第1作、第2作が好評だったのか、本編もPHP文庫から出版されました。
日本全国を回った事や各地の地形を勉強されているため、推理小説のような読み物として面白い内容になっており、私がインフラに関連する仕事に携わっていることもあり、すべて紹介しています。
第1章 なぜ信長は「安土の小島」に壮大な城を築いたか
第2章 なぜ「日本の稲作文明」は湿地帯を克服できたか
第3章 なぜ家康は「街道筋の駿府」を終の棲家に選んだか
第4章 なぜ世界一の「リサイクル都市」江戸に崩壊したか
第5章 なぜ日本列島は「生きたリン鉱脈」の宝庫なのか
第6章 なぜ江戸城の「天守閣」は再建されなかったか
第7章 なぜ勝海舟は「治水と堤防」で明治新政府に怒ったか
第8章 なぜ正倉院の「神秘の宝物」は盗掘されなかったか
第9章 なぜ江戸時代には、車の動力が「人間」に退化したか
第10章なぜ9歳の本因坊秀策は「東海道を一人旅」できたか
第11章なぜ京都が日本の「線路誕生の地」となったか
第12章なぜ大阪の街は「五・十日」渋滞が名物なのか
第13章なぜ大阪は日本の「都市の原点」であり続けるか
第14章なぜ「間引きされた地図」は伝える力を高めるか
第15章なぜ「世界屈指の雪国」で高度文明が創られたか
第16章なぜ日本文明は「海面上昇」でも存続できるか
第17章なぜ日本語は「分裂」せず、現代まで生き残ったか
第18章なぜ日本は「100年後の未来」にも希望があるか
➀なぜ「日本の稲作文明」は湿地帯を克服できたか
筆者は、旧建設省にて「治水は洪水被害など、人々の生命と財産を守る」と教えられてきたが、石狩川の蛇行のショートカット工事を通じて、治水とは湿地帯を克服して、穀倉地帯を造る国土への働きかけであり、豊かさを求める攻撃であったと結論づけています。
その一つの事例に新潟平野を上げています。
新潟平野には、長野県から信濃川、福島県から阿賀野川が流れ込み、甚大な洪水被害を繰り返し受けていたそうです。
江戸時代、新潟平野の領主は長岡藩、新発田藩、村上藩に分割され治められており、新潟平野全体を見渡した抜本的な治水工事が行われることがなかったこと。
1843年にようやく江戸幕府による直轄地となりましたが、既に全国各藩にお手伝い普請を命令する力を失っており、明治政府に引き継がれた後も、なかなか分水路の建設が着手されなかったそうです。
しかし、大正末期になり、ようやく信濃川から大河内分水路が建設。
一方、新潟市内で工業化に向けた水溶性天然ガスを得るために地下水をくみ上げたことにより、地盤沈下が進行。
海抜ゼロメートル地帯となり、雨のたびに浸水したそうです。
そこで、信濃川の洪水を日本海へ直接放つもう一本の分水路、関屋分水路が1972年に竣工。
その結果、湿地帯の沼に浸かっての田植え作業もなくなり、乾田化することで、日本海側最大の都市新潟を誕生させていったそうです。
②なぜ日本列島は「生きたリン鉱脈」の宝庫なのか
竹村さんが考える日本列島の土地から離れられない産業、農業、林業、漁業、観光、そして人的サービスを考える際、ここで上げた産業が持続可能であるかという視点でみるそうです。
その際、カリやチッソは堆肥でなんとかなるが、従来リン鉱石による化学肥料の補給が大切になるのだそうです。
実は小麦や大麦など大地を疲弊させる穀物の大量生産にとって、化学肥料は必要不可欠だが、その化学肥料の原料のリン鉱石については、20世紀末に米国がリン鉱石の輸出を止めてしまったそうです。
リン鉱石とは古代の鳥の糞の化石だそうで、現在世界最大の埋蔵量とされる中国もリン鉱石の輸出に大幅な関税を掛けるようになったそうです。
筆者が言うには、リン鉱石は21世紀中には間違いなく枯渇してしまうようで、世界的な穀物ひっ迫が襲い掛かってくると予測しています。
一方、日本列島は、世界の渡り鳥ルートマップが地球上で最もクロスするのが、日本列島であり、生きたリン鉱脈になりうるそうです。
実は、かつてあった渡り鳥の生息地が国内に150か所程あったそうですが、干潟の埋立により、現在では50か所以下に減少してしまったそうです。
一方、江戸時代は、冬に田んぼに水を張ることで、渡り鳥が生息でき、宮城県の伊豆沼付近の水を張った田んぼには、渡り鳥がやってくるようになったそうです。
60年前まで自分たちの排泄物を肥料として漬かっていた日本人は、干潟や湿地の保全、冬水田んぼの整備、そして下水道の肥料工場への変身によって、食糧自給に繋がっていくというのが筆者の主張です。
③なぜ大阪は日本の「都市の原点」であり続けるか
日本の三大都市圏を比べてみると、1㎞2あたりの人口密度は、関東平野が2,108人/㎞2、濃尾平野が2,398人/㎞2に対して、大阪平野は6,797人/㎞2とはるかに大きいそうです。
