海外大型案件は「契約直前」が一番難しい――顧客の最後の迷いを消す営業

海外の大型設備案件では、契約交渉が最終局面に入ったからといって、営業の仕事が終わるわけではありません。

むしろ私は、契約直前こそ、顧客の意思決定が最も揺れる時期だと考えていました。

それまで何度も打ち合わせを重ね、仕様を決め、価格を詰め、契約条件を交渉してきたとしても、いざ契約書にサインする段階になると、顧客の頭には改めて様々な不安が浮かんできます。

「本当にこの会社から設備を買って大丈夫なのか」

「本当にこの設備は予定通り動くのか」

「設備そのものは良くても、部品の品質が悪く、メンテナンス費用が高くなるのではないか」

「他社の方が、実はもっと良い条件を出してくれるのではないか」

数十億円、場合によってはそれ以上の投資を決断する顧客にとって、設備購入は一世一代の判断です。

営業側からすれば「ここまで話が進んでいるのだから、もう決まった」と思いたくなるところですが、私はむしろここからが最後の勝負だと考えていました。

契約直前に顧客が迷うのは当然

大型設備を購入するということは、単に商品を買うこととは違います。

設備が稼働しなければ事業そのものが成立しません。

さらに、設備を導入した後も、

  • 安定して稼働するのか
  • 部品は長期間供給されるのか
  • 故障した場合に対応してもらえるのか
  • 据付工事は問題なく進むのか
  • メンテナンス費用は想定内に収まるのか
  • 将来の生産量拡大にも対応できるのか

