海外の法人営業にとって、何が一番大切なのか。
それは、如何にターゲットとなる優良顧客を早めに見つけ、ターゲットを絞り、関係性を深めていくのか。
その為には、まず市場調査、国ごとの比較、更に地域別の状況まで把握していくことが肝要という話をしました。
今回は、優良顧客をどのように見つけていくのかについて、私が携わった鉄鋼プラントの営業を通じて、紹介していきます。
大事なことは、
➀顧客との対話のみならず、その顧客が関わる関係者からのヒアリング、裏取りによって、事実を常に把握しようと心がけること、
②常に一つの顧客、プロジェクトのみを追いかけるのではなく、複数の顧客にコンタクトすることで、自らの視点、市場/顧客の事業の見方を養っていくことです。
1.顧客リストの作成、面談及び更新
まずは、自社の対象商品を保有する顧客リストを作成し、顧客に直接ヒアリングしていきます。
ここで大事なのは、例えば業界1-5位など、市場を網羅すること、またヒアリングの際、客先の商売がうまく行っているのか、課題は何かを掴んでいくことです。
例えば、2010年代前半のベトナムでは、
➀アメリカの輸入制限による中国/韓国/台湾に代わる輸出代替基地として、ベトナムが輸出向けメッキ鋼板市場に向けた大幅な設備投資をしていたこと
②鉄鋼会社の顧客となる建材加工会社が自らメッキ鋼板ラインにて鋼板を製造し、その後の屋根壁材の加工まで一貫して対応することで、ベトナム国内の商売を拡大するといった流れが出来ていたこと
が特筆する市場の特性でした。
そこで、例えば、経営者に経営で何を重視しているのかを確認することによって、その会社が➀と②のどちらの事業を伸ばそうとしているのか、そこに自社の商品を売り込む機会があるかが分かります。
当時、当社商品となるプラント設備から生産されるメッキ鋼板の品質が高いことを売り文句としていた我々の立場からすると、➀を狙う企業を把握し、売り込むことが大切でした。
その際、➀の対象顧客がアメリカなどに輸出するにも、原材料の調達、商品の輸出を通じて、日系の鋼材商社などへアプローチしています。
そこで、客先だけではなく、そのような商社にもヒアリングし、各会社の販売/材料購入/経営者/商品の評判を確認することで、顧客が直接我々には語らない各会社の企業像が見えてきます。
このように、常にターゲットとなり得る顧客に複数アプローチすること、またその周辺情報を継続的に調査することで、市場動向を把握することができてきます。
2.儲かっている企業にしか設備投資は出来ない。
当時ベトナムでは、市場の拡大に伴い、メッキ鋼板用の生産ラインの投資が起こっていました。
一方、インドネシアでは、鉄鋼市場は拡大しており、設備投資計画はあるものの、何年間も同様の投資は実行されていませんでした。
インドネシアのメッキ鋼板ラインを生産する各会社を回っていくにつれ、鉄鋼会社が十分な販売、利益を上げていない状況が分かってきます。
一方、市場はインドネシア国内の需要を中心として、拡大していること、更に政府が輸入制限策を取り、自国生産に有利な状況が広がっているのは間違いはありません。
この状況を打破する企業はどういった会社なのか。
私は、鉄鋼会社の先にある顧客となるインドネシアの建材加工会社 第1位から第5位についても調査することにしました。
つまりは、「ベトナムで起こったような、建材加工会社が原材料となるメッキ鋼板の生産ラインへの投資を進めるのではないか。」という仮説です。
仮説は当たりました。
➀建材加工会社 第1位から第3位は、インドネシアの各島々の市場を寡占していたこと、またその価格と原材料購入価格との差があり、十分に儲けていました。
②更に、供給されるメッキ鋼板の安定的な調達に不満を抱えており、ライン建設のニーズが十分にあったのです。
2012年から2018年に掛けて、私がインドネシアで3案件建材用メッキ鋼板ラインを受注し、結果その3ラインの投資が同国で新設されたメッキ鋼板ライン全てでした。
「顧客の顧客」による生産ライン投資計画を先行して把握し、客先との投資検討業務を圧倒的に先行したことで、受注に至ったというものです。
3.纏め
➀海外における市場調査を行うにあたっては、まずターゲットとなる顧客リストを作り、顧客及び周りの関係者から周辺情報を集めることが重要です。
②その過程の中で、市場のトレンドを把握し、時流にあった商売をしている顧客は誰なのか、自社製品のニーズに合った顧客を探し出す必要があります。
③特に、儲かっていない顧客にアプローチしても無駄で、他国の事例も踏まえながら、場合によっては、顧客のその次の産業界の顧客動向も把握することで、投資をする余力のある顧客を見つけるが大切です。
この一連の過程で、優良顧客を一番に探し当て、ターゲット化してアプローチすることで、競合他社との比較をそれほどされずに、受注に向けて優位な交渉が出来る例を示しました。
海外の法人営業の一つの成功事例としてみて頂ければと思います。