①マクロ経済が大きくなるところに金儲けのチャンスがあると考えていたが・・・
突然ですが、私は就職氷河期世代のど真ん中となる2000年に大学を卒業しました。
当時日本の経済は、金融も不動産もデフレが続き、企業の決算は赤字やら倒産やらが続き、決して明るい雰囲気ではなかったことを思い出します。
大学在籍中の1997年には、アジア通貨危機が勃発。
日本も投資していたタイ、インドネシア、マレーシア、韓国なども軒並み経済状況が悪化していったのを記憶しています。
私の父親は裁判官で、当時東京地裁の民事8部にて、会社更生法による個別企業再生事案にかかわる部長をしていましたが、あまりの企業再生案件の多さが故の過労により、53歳で亡くなりました。
その後、中国経済の伸びによって、当時入社した新日鐵(現日本製鉄)の業績も大きく改善し、自分自身も中国、更にはベトナムへの株式投資を十数年続けてきました。
途中リーマンショックも乗り越え、不動産の万科、医薬品の羅欣薬業、ゲームのテンセントなど、一時期儲けた時期もありましたが、10年単位で考える長期投資という観点では、大きな成果を出したとはとても言えない成績でした。
②転換点となった柳下 裕紀さんの個別企業投資分析
転換点となったのは、2023年6月から始めた本の書評(というより自分の気になった箇所のメモ)を通じて柳下 裕紀さんの「真のバリュー投資のための企業価値分析」に出会ったことでした。「真のバリュー投資のための企業価値分析」を読んで | すがわら あつし (ironman1977.com)
余談になりますが、商業出版の本を出そうとする著者は、まず優れた実績や考え方を持つ方が多く、何よりご自身の考え方を世の中に伝えたいという情熱があります。
また本の構成や編集を通じて、何度も推敲を重ねる中で、考え方が整理されるため、一冊読むだけでその思想や考え方を手っとりばやく理解することができます。
昨今は様々な業界、年代から、多くの優れた市井の人が異なる視点で本を出版していると感じます。
柳下さんは、長期投資をするに辺り、個別企業の価値を算定するに辺り、
①過去十数年のキャッシュフローを生み出す企業の財務状況を把握、
②投下資本に対してキャッシュフローが長期に渡り黒字であれば、その背景となる企業の「代替性が低く、高いマージンを得ることができる商品やサービス」は何になっているか。
言い換えると他の企業がそのビジネスに参入することを思いとどまらせるような障壁があるからこそ、フランチャイのバリュー=競争優位性があると想定し、その内容がどこから来ているのかを探ります。
以下は本の参照になりますが、
「日本のように長期的な需要総量が減少するなかでは、サイズの大きさが企業価値に結び付かない状況ですから、ROICを上昇させるためには、分母の投下資本をできる限り小型化し、企業価値創造の向上を考える必要がある」
「製品差別化の参入障壁には、ビジネスモデル、つまり、戦い方、勝ち方を掘り下げる思考がなければ、価値創造に繋がらない」
このキャッシュフローを確認し、競争優位性が将来にわたって持続するものか確認。
そして将来生み出されるであろうキャッシュフローと資本コストから、企業価値を算定し、それを柳下さんは個人投資家向けの講義で公開しています。
③ニッチトップという考え方
柳下さんの著書の中で、目から鱗だったのが、
「成長が高く、競争が激しい市場では、価格競争に巻き込まれる可能性が高くなり、価値を毀損しやすくなってしまうこともある。」
つまり、当該企業がかかわる市場・事業の成長性が高い場合、その企業が技術や製品や商品で参入障壁を築いていたとしても、他企業がそれを乗り越えて参入しようという可能性が、限りなく高くなってしまうことを指摘しています。
その反面、ニッチな市場、要するにマーケットが小さくて魅力があるように見えない。
特に大企業にとって獲得出来る市場サイズが企業規模に見合わない市場であれば参入してこない。
このような市場の中で、圧倒的な技術力・製品力、きめ細かく作りこんだ仕組みなどの差別化を図れた中小企業がトップシェアを取り、付加価値を享受できる素地がある。
この競争優位を目的として設計・構築される仕組みとして「価値創造のビジネスモデル」をどのように構築していっているかを個別企業毎に見ていくそうです。
④価値創造のビジネスモデル構築の検討は、自分の会社/事業でも活用できるはず
個別株式投資の観点でいえば、柳下さんが半年から一年に一度、ご自身のファンドでも投資・運用している個別企業につき、キャッシュフロー含めた財務分析、企業の沿革から価値創造のビジネスモデルまで丁寧に説明していただけます。
なんなら、ご自身の投資している銘柄TOP5については、会社HPで公開されています。投資運用関連 – Investment Management – | Aurea Lotus
運用を開始してから十数年で日本株累積151倍、アメリカ株累積48倍という圧倒的な実績も兼ねて毎月更新/報告していることから、その中で、自分が気に入った銘柄を柳下さんの講義で勉強し、投資するのが私のお勧めです。
現に、昨年秋から始めた私自身の投資では、レーザーテック、ローチェにも投資。あくまで暫定的な株価の推移ではありますが、半年で倍ぐらいになっているものもあります。
一方、これから取り組もうと考えているのが、自分が携わっている会社/事業の中で、参入障壁を作ることを意識しながら、事業の運営を作っていけないか模索するという視点です。
