬される必要がある、このコールドチェーンの確立に酸アックを検討しているのが、日本のITN社だそうです。
独自のアイスボックスを始めとする冷凍設備を備えた専用20tコンテナ等の製品を日本国内で販売しており、インドの鉄道運送会社大手コンコルにて実証実験が開始されているそうです。
また、有機性廃棄物の有効活用のために中間処理施設の拡充が必要で、農業用の肥料を創り出すコンポスト施設に関して、日本の三光が中部エコテックの急速発酵処理装置「コンポ」を用いて、投入から堆肥化まで約2週間で行う装置を提案しているそうです。
⑱私の所感-飛び込む覚悟を持てるか否か
先日投稿したスズキのインド戦略では、インド市場に進出するために、相当な期間と資金、人を投入し、結果として大成功したビジネス事例を紹介しました。
インドへの進出企業が1400社、中国の30,000社に比べて二重分の一しかない状況も踏まえると、商売が簡単ではないことが分かります。
「スズキのインド戦略」を読んで-文化の違いは競争力になる | すがわら あつし (ironman1977.com)
一方、中間層の台頭も含めて考えると、日本企業が資本力や技術といった優位性を持って、インドでの大きな展開を考えるとすれば、あまり時間は無いのかもしれません。
この本の帯のスズキ株式会社の鈴木 修さんの帯の言葉は、
「取り残された人々に成長の鍵がある。
インドの今が凝縮された一冊。
これからインド進出をお考えの方、必読の書」
とあります。
発刊は、2021年9月ですが、正に今インドで展開を考える方は読んでみると良いのではないでしょうか。