本日は、佐々木融さん著作日系BP、日本経済新聞出版「インフレ・円安・ばらまき・国富流出」を紹介します。
日本では円安/インフレが進んでいますね。
私が保有する日本株でも、外需で稼いでいる会社の株は、上がり続け、内需を中心に業績は成長している会社でも株価は下落しています。
一つの流れであって、どの企業もいずれ業績に株価が連動するようになるとは思うものの、最近の傾向となる円安/インフレの流れは変わっていないように見えます。
この背景にあるものは何か。
かつて円高に苦しんでいた日本がこの十数年でどのように変わったかを理解しようと思い、この本を手に取りました。
著書の佐々木さんは、過去「弱い日本の強い円」という本を出版され、日本経済は弱いのに何ぜ円が強くなるのかを為替相場の基礎知識と共に解説されたそうです。
一方、本書では、強かった円がなぜ弱くなってしまったのかという構造変化を中心に解説しています。
現在の「超円安」は「日本の失われた30年の産物」であり、このままの状態に大きな変化がなければ、このまま円安傾向が続く。
「円」という紙切れは、今、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際に経っているような気がする。
佐々木さんの感覚では、「時すでに遅し」と思っているそうですが、本書を書くことで、少しでも多くの人がそれに備えることができればと思っているそうです。
目次
第一章 お金、投資、マーケットのそもそも
第二章 なぜ円はこれほどまでに弱くなったのか
第三章 日本政府の借金はなにが問題なのか
第四章 マイナスの実質金利から抜け出せない円
第五章 止められない日本からの資金流出
第六章 「失われた30年」は、なぜ失われたのか-取り戻すために必要なこと
①お金は物々交換の代わりでしかない
「お金」とは何か。
ある人は、「命の次に大切」という。
しかし、お金は本来、物々交換の不便さを解消するために生まれた「橋渡し役」にすぎない。
では、なぜ人はお金が「命の次に大切」と感じるのか。
それは、「お金が自分の努力や経験を通じて積み上げてきた価値を保存しているから」。
そして「自分が積み上げてきた価値」とは、あなたが日々の労働を通じて生み出してきたものだからだそうです。
つまり、「お金という橋渡し役そのもの自体」には本来価値はなく、ある日突然みんながその橋渡し役のモノに価値がないと思い始めたら、価値がなくなるそうです。
その場合、その橋渡し役のモノによって「積み上げてきた価値」もなくなることになるため、その橋渡し役のモノの価値を維持することが大事なんだそうです。
「お金」という橋渡し役のモノの価値を維持するために必要なことは、そのモノが無制限に増えないことが重要です。
また、消費者物価指数は、2022年4月移行、+2%を上回って推移していますが、この物価上昇(インフレ)とは、「お金の価値が下がること」です。
モノやサービスの価格が上昇するのはなぜか。
一つは需要が強い時。
モノやサービスに対する需要が供給よりも強ければ価格は上がる。
二つ目は供給側のコストが上昇した時。
原材料価格や人件費の上昇分などが価格に転嫁されることで価格が上昇する。
更に、もっともパワフルな影響を与えるのが、お金の量を増やした場合があります。
例えば、目の前に何もしていないのにもらえた1万円札の価値は低いので、対して欲しいと思っていないモノを買ってしまうかもしれない。
つまり物価の上昇はお札(通貨)の価値が下落することによって生じる。
例えば、国債を大量発行して、すべて日銀に購入させて、国民一人に毎月100万円ずつ配ると約束すれば、あっという間にハイパーインフレになります。
2025年は日経平均株価が急上昇した。
株価は「利益」×「倍率」で決まる。
ある企業がどのくらいの利益を上げて、それが何年続くか(倍率)と市場参加者が予想するかで決まる。
1980年代後半のバブルの頃の株価上昇は「倍率」が大きく上昇した。
企業の高収益がいつまでも続くという市場参加者の期待が大きすぎた。