先日、柳下さんの「価値創造のビジネスモデル講座」に参加しました。
以下は彼女の講義の一部抜粋となります。
競争優位獲得を目的として、設計・構築される仕組みとして、製品の差別化のみならず、対象顧客のロイヤリテイ囲い込みに最適な仕組み作りをどうしているのか。
また、フランチャイズライセンスをどのように設定し、販路を拡大しているのか。
そしてその結果、主要な競合や業界標準に比べて模倣を困難にし、模倣されても優位を持続出来るところまで仕組化できているか。
このような観点で、日米で実際に柳下さんが投資運用している優れた企業事例を紹介しながら、説明します。
例えば、Keeper技研という車のレジンコーテイングの専門業者のビジネスモデルが事例で紹介されていました。
Coating技術にて従来のガラスコーテイングからレジン被膜(特許取得済)による施工期間の圧倒的な削減(数日~数週間→3時間)。
及びガラスコーテイングに比べ、施工簡易化といった技術優位性があります。
しかし大事なのはその技術優位性だけではなく、
①HV車の拡大/人口減少等ガソリンの需要減に伴い、ガソリンスタンドがアフターケアにて集客/客単価アップといったニーズの高まりに対して、Keeper Proshopでのコーテイング講座を外部に無料で提供。
技能検定試験を受けることで、ガソリンスタンドもKeeper技術認定店として指定。
その結果、Keeper製品の販路の大幅な拡大を達成したこと。
②更に、近年の車所有期間の増大によるコーテイングニーズの高まりにより、中古車のみならず新車におけるレジンコーテイング参入が図れたこと、
③更には新車施工(平日対応中心)、中古車施工(休日対応中心)といったように施工ニーズの日時が重ならないことから、従業員が効率的に作業する事が出来るといった生産性を高めることにもつながったそうです。
纏めると、競合他社に優位に立つ技術面での価値創造の仕組に加えて、販売体制の拡大、新車市場への参入等、バリューチェーン(サプライチェーン、価格、コストなどの要素の積み上げ)を作ったことで価値創造のビジネスモデルを作ったことを挙げていました。
⑤価値創造に繋がるビジネスモデル7つ
柳下さんは、価値創造するビジネスモデルケースとして、
①対象市場定義型、
②専門家モデル、
③アズ・ア・サービス、
④レイヤーマスター、
⑤SPA、
⑥エコシステム、
⑦顧客のコミュニテイ化
に区分けしています。
その目的として、
1.どの参入障壁を継続的に強化し、フランチャイズバリュー創造に繋げているか、
2.ビジネスモデルと打ち出している戦略の整合性は取れているか、
3.不と非の解消ができているか、
4.顧客のロイヤリティを囲い込めているか?
5.全体最適の業務プロセスを構築できているか
といった観点で見ていくのだそうです。
私が携わる事業に関連するところでいえば、アズ・ア・サービスとして、従来製品が提供する機能をサービスとして提供することで、複数顧客間で設備や製品を共通化させること。
適切に保守した中古品を使うなど、製品の非稼働時間を極小化し、顧客の時間による使用変動を吸収し、稼働率を上昇。
設計に精通したメーカーが純正部品を使って保守で製品長寿命化を図り、顧客ロイヤリテイを囲い込む。
このことで、製品の競合との価格競争から離脱することや顧客が得る価値を基準に価格許容性を持つことで収益性をあげやすくなる
といったメリットがあることを挙げています。
一方でアズ・ア・サービスは、手離れが悪いビジネスとなることから、顧客管理のための内部体制構築が必要となる。
また、企業文化を製品軸から顧客軸へと価値観を移す必要があることも述べています。
また、昨今特に大切となっているエコシステムについては、ネットワークにおけるレイヤーの価値が相互に好循環を生むビジネスモデルとして紹介しています。
複数の企業の提供価値が合成され、一体として全体の合成された提供価値が外部に対して競争優位性を持つことをいうそうです。
その結果、顧客のロイヤリテイ強化に向けて
①当初の商品・製品・サービスに特性や差別化の要因を付け加えること、
②商品の陳腐化を防ぎ、仕組みによって購買頻度を高めること、
③提供サービスの範囲を広げるとともに複雑化し、顧客満足度を上げること
などを挙げています。
特に将来FCFを生む投資は、確実に価値創出に結び付くものにする必要性があり、自らの投下資本は出来る限り極小化する一方、顧客ロイヤリテイを囲い込むためのネットワークでエコシステムを作りこむことが価値創造を極大化するカギになっていると指摘しています。
⑥自らの所感
良い製品を自社で作れば、売れる。
兎に角コストダウンさえ図り、規模を売れば、勝てる。
入札制度を遵守せざるを得ないからそれ以上の工夫はない。
そんな業界の従来の考え方が根底から覆される考え方と、そして圧倒的な優れた事例の紹介をセミナーで勉強できました。
競争優位のあるビジネスを作り出すのは、技術だけではなく、ビジネスサイドも非常に大切であること。
またエコシステムについても広く考えることで、より競争優位性を作れるかもしれない。
私はこの先10年、自分が携わるビジネスも株式投資(といっても、こちらは柳下さんの投資する銘柄のフォローになってしまう気がしますが)も面白くなると、ワクワクしています。
良かったら、彼女ののセミナーを一度聞かれてはどうかと思います。
(今の時代は数千円出せば、いつでもどこでも彼女の講義動画視聴も出来る時代です)