「「変化を嫌う人」を動かす-魅力的な提案が受け入れられない4つの理由」を読んで-新しいこと広めようとする人、読むとよいですよ!

本日は、ロレン・ノードグレン+デヴィッド・ションタルさん著作(船木謙一さん監訳、川崎千歳さん訳)「「変化を嫌う人」を動かす-魅力的な提案が受け入れられない4つの理由」を紹介します。

この本は、Xにて「投資としての読書」の著者のもとやまさんが紹介していたものhttps://x.com/ysk_motoyama/status/1721026124829110741?s=46&t=fgK1alCEi2OBd0de2ThLeAで、私自身がベンチャー企業に転職した際、何故新規事業は前に進まないのか苦労した経験も踏まえ、読んでみて目からあらかじめだったので、今回紹介しました。

目次

1.魅力的なアイデアが成功しない理由

2.魅力アピールに専念するのはやめよう

3.惰性

4.「惰性」を克服する

5.「労力」

6.「労力」を克服する

7.「感情」

8.「感情」を克服する

9.「心理的反発」

10.「心理的反発」を克服する

11. 3つの事例研究

➀魅力的なアイデアが成功しない理由

著者は、まず銃から発射された弾丸が理想的な斜角(45度)で発砲されれば、約3キロメートルも飛ぶこと、そしてその飛ぶ理由が火薬を使うと言う『燃料』なのか弾丸の構造による『抵抗』を減らすものなのかと言う事例を取り上げます。

弾丸を飛ばすために、多くの人が「火薬のおかげ」と答えるが、針の穴を通すような精度で弾丸が遠くまで富んでいけるのは、実は、主要な抵抗が小さくなるように、弾丸が最適化されていることが主な理由であることを上げています。

具体的には弾丸が先端が尖った流線型の物体であること、そして重心の内側に溝を掘り、弾丸を回転させることで空中を通過しやすくなるのだそうです。

実はアイデアを飛び立たせるためには推進力を与えなければならない=『燃料を投下』と私たちは直感的に思います。

その際、人々を説得して新しいアイデアを受け入れてもらうには、アイデアそのものの魅力を高めるのがいちばんの方法だという信念があると考えがちです。

また、イノベーターは魅力を高めるための「燃料」ばかりに注意を向け、方程式のもう半分、自分たちが生み出そうとしている変化に逆らう人々の「抵抗」をなおざりにしていることを上げています。

そして変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠である。

これが本書のテーマです。

目には見えないかもしれないが、「抵抗」はそこに存在し、イノベーションに向けた努力を静かにくじいていきます。

そうした力を克服しようと「燃料」を追加すると、克服しようとしている「抵抗」そのものをうっかり強めてすしまうことになるそうです。

ここでの事例では、あるフルカスタマイズの家具(ソファ)を他のオーダーメイド家具会社のよりも、75%ほど安く作ることが出来るスタートアップが販売を拡大させようと検討している話が出てきます。

ソファを実際に見て、購入を希望しているはずの買い物客が実際には購入手続きを完了せず、姿を消してしまうのが何故なのか。

スタートアップの経営陣は理由が分からず、調査をしたそうです。

結果として分かったのは、そのソファの顧客サービス、質の高いデザイン、価格の安さなど新規購入に向けた『燃料』は購買意欲を書き立てたが、実は自宅に今あるソファの処分が購買者の最大の「抵抗」であったそうです。

この新しいアイデアの受け入れを阻む要因を4つの「抵抗」と本書では定義づけています。

1つ目は惰性:自分の知っていることには限りがあるのに、それに固執しようとする強い欲求、

2つ目は労力:変化を起こすために必要なエネルギーを極力避けようとすること、

3つ目は感情:起こそうとしている変化そのものが引き起こす思いがけない否定感情、

4つ目は心理的反発:変化させられまいとする衝動、

に分けられるそうです。

尚、本書は新しいものを世に送り出したいと思ているすべての人を対象にしており、新しいものが何であれ、それを受け入れてもらうには人々を変えることが必要であり、例外はないそうです。

人間は習慣の生き物で、変化する能力はあるが、簡単には変化しないものだそうです。

新しいアイデアを提案しても、それを世の中に溶け込ませる仕掛けを作っておかなければ、イノベーションは中途半端で終わってしまいます。

イノベーションに関する本が概してアイデアそのものにばかり注目するのに対して、この本ではイノベーションのもう一つの側面である「人的要素」、そして「抵抗」に注目しているそうです。

②魅力アピールに専念するのはやめよう

筆者が自動車販売員で米国で最も成果を出している営業マン アリを調べたところ、顧客が車を購入する際に、湧きおこる「感情面の抵抗」を小さくすることに注力し、販売戦略をしつこく展開することには目もくれていない事実が分かったそうです。

一般的な営業マンが、兎に角新車の魅力を提案し、直ぐに買ってもらうように仕向けるのに対して、この販売員は、お客様の要望がどのようなものであっても叶えることに力を入れているそうです。