一方、最近の株価上昇は「利益」の増加が主な要因となっている。
この企業の利益が増加しているのが、主にインフレと円安が背景だと佐々木さんは分析しています。
日本の大企業は海外で稼ぐ外貨建ての利益が大きいため、円安になると円建ての利益が膨らむ。
また、インフレになると売上高も費用も数字が膨らむが、利益も膨らむ。
佐々木さんの見立てでは、今後、円安傾向は続き、更に日本の人手不足からインフレも高止まりが続く要因があるため、円安、インフレが続き、日本企業の円建ての利益が膨らむ。
実質的な成長がなくても通貨の価値が下落し、名目値が膨らむだけで株価は上昇する。
トルコの主要株価指数は5年間が7.2倍、一方通貨は70%下落になったそうです。
また、日本円のみならず、米ドルも含め、金価格などは急上昇しています。
従来世界の政府や中央銀行が通貨を発行し始めた最初のころは、通貨の価値を金と紐づけている国があった。
「金本位制」の国の通貨の価値は長期間安定する。
一方、経済が発展するにしたがって、保有する金以外の通貨を発行する必要が出てきた。
その結果、金の裏付けがなくても発行できる紙切れをお金として使うようになったが、その価値を安定させるため、通貨の発行は中央銀行によって厳格に管理するというアイデアを考えた。
ところが、更に政府が発行する国債を中央銀行が購入して、政府に通貨を渡すと、政府はその通貨を補助金などの形で民間企業や個人に配る。
このようなことが行われると、民間企業や個人が保有する通貨の量が増えるので通貨価値が下落する。
最近は経済に多少のショックが起きると、政府が財政支出をして機器を収束さえ省とする傾向が強まり、その結果世界でインフレ率が高まるようになり始めているそうです。
上記を踏まえ、佐々木さんは手元にある現金・預貯金、仕事をすることによって将来得られると予想されるお金につき、かつてのように「預貯金」をしていれば、お金の価値が守られる時代から、預貯金に預けていると実質的に目減りしてしまうという状況から、投資という行為を、リスクをとって利益を狙う行為と考えるのではなく、「インフレという見えない損失」から自分の試算を守る行為と考える必要があるそうです。
また、投資を行う際にも、「分散投資が大事」という言葉を聞いたことがあると思いますが、通常投資対象を分けること以外に、投資タイミングを分散させ、「定期的に少しずつ投資する」こと、つまり「積み立て投資」を行う。
特に時間を分散するという観点から、若いうちから投資を始めることをお薦めしています。
更に社会人として仕事をして報酬を得ている人に対しては、最も有望な投資先。
それは、「自分自身」なんだそうです。
自分の知識や経験、スキルを高めるために投資して自分の市場価値を高め、収入を増やすように試みることこそが、最も効率の良い投資だそうです。
また、年収は会社が決めるものですが、それを受け入れるかどうかは自分が決めることです。
「自分の仕事・能力ならもっと給料をもらえるはず」と思うなら、それを自分で証明すればよい。
だから自分に投資をして、自分の市場価値を高めることが一番近道で有効な投資なんだそうです。
また、投資の勉強をする際、経済理論や金融市場の仕組み、株式、債券、為替市場の勉強もお薦めするそうですが、「世の中全体の仕組みを理解すること」をお薦めしています。
「お金とは何か」「社会はどう動いているのか」といった根本的な仕組みを考えることが、判断の基盤になっていたと思います。
例えば、デフレは悪でインフレが目指す道。
そして円高が悪で円安が目指す道という信じられた来た。
しかし普通に考えて資産や外貨をそれ程多く所有している訳ではない一般国民にとって、どうしてインフレや円安が良いのか。
食料やエネルギーを海外から輸入に頼っている日本の通貨が弱くなることがどうして望ましいのか。
問題の本質はデフレ・インフレ、円高・円安ではないというのが佐々木さんの主張です。
世の中の物事は、人、立場によって同じ事象でもプラスである場合とマイナスである場合が殆どで、一概に何が正しいとは言い切れない。