つまり、東京の郊外には、関東平野が、名古屋の郊外には三河平野と濃尾平野が広がっているのに対して、大阪は背後の産地と前面の海に囲まれた狭い平野であり、この狭い空間でひしめき合い、重層的に生き抜いてきた。
延々2㎞以上もある日本一の天神橋筋商店街はじめ、市内どこでも大小さまざまな商店街と出会う。
建築基準に合った新しい商店街の道幅は最低4mあるが、昔からの商店街は2-3m程度の狭い路地が多い。
大阪のコミュニテイに参加するのはいともたやすいそうで、総菜、あてで夕食のおかずをかい、戦闘でビールを飲みながら阪神タイガースのテレビ中継を見る。
帰りに商店街のスナックで2曲歌って帰れば、半年もすれば大阪弁をしゃべらない人間も大阪人として受け入れてくれるそうです。
新世界の横のジャンジャン横丁なども、一杯飲み屋、持つ鍋屋、ゲームセンター、雀荘、将棋、碁会所があり、人が詰まっている。
近代都市は人の皮膚感覚を排除する方向に向かい、ワシントンDCなどは人々がすれ違う時に絶対に身体を触れさせないという強い意志が働いている一方、大阪は町の路地を全部広くせず、人と人が触れる路地を残せという考え方に寄っているそうです。
④なぜ「世界屈指の雪国」で高度文明が創られたか
ある映画監督が「アフリカ大陸の奥地で、裸で生活している人たちの頭脳の良さはすごい」と感じ、筆者に話したそうです。
そこに住む人たちは、その地形と気象の中で最も良く生きており、懸命に生きているものです。
日本人にも特徴的なものがあり、海外の人が日本に観光できた際、特急列車の「回転する椅子」「タクシーの自動ドア」「トイレの自動水洗便座」「全自動麻雀卓」など、驚くものが沢山あると感じるようです。
では、何故日本人はロボット好きなのか。
筆者は日本が島の地形と雪が降る気象から、他の文明圏の人々が1年を通じて外で活動していたのに対して、日本がいくつもの海峡で分かれた列島で、人々が住む地域は山々によって区切られていること。
そして海峡と山々に分断された日本では、雪が降るので南に異動しようにも移動することが出来なかった。
この列島地形と雪によって閉じこもりを強いられた日本人が独特の民族性を形成していったのではないかという推察しています。
たった3分間という時間に詰め込んだ食品「カップラーメン」
多くの演奏家と音楽堂をも詰め込んだ「カラオケボックス」
日本人はジーと物を凝視し、細工して詰め込んでいく。
この日本人が生み出した「詰め込み製品」が価値を次々と負荷していくことになり、日本の付加価値の高い工業製品が世界の人々の心を掴んでいったという仮説を持っているそうです。
この縮小循環系の文明は日本人が得意な分野であり、21世紀の人類には、資源の枯渇と地球環境の悪化と激変が待ち受けている中、日本の縮小と循環文明のモデルを創り、心行くまでモノを見つめ、モノを縮小する性向を発揮していけば良いと筆者は考えているそうです。
⑤なぜ日本文明は「海面上昇」でも存続できるか
スピルバーグ監督の「A.I」という映画では、自由の女神の右腕以外が海中に没しているシーンが出てくる。
数千年間で約70mの海面上昇があったという想定となるが、南極とグリーンランドの氷床がすべて解けると海面は70m上昇するそうです。
また、水は4℃のときが最も体積が小さく、水の温度が上昇すると膨張して体積が大きくなるそうです。
筆者の試算では、海洋が平均4度上昇するとして、海洋水の体積膨張を試算したところ、海面上昇は約4mとなる。
グリーンランドの氷床の融解、南極西部の氷床の融解を足すと1000年後に海面が10m近く上昇するというのは、あながちおかしな数字ではないそうです。
実は、直近で一番高く海面が上昇したのは、,約6000年前。
縄文海進時期には、現在より海面が5-7m高かったそうです。
その縄文海進期が終わり、気温が下がりだして日本の平野部が出てきた。
では、縄文海進期の気温は今よりどのくらい高かったのか。
実は平均で2℃しか高くなかったそうです。
今後100年で気温は5-6℃上昇すると予測されており、それによって海水が温められるには、何百年、何千年とタイムラグはあるが、海水温上昇と海面上昇は間違いなく起きるそうです。
では、そのように海面上昇が起こった場合の日本列島をシミュレーションした場合、海面上昇が5mであれ、10mであれ、30mであれ、日本の平野部は海面の下になってしまい、丘陵や山岳地帯が残ることになるそうです。
それでも、他の海洋諸国に比べ、丘陵や山岳地帯に救われる分、日本はマシという発想です。
尚、過去100年間で気温は0.5~0.6℃上昇に対して、海面は10-25㎝上昇したと言われているそうです。
本来海水の温度上昇は何百年単位にもかかわらず既に起こっている。その理由を著者は原子力、火力発電による冷却水放出にあるのではないかと推定しています。
原子力発電所の冷却水は海から取水された後、7℃温められて排出される。
原発の場合発電電力量10万kw辺り約2万2000m③の温水が配水されることになり、日本全国では680億m3、利根川の年間総流出量が約100億m3のため、約7倍。
世界でみると56倍の水量となるそうです。
更に火力発電も加えると、日本全国で利根川の約9倍、世界では117倍の量が毎年7℃温められ、海に排出されていることとなる。
過去の気温の変化を見ると、約2万年前のウイスコンシン氷期から約6000年前の縄文海進期まで約1万4000年の間で約8℃の気温が上昇。
つまり1℃上昇するのに平均1700年間掛かっているのに対して、現在進行が始まった温暖化は今後100年間で3-5度上昇する。
原子力発電や火力発電により、電気に支えられているが、その行為が温暖化と海面上昇をもたらし、現代文明の撤退を準備させていると筆者は考えているそうです。
⑥なぜ日本は「100年後の未来」にも希望があるか
20世紀が石油石炭の化石エネルギーの世紀であり、豊富で安価な化石エネルギーを前提にしていたのに対して、その石油は21世紀の中ごろにピークを迎え、減少傾向に入っていく。
ピークを迎えれば価格は急激に高騰していく。
石炭もあと300年ほど存在するが、地球環境を考えると、このまま燃やし続けられるとは思えない。
そのような未来には、化石燃料からの脱却であり、太陽エネルギーと水素エネルギー社会の構築。
石油資源にまだ余裕がある今、次世代の水素エネルギー社会の準備をすることで、化石エネルギーの消費による余剰利益で、究極のクリーンエネルギー文明を次世代に残していく責任があるといいます。
水素燃料の原材料は水であり、大きな川や小さな川でも水力発電を行い、その電機で水を分解し、水素を取り出し、貯蔵、供給する施設を整備する。
この水素燃料が自動車に貢献するだけではなく、未来の電気製品が水素の燃料電池となっていく。
また、人口減少についていえば、日本が明治以降急激に増えた人口増加から、2100年には70百万人に減っていくこと。
世界の人口膨張は日本が過去100年間で経験したことを地球規模で繰り返そうとしており、地球のエネルギー資源は減少し、地球温暖化により気象は狂暴化し、世界各地で食料不足が発生していくことから、日本の人口減少は良い事という意識に立つべきだと筆者は言います。
100年後の気象は、地球温暖化で気温は3~5℃上昇している。
これは20万年前に現生人類が誕生して以来、初めて経験する暑い気候となる。
推定では集中豪雨と大干ばつが交互に襲ってくる。
日本列島から雪が焼失し、海面は次第に上昇し、それが加速していく。旱魃により穀物が不足し、輸入穀物も食料も高騰している。
原油の大量輸入は途絶え、ウランを含め殆どの鉱物資源は枯渇している。
その中で、必要な社会基盤は以下だと筆者は言います。
狂暴な気象変動の中での安全インフラ。
世界的食糧不足の中での食料自給インフラ。
各地が連携し、日本列島が有機体として生きていく交流ネットワークインフラ。
究極のクリーンエネルギー水素燃料インフラとそれを支える水力インフラ。
物質資源の枯渇に対する循環社会インフラと新素材の開発なんだそうです。
更に、これから少なくなる人口で高度で複雑な文明を維持するためには高齢者と女性の社会参加が不可欠となる。
その際、2000年初頭の段階でも、米国やドイツ、韓国に比べ、日本の産業用ロボットの稼働率は桁違いに多く、100年後の日本でも、移民の存在を前提とはせず、各産業の大部分が機械化、ロボット化されていると想定されるようです。
一方、人々は人と人がサービスを交換する分野におり、芸術、工芸、情報、学術、研究、福祉、健康、医療、バイオ、料理、音楽、演劇、アニメ、スポーツ、教育、ボランテイアなどを挙げています。
これらの分野には年齢と性別で差別される肉体的な障壁はないことから、ジェンダーフリー、エイジフリーの社会になっていくと想定しているそうです。
⑦自分の所感
三部作の最終版だけあって、最後は竹村さんの思いがしっかり詰まった話になっていました。
とかく人は、今ある社会を前提として考えがちですが、今後エネルギーの枯渇、気候変動といった世の中が激変することを理解した上で、これまでの常識だった発想を変えていく必要があることを良く理解しました。
その意味では、先の菅政権のカーボンニュートラル宣言によるCO2削減、それもテーマとしてあるとしても、究極的にはやはりエネルギー/食料自給の問題をどうするかというテーマが一番のポイントであることがよくわかりました。
この方の本、凄く面白いですので、読んでみるとよいと思います。