もし、ライバル社の車の方が適していると思えれば、見に行ったらどうかとアドバイスしたり、金利が下がったり、お目当てのモデルの価格が下がる場合、2-3か月待つことも提案するそうです。

更に、時にはそもそも車は必要ないのでは?とそれとなく顧客に伝えることもあるそうです。

つまり、この営業マンは販売の仕事をしているとは思っておらず、顧客信頼関係を築き、車が売れるまで7-8年掛かることも想定し、忍耐を重視し、顧客がいつか購入の際にアリの元に戻ってくることを待つそうです。

実は人は、ポジテイブな感情よりも、ネガテイブな感情の方が心理的に大きな打撃を与える傾向にあるそうです。

何故なら、ポジテイブな出来事は人々の気分に好ましい影響を与えるますが、結果その1日を気分よく過ごせたとしても、翌日には目立った影響が見られないそうです。

一方、ネガテイブな出来事の影響は、持続し、嫌なことがあった日の次の日も憂鬱になることが予想できるからだそうです。

人々が新しいアイデアをためらう理由に、アイデアに魅力がないか、前進を妨げる抵抗があるかを考える際、人は「抵抗」に意識が向かってしまうのだそうです。

また、アイデアをより魅力的で説得力のあるものにする燃料(例えば報酬を上げるなど)は、すぐに燃えてなくなるうえに、燃料の影響力の大きさは注いだ燃料の量に比例するのだそうです。

更に、人は燃料で一時的に従順になるが、長期的な成果を望むのであれば、燃料を注ぎ続けないければならないそうです。

あるNGOの新任CEOがチームが「使命を果たす」ことを臨んだが、その意気込みが感じられないため、部下の士気を高めるために、過去最高額の2000万ドルを調達することを目標に掲げたそうです。そのNGOの過去最高だった調達額が、2017年の1700万ドルだったため、CEOが「2000万ドルの調達のコミット」を職員に伝えたところ、結果その年の調達額は1200万ドル、過去最高の離職率を記録したそうです。

では、なぜ失敗したかといえば、実は2017年の調達額は千載一遇のチャンスで手に入れた棚ぼただったことが既に職員同士ではわかっており、掲げられた目標が職員には現実的なものに思えなかったからだったそうです。

彼らは既にこれ以上ないほどのベストを尽くしていたにもかかわらず、今度はさらに多くのことを同じ量のリソースでやれと言われたと感じたそうで、結果として元気が出るどころか、侮辱された気分になったそうです。

つまり、アイデアに燃料を注ぐことで、アイデアに対する抵抗感をうっかり高めてしまうことが多々あることを理解しておく必要がある事。

また、人間にはおかしな癖があり、出た結果の解釈を、自らの行動など内的要因の結果と理解し、状況的要因の役割を軽視するくせがあるそうです。

例えば、自社の製品や提案が受け入れられないのはどうしてか。

その理由は「素晴らしいと思ってもらえないからに違いない」と思うなどです。

それが頭に浮かんだ理由なら、その行動を変えさせる方法は、素晴らしいと思ってもらえるものを増やすということになり、それこそが「燃料」の役割となります。

一方、オーデイエンスの人々を押しとどめる「抵抗」は提案者にははるかに見つけにくいものになります。

何故なら理解するには寄り添う気持ちが必要で、オーデイエンスを理解し、彼らの視点から世界をみることが必要になるためです。

更にオーデイエンスに焦点を変えても、オーデイエンスの「抵抗」、自分を押しとどめているものが何なのかを、売り込み先が提案者にうまく伝えられないことがよくあります。

その原因の一つに、自分がそのように感じる本当の理由を人は必ずしも理解していないことにあるそうです。

③人は変化より不変を、未知より既知を好む

人々がどのようにオンラインショッピングをしているかを調査した結果、ブランドへの親近感がクリック率に与える影響は、一般に考えられているよりはるかに大きく、検索エンジンの最適化を行い、商品の表示位置がどこにされようが、80%の確率で既知のものを選んでいるそうです。

また、アメリカのNFLには成績が下位のチームは、最も優秀な新人選手を指名でき、上位チームは売れ残った選手から選び、また最も利益を上げたチームから資金力の乏しいチームへと収益が分配される社会主義的なシステムが取り入れられているそうです。

一方、欧州のサッカーリーグは、メガクラブが資金面で圧倒的に優位なことになり、最も稼いでいる上位30クラブが全679クラブの総収入の49%を得られる仕組みだそうです。

米国には欧州のサッカーリーグによく似た資本主義の富の構造を持っており、国民がその資本主義システムを支持しているにもかかわらず、NFLの分配制度を変更すると大きな抵抗を受けるに違いない。それはより社会主義的な欧州にも関わらずサッカーリーグをより社会主義的なものに変えようとするとこちらも大きな抵抗を受けるに違いない。

それは、どちらののシステムが優れているからではなく、すでに取り入れられている既存のやり方に馴染みがあるという理由ではないかと著者は分析しています。

それ以外にも、学生が異業種交流会に参加し、さまざまな業界出身のリーダーと