更に、可能な限り情報を収集し、世の中で今後なにが起きそうか察知することの価値は高い。
日々の友人や同僚との会話、メデイアから得られるニュースなど、断片的な情報を自分なりにつなげて、自分なりの結論を考える。
その結果、別の投資対象を結論として選ぶことになる。
更に、佐々木さんが興味深く、かつ重要な法則は「マーケットは大勢が困る方に動く」という現象だそうです。
以前は、日本が貿易黒字国だったため、輸出額の方が輸入額より多かった。
その結果、日本企業による「外貨売り、円買い」額が増えるので、円相場は円高方向に動きやすくなっていた。
つまり大勢(輸出企業)が困る方向に動く。
今の日本は貿易赤字国で、輸入が輸出額を多くなっている結果、日本企業による「外貨買い・円売り」額が増えるので、円相場は円安方向に動きやすくなる。
つまり大勢側である輸入企業が困る方向に動く。
また、世の中の相当多くの人がある会社の株の「買いポジション」を持っていて、株価が上昇していると、その株は上昇する可能性が高いか。
答えは、下落する可能性が高い。
なぜなら上昇すると考える多くの人がすでに買いポジションを持っている。
極端な言い方をすれば、もうその会社の株を買いたいと思っている人はいない。
一方で、買いポジションを持っている人は、どこかで売却して利益を確定したいと考えている。
つまり株価は多くの人が動いてほしいと思う方向とは逆に動く可能性が高いそうです。
②なぜ円はこれほどまでに弱くなったのか。
最近海外の物価が日本と比べると異常なほどに割高になっている理由。
1990年代から2012年頃までは日本が割高な国として有名だったそうです。
海外から旅行や出張で日本に来た外国の友人や同僚から、昼食でサンドウイッチとコーヒー頼んだだけで1000円もしたなどと不平を言われることが普通だったそうです。
佐々木さんは、それに対して吉野家に行けば400円ぐらいで美味しい牛丼が食べれると答えていたそうです。
しかし、今の日本は物価が割安な国として有名になっている。
昼食でサンドウイッチとコーヒーを頼んでも1000円しかしなかった!安い!と喜んでいる。
今や海外では昼食は3000円以上になっているため、日本の昼食1000円はとても割安に感じる。
ちなみに以前の海外からの訪日客が日本の物価高を嘆いたときの海外の昼食代は700円程度。
つまり、海外の昼食代は700円から3000円以上に値上がりした一方、日本の昼食代は1000円で変わらない。
その理由に、海外の物価の上昇率が大きく、日本では殆ど物価が上昇していないこと。
もう一つの理由は、日本人が使っている「円」という通貨の価値が極端に安くなっているからだそうです。
例えばアメリカで1ドル100円の物の物価が2ドルになった。
その時点で、日本人にとって物価は200円となる。
更に1ドル150円まで円安になった結果、日本人にとってその物価が300円になるという日本の物価が極端に割安になっている理由だそうです。
これを別の言い方をすると、米国内におけるドルというお金の価値の下落は日本国内における円というお金の価値の下落に比べて圧倒的に大きい。
つまり、日本国内だけで見れば、円の価値はそれほど低下していないにもかかわらず、ドル/円相場は逆に大幅に円安ドル高になってしまっている。
つまり、円が国際的に評価されなくなっている。
もっと具体的に言うと、海外から見ると非常に割安となっている円を買って、日本国内で様々なモノやサービスが割安に買えるのに、誰も見向きもしなくなっている。
本来であれば、円が割安でなくなるところまで、日本のモノやサービスが買われたり、日本に投資が行われる結果、為替相場は円高になるはずなのに、そういった調整がされない。
更に言えば、評価されなくなっているのは、円というより日本。
日本の賃金は他国に比べてかなり割安になっているにもかかわらず、日本で工場を建ててモノを作ろうとする動きがあまり広がらない。
むしろ日本から海外に出ていく動きの方が圧倒的に大きい。
この円の弱さは、アベノミクスが始まった2013年頃からですが、その影響が他通貨も含めて顕著に出始めたのが2021年からだそうです。
この円や極端に弱くなった2つの理由として、①マイナス圏に大きく落ち込んだ実質金利があるそうです。
つまり金利からインフレ率を差し引いた金利率を指します。
今銀行に普通預金を預けると金利は0.2%。
一方インフレ率は+3%程度になっている。
つまり実質金利はマイナス2.8%ということです。
つまり、銀行に預金を預けているだけだと、預金の価値が1年間で2.8%減ってしまうことを意味する。
例え1%に上がっても実質金利は大幅なマイナス。
インフレ率も補助金などで一時的に低下するかもしれないですが、こうした政策は後からインフレ率をより高める結果になる。
通常の国だと、このくらいのインフレ率があれば、預金金利が少なくとも3%以上あって、お金の価値の低下分を相殺する金利が付く。
ところが、日本では金利が低いので、お金の価値の低下が直接影響してしまう。
実質金利が大幅にマイナスになっているのは、主要国では日本だけだそうです。
この銀行の預金金利は基本的には日本銀行が決める政策金利に連動するため、日本銀行が政策金利を引き上げれば、預金金利も上昇する。
但し、それと共に貸出金利も上昇する。
一般的に日本銀行が政策金利を引き上げると企業への貸出金利が上昇するので、景気に対してマイナスの影響があると心配されます。
日本銀行は「いつか物価上昇率は低下する」と考え、超低金利政策を続けてきましたが、物価上昇率は高止まりし、実質金利のマイナス幅も大きいままだそうです。
ちなみに、通貨価値が大きく下落したトルコリラも下落した理由は実質金利が大幅にマイナスになったことで、トルコは2023年後半から積極的に利上げを行った結果、インフレ率が落ち着き、結果的に実質金利はプラスになっているそうです。
②円が弱くなったもう一つの理由が、日本から海外への資金流出の増加があります。
簡単に言えば、日本人が円を打って外貨を購入し、海外の資産、製品、サービスを購入する流れが大きくなっています。
最も大きな資金流出は、日本企業が海外に工場を建設したり、海外の企業を買収したりする対外直接投資により、アベノミクスが始まった2012年以前は年間10兆円を超えることがなかった対外直接投資が2024年は30兆円規模にまで膨れ上がっている。
そのうち、一定程度は円を売ることになるため対外直接投資は円安要因となる。
これだけ日本が割安なのに、日本が見向きもされなくなっていると書きましたが、最も日本に見向きをしなくなったのは日本企業で、日本が最も直接投資をしているのは米国だそうです。
日本で工場を建てるとしても働く人がいないという人手不足の問題がある。
日本でモノを作ったり、サービスを提供しようとしても、需要が弱いので、日本の拠点を拡充する意味がない。
海外でモノを作ったりサービスを提供すると、コストは高いが、物価も上がるので利益が出やすい。
その影響もあって日本の貿易収支は赤字傾向になったそうです。
この対外直接投資は2013年以降、2020年代の円安局面でも続き、海外への投資が明らかに割安となっても、日本企業による海外進出は加速している。
佐々木さんの考えでは、「行き過ぎた円高がなぜ生じているかを分析して、構造改革を進めなかったために、日本企業に逃げられてしまった」と考えているそうです。
また、日本の当局は、円高が投機筋のせいとして、鏡に映る実体経済から目を背け続けた結果。
つまり円安介入のみを続け、構造改革をしなかった結果、実体経済が取り返しがつかないくらい歪んでしまったと考えるそうです。
この1990年代~2000年代に実体経済のゆがみとは、大きく膨らんだ貿易黒字と内需の弱さ、そして証券投資の自国バイアスの強さにあったと考えているそうです。
80年代から90年代半ばまで急速な円高を経験した日本人は、為替リスクをとって海外債券や海外株式に投資を行うのをためらっていた。
この状況下で大幅な円高が進行するのは当たり前な中、76兆円の円売り、米ドル買い介入をし、貿易サービス収支の黒字の合計額の6割も吸収したそうです。
当時の日本の当局が円高を阻止するというメッセージを送らず、実体経済の歪みを修正する方に政策を集中していれば、今頃日本の内需は強くなり、日本の製造業はビジネスの転換に成功していたかもしれないと考えているそうです。
③日本政府の借金はなにが問題なのか
円が歴史的に弱くなってしまった理由の一つに、大きくマイナス圏に落ち込んだ実質金利にある。
このマイナスの実質金利から抜け出せない理由の一つが、日本政府が積み上げた債務だそうです。
債務が大きくなりすぎているので、金利が上昇すると利払い費が急増することになる。
日本政府の債務は2024年度末段階で、1474兆円あり、資産778兆円を差し引いても696兆円残る。
佐々木さんが問題と考えているのは、この債務超過になっていることではなく、日銀が国債発行増加を支え過ぎたことだと考えているそうです。
日銀は1999年から政策金利を0.5%以下にとどめてきたこと。
加えて金融緩和政策などを通じて大量の国債を購入してきたことで、国債発行残高の半分を保有し、これは他の主要国よりも圧倒的に高い保有比率となっている。
実は日本の利払い費のGDPで見るとG7の中で低い方となっている。
ところが、その背景に日本銀行の超低金利政策と積極的な国債購入により、短期金利から長期金利に至るまで金利が異常なまでに低く抑えられてきたため、債務残高が大きくなっても、国債保有者に対する利払い費が低く抑えられてきた。
利払い費だけで見ると、1990年代はおおむね10兆円台で推移してきたのが、2024年度は8兆円台と、借金の額が5倍程度に急増しているのに、利払い費が減少している。
日本銀行による長期間に及ぶ超低金利政策と積極的な国債購入により、殆どの国債の発行時の金利が超低金利になっているからだそうです。
しかし、2025年には、こうした政策の問題点が表面化してきた。
つまり長期金利が2025年12月半ばに2.0%を上昇した。実は2006-2007年に日本銀行の政策金利が0.5%まで上昇した際の10年国債金利のぴ0区も2%程度だったことから、政策金利が0.75%に引き上げられたら、10年金利も2%を超えても不思議ではない。
市場では2026年中に1.25%までの利上げの可能性が意識されている中、日本の政策金利が1.0%だった1995年当時の日本の10年国債金利がほとんど3%以上で推移している中、今後日本の10年国債金利が3%以上に上昇しても何の不思議もないと考えられるそうです。
更に、日本の金利上昇がこの程度で留まったとしても、これから新たに発行される国債、借り換えのために発行される国債の発行時の金利は、すでに上昇した後の水準の金利で発行されることになるため、利払い費は毎年徐々に増えていく。
今後金利が1%上昇し、その水準で横這いで推移したとしても、2034年には利払い費が34.4兆円になる。
2024年度と比較すると10年で3倍超、25兆円程度増加することになり、2025年度予算の消費税収と同じ額だそうです。
今の日本で金利が上昇して困るのは政府であり、家系や企業は資金余剰主体のため、金利上昇は全体的な収益としてはプラスになるそうです。
また、日本の国債発行残高増加には、国債を発行して調達した資金の使い方について、補正予算を通じて給付金や補助金のような形で国民に配布することが多い為、インフラ関連の資産が増加するわけでもなく債務超過になる。
そして金利が上昇することを想定しておらず、超低金利状態が永遠に続くかのような感覚で借り入れを増やしてきた中で金利上昇という現実に直面する。
加えて国債発行増加を中央銀行に頼ってきた。
その結果今では国債発行残高の半分を保有していること。
実体経済の変化に目を向けず、受け入れず、長期金利の上昇を投機筋のせいにして、日銀に国債購入の再増額を再び導入させることがあれば、円は一段と下落することになる。
そして名目金利がこれ以上意図的に抑えられれば、円安、インフレ、実質金利低下、円安、インフレの悪循環に陥り、日本経済に本格的なダメージを与えてしまうリスクがあるそうです。
④マイナスの実質金利から抜け出せない円
日本は名目金利を引き上げられるのか。
日本銀行は少しずつは金利を引き上げられる。
一方、インフレ率並み(3%前後)まで引き上げるのは難しいだろうと佐々木さんは予想しています。
その理由は仮に日本銀行が大幅な利上げを行おうとすると、政府や世論からのプレッシャーが強まると考えられるからだそうです。
日本銀行が大幅に政策金利を引き上げると、結果的に長期金利が上昇する。
日本銀行がインフレ率並みに政策金利を上げると市場が予測し始めれば、日本の長期金利はもっと大きく上昇することになる。
政府は何かと国民にお金を配ることで解決使用とする傾向が強く、利払い費が急増するとそれがやりにくくなる。
その結果、日本銀行にプレッシャーを掛けて政策金利の引き上げを遅らせようとしたり、場合によっては日銀に国債の大量購入を強いて長期金利が上昇しないようにさせる可能性がある。
日銀はイールドカーブコントロール政策を通じて、長期金利の上昇を止めることができることを証明してしまったので、政府からそうしたプレッシャーを受けたときに断りずらくなっている。
また、金利が上昇すると変動金利で住宅ローンを組んでいる国民の支払う金利が上昇することになるので、批判が強まる。
更に佐々木さんは日本のインフレ率がしばらく低インフレには戻らず、中長期的にインフレ率が高い状態が続くと考えている。
つまり企業が賃金をあげなければならなくなっているほど人手不足が起こっている。
現時点で労働市場に流入してきている20代の人口は、退職のタイミングに差し掛かっている60代の8割しかいない。
これから労働市場に流入してくる10代の人口は、退職していく50代の人口の6割しかいない。
企業は人を採用できなければビジネスを続けることができない。
従って賃金を引き上げてでも、人を採用してビジネスを続けるのに必要な人員を揃えなければならない。
そして賃金を引き上げるために、自社の製品やサービスの価格を引き上げざるを得ない。
その結果、人材獲得競争についてこられない企業は淘汰される。
一方、生き残った企業は競争が少し緩和されるので、自社製品やサービスの価格を引き上げることが容易になる。
更に労働時間規制により、一人当たり年間総労働時間は1990年から2024年までの約35年間で20%も減っていること、そして就業者数の減少が始まることから、総労働時間はさらに減少していくようです。
日本の雇用者数全体に占める55歳以上の人の割合は3割にも達している一方、20歳代の雇用者は全体の16%しかいない。
若い担当者1人に2人の部長がいるようなイメージでかなりいびつな構成になっている。
これから10年くらいは雇用者に占めるシニア層の割合は増えていき、就業者数もまた増えていくと思われ、ますます若者の希少価値が高まっていく。
日本企業はこれから日本でビジネスを続けていくためにも、これら希少価値のある今10代の人たちの争奪戦に向けわなければならない。
それだけでなく、これから戦力になるべく経験を積んでいっている1280万人しかいない20代も自社にとどめておく必要がある。
当然すでに主戦力となっている1319万人しかいない30代も重要です。
だから各企業は若い世代の給料を引き上げ、若い人たちを採用し、社内にとどめる努力をする必要があり、そのためには自社製品やサービスの価格を引き上げる必要がある。
今後もインフレ率は大きく下がることが難しいと佐々木さんは考えるそうです。
ベトナムやミャンマー、ネパールなどの年収は日本より低いからそうした国から日本に来てもらうという方向性は、賃金水準が2位だった国の発言であり、既に24位になった我々に対して、日本の倍の年収を払うオーストラリアが近くにいる中、日本に来るのか。