といった問題が続きます。

つまり顧客は、設備そのものだけではなく、設備を導入した後の何年間もの事業リスクまで背負うことになります。

だからこそ、契約直前に改めて不安になり、競合他社に見積りを取り直したり、別の設備メーカーを調べたり、サービス条件を見直したりする。

私は、それを「顧客の心変わり」と捉えるのではなく、最終意思決定をするために必要な確認作業だと考えていました。

ベトナムの既存顧客を「ショールーム」にする

実際に私が行っていたのが、既存顧客の設備を見てもらうことです。

インドネシアの顧客との商談が最終局面に入った際には、既に設備を導入していたベトナムの顧客との関係を維持し、そのラインを実際に見学してもらう機会を作りました。

カタログや営業資料で、

「この設備は問題なく稼働します」

と説明することはできます。

しかし、顧客自身が実際に稼働している設備を見ることには、それ以上の説得力があります。

設備が動いている。

実際に製品が生産されている。

既存顧客がその設備を使って事業を行っている。

そして、設備を導入した顧客から直接話を聞くことができる。

これは営業担当者が説明するよりも、はるかに強い安心材料になります。

ただし、既存顧客にとっては、自分たちの設備を競合になり得る企業に見せることになるため、当然ながら簡単なことではありません。

だからこそ、案件が始まってから急に「見学させてください」とお願いするのではなく、普段から顧客との関係を維持し、長期的な信頼関係を作っておくことが重要でした。

中国のサプライヤーを3,000~5,000km移動して確認する

もう一つ、顧客の不安を取り除くために行ったことがあります。

設備に使われる中国製の部品や設備について、顧客自身が品質を確認したいという要望がありました。

そこで、中国国内の7~8社ほどの設備・部品メーカーを実際に訪問しました。

移動距離は合計すると3,000~5,000kmにもなりました。

これは、単に「中国製でも大丈夫です」と説明するための訪問ではありません。

顧客自身が、

「このメーカーなら大丈夫だ」

「この部品なら問題ない」

「このサプライヤーなら長期的に付き合える」

と納得するためのプロセスです。

営業としては、顧客の不安をこちらの言葉だけで消そうとするのではなく、顧客自身が確認して判断できる環境を作ることが重要だと考えていました。

大事なのは「契約直前に空白期間を作らない」こと

そして、私が大型案件のクロージングで特に意識していたのが、

契約直前に空白期間を作らないこと

です。

大型案件では、顧客が迷っている間に営業側から連絡がなくなると、その時間に顧客は様々なことを考えます。

競合他社に相談する。

別のメーカーから見積りを取る。

据付サービスについて別の条件を要求する。

価格をもう一度見直す。

社内の意思決定者から新しい質問が出てくる。

つまり、営業側が何もしていない時間にも、顧客の意思決定は進んでいきます。

だから私は、契約直前ほど定期的に顧客とのアポイントが入っている状態を作るようにしていました。

「何かありませんか?」

と聞くだけではありません。

顧客が今どこで悩んでいるのかを聞き、その課題に対して社内で対応し、次の回答を持っていく。

その繰り返しです。

顧客から新しい要望が出れば、それを社内に持ち帰る。

社内で対応方針を決める。

そして、できるだけ早く顧客に返す。

この繰り返しによって、顧客の頭の中にある不安を一つずつ減らしていきます。

現地にいなくても、社内決裁を止めない

現在ほどWeb会議が一般的ではなかった時代もありましたが、私は海外出張中でも社内との情報連携をできるだけ止めないようにしていました。

顧客との打ち合わせを終えたら、その内容を社内に伝える。

対応方針が必要なら、社内で決裁を進める。

必要であればWeb会議なども活用し、現地にいながら日本側の判断を進める。

海外案件では、顧客との距離だけでなく、日本の社内との距離も大きな問題になります。

そのため、「現地にいるから社内対応が遅れる」という状態を作らないことも、クロージングでは重要でした。

価格交渉でも「情報のタイムリーな共有」が効いてくる

価格交渉でも同じです。

私は価格ネゴの際、会社として決裁できる金額の範囲を意識しながら、できるだけ高い金額を取ることを考えていました。

一方で、顧客との交渉状況や相手の反応については、社内にできるだけタイムリーに情報を入れていました。

会社としても、

「この案件は何としても取りたい」

という認識が共有されていました。

そのため、最終局面では「余計なネゴを繰り返すより、早く決めろ」という社内からの指示が出ることもありました。

これは単に価格を下げたという話ではありません。

顧客との交渉状況を社内が正確に理解し、どこまで交渉し、どのタイミングで決めるのかを判断できる状態を作っていたということです。

営業担当者だけが顧客との交渉状況を抱えてしまうと、最後の判断が遅れます。

大型案件ほど、顧客との交渉と同時に、社内の意思決定も前に進めておく必要があります。

「特命受注」でも、最後まで競争は終わっていない

結果として、これらの案件は最終的に特命での受注につながりました。

しかし、だからといって最後まで競争がなかったわけではありません。

顧客側では、競合他社から見積りを取ったり、より手厚い据付サービスを要求したり、別の選択肢を検討したりしていました。

これは当然のことだと思います。

顧客にとっては大きな投資です。

最後の最後まで、

「本当にこの会社に任せていいのか」

を確認するのは当然です。

営業側が「もう決まった」と思った瞬間に、顧客の意思決定は逆に動き始めることすらあります。

だから私は、特命になったから安心するのではなく、契約書にサインされる瞬間まで営業活動を続けることを意識していました。

クロージングとは「押し切ること」ではない

大型案件のクロージングというと、最後に価格を下げたり、強く契約を迫ったりするイメージがあるかもしれません。

しかし、私が経験してきた海外大型設備案件では、むしろ逆でした。

重要なのは、

顧客が最後に迷うことを前提として、その迷いに付き合い続けること。

そして、

顧客が不安を感じた瞬間に、できるだけ早く対応すること。

そのためには、

  • 顧客の要望を最後まで聞く
  • 実際に稼働している既存設備を見てもらう
  • 必要ならサプライヤーまで一緒に確認する
  • 契約直前に空白期間を作らない
  • 顧客との打ち合わせを定期的に設定する
  • 社内にも情報をタイムリーに共有する
  • 現地にいても社内決裁を止めない
  • 価格だけではなく、据付やアフターサービスまで含めて不安を解消する

こうした一つ一つの積み重ねが、最後の意思決定につながります。

大型案件の営業では、「最後にどう売るか」よりも、顧客が最後に迷ったときに、どれだけ逃げずに付き合えるかの方が重要なのかもしれません。

契約書にサインされる瞬間まで、営業は終わっていません。

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本記事で紹介した考え方は、海外大型案件を発掘・形成し、受注につなげる営業プロセスの一部です。市場分析、顧客開拓、交渉、案件管理など、これまでの経験を体系的にまとめています。

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