佐々木さんはこの状況を続けるのは難しいと考えており、国内で若者を採用し働き続けてもらうためにも、海外から人に来てもらうためにも、賃金水準を引き上げ続けてる必要があるそうです。
従って、物価も高止まりすると考えているそうです。
また、日本銀行が国債を買い入れ、政府がインフラ対策の補助金をばらまくとどうなるのか。
日銀が紙幣を刷って、それを政府が国民に配ると、結局インフレ率が上昇して、インフレで困っている人はさらに困ることになる。
加えて最後は投資家、資本家といったお金持ちの預金口座に集まっていくことになる。
インフレになると資産価格が上昇するのでお開け持ちはよりお金持ちになる。
困っている人にお金を配ったつもりでも、実はそれが貧富の差の拡大要因になる。
更に「多額に上った政府の負担を軽くするにはインフレしかない」という考えは以前からあった。
インフレ率が高くなると、借金をしている側が有利になる。
なぜなら借金した金額はインフレになっても増加しないが、収入や資産価格はインフレで金額が膨らむから。
政府が発行している普通国債の残高は2024年度末時点で1080兆円。
一方名目GDPは642兆円だったので、対名目GDP比は168%になる。
一方、名目GDPが過去3年平均(+3.7%)で成長するなら、2037年には名目GDPは1030兆円になる。
インフレになれば税収が増えるため、仮に国債残高が変わらなければ、国債発行残高の名目GDP比は105%に激減する。
こうしてみるとインフレは良い事のように思えるが犠牲者がいる。
それは預金者であり、銀行預金の金利がインフレ率よりもはるかに低いと、預金は実質的に目減りしていく。
つまりインフレにより、預金者は目減り分を税金として政府に収めたのと同じような形になって政府の債務負担が減少するということなんだそうです。
更に資産の3割程度が年金基金や外貨準備で保有する外貨建て資産であるため、巨額の円建て債務を抱える一方、資産にそれなりの外貨建て資産を保有する政府には、インフレ率を引き上げ、円安を進行させるインセンテイブがあるそうです。
インフレ率が今後も高止まりすることが予想される中、名目金利を引き上げることができないのであれば、今後も実質金利がマイナスの状態が続く。
仮に預金金利が0.2%で、物価上昇率が3%という状態が今後10年間続いたら、皆が今保有している預金の実質的価値は今の4分の3くらいになってしまう。
日本人は今での現金預金の保有比率が全体の51%となる1120兆円を持っている。
その背景に、デフレの時代、現金預金は高いリターンは生まないが、ノーリスクで実質的価値が少しずつ増えていく資産だったため、正しい選択肢を取っていた。
一方、インフレ率が高止まりする世界が始まった今、将来のために取っておこうと考える資金は、株式や不動産、外貨建て資産などに資金をシフトし、目減りを防ごうとする。
富裕層に支払われた金利は消費に回り、経済を動かすことにもなる。
「金持ち優遇」という言葉に敏感になって経済構造を帰ることをしてこなかったことも今の日本経済の低迷に繋がっている。
企業も近いうちに金利が上がるかもしれないと思えば、早いうちに設備投資をしてしまおうと思うかもしれない。
長期間低金利を続けていたことが結果として経済を凍り付かせてしまっている可能性があるのではないかと佐々木さんは考えているそうです。
⑤止められない日本からの資金流出
2024年1年間の日本の経常黒字は過去最大の28.7兆円だったそうです。
2025年度も前年同期を上回り、過去最大の黒字額を更新する可能性が高い。
もっか最大の経常黒字なのに円高にならない。
その答えは、「過去に海外に対して行った投資から得られる利益」となる第一次所得収支が黒字であり、それがなければ、日本の経常収支は11.0兆円の赤字だったそうです。
2024年末の対外純資産額は533兆円。
こうした過去の投資から得られた利益や配当金の受け取りなどの合計額が第一次所得収支39.7兆円となる。
この黒字の問題点は、そのかなりの部分は日本に戻ってきていない可能性があるということ。
海外での投資残高は大きいのですが、そこで稼いだ収益が海外で再投資されている可能性が高い。
つまり黒字は黒字でも円買いを伴っていない可能性があるそうです。
一方、貿易黒字から貿易赤字国への変貌については、電気機器の黒字がなくなったこと、2000年ごろまで恒常的に6-8兆円あった黒字が2023年には貿易赤字となりました。
また、食料品の貿易赤字も拡大し、2024年は9.9兆円にまで拡大しているそうです。
更に医薬品の貿易赤字も2024年は3.6兆円の赤字、エネルギーの貿易赤字も2024年に24.2兆円の赤字を記録しています。
⑥「失われた30年」は、なぜ失われたのか
失われた30年、1990年から2023年までの間に日本の名目GDPは28%しか成長していないが、オーストラリアは6.4倍、米国は4.7倍、カナダは2.9倍と成長している。
一人当たりの名目GDPは主要国の中で日本だけが減少気味で、2023年には韓国にも抜かれる。
スイスは2000年時の平均収入で世界第一位、2位が日本でした。
しかし四半世紀経ち、今でもスイスは1位、日本は24位。
何故引き離されたのか。
日本の経常黒字はすべて第一次所得収支の黒字であり、海外に投資してきたものから得られるリターンであり、これは日本に戻らず再投資するため、日本は経常黒字でも円高にならなくなってきていた。
しかし、スイスの経常黒字はすべて貿易黒字であり、近年増加基調となっている。
更に1990年以降、スイスフランは主要国通貨の中で圧倒的に強いんだそうです。
スイスは世界的に知られる製薬会社、工高級時計メーカー、その他製造業が数多く本社を置いており、賃金が世界で最高レベルに高く、通貨も強いスイスの製造業の特徴は、高付加価値品に集中するクオリテイ戦略、つまり量よりも質を追求しているそうです。
海外から優秀な人材を引き付けるだけでなく、国内でもクオリテイの高い人材を育てるために、スイスでは職業訓練制度が充実していて、義務教育を修了した生徒の6-7割が将来の自らの職業分野を選択し、それぞれの職種に対応した職業訓練校に入学するそうです。
たとえば時計産業では、組立、研磨、装飾、仕上げ等それぞれに特化したコースが整備されており、運営費用の60%を産業界が負担し、カリキュラムの策定、見直しにも産業界が関わるそうです。
日本は価値よりも価格にフォーカスし、生産はコストの安い海外に頼ってしまった。
そして国内で生産する分については、円を弱くすることで輸出競争力を高めようとした。
つまり価格の安さを追求した。
一方、スイスは価格より価値にフォーカスし、クオリテイの高い製品を生み出すために、国内人材も教し、海外からも優秀な人材を積極的に受け入れた。
つまりクオリテイが高いから価格も高いを目指した。
このような海外の優秀な人材を受け入れ、日本で働いてもらうために、幾つも縛っている日本固有の制度改革(医師が国家資格が必要とするところ)も必要だそうです。
⑦私の所感
日本企業のこれまでの施策の中で、より競争力を持つために、膨大な人口がいるアジアに進出し、大量の高品質な製品、サービスを世界中に提供していこうという考えが強かったと思います。
結果として、トヨタやスズキ、ダイキンといった世界的な企業が強くなった一方、電気機器産業となるソニー、パナソニック、日立、シャープなどは、軒並み企業の形態を変えたり、買収することで、一部の企業は再度繁栄し始めています。
一方、佐々木さんの発想に立って、日本に残って輸出収益を上げている企業は、既により先端で尖っているグローバルニッチトップの地位を築いている会社に絞られているのかと思いました。
近くに巨大な人口があったアジアに進出していった日本。
私は、佐々木さんのように、高付加価値商品のみを残し、円高是正をしないという施策は難しかっただろうと考えていますが、今後の日本がより発展するためには、日本国内での賃金が増え、飯が食べられる企業が沢山出てくることに少しでも協力できればと思いました。
日本で製造している輸出企業、これから20年ぐらい大きな果実を得られそうです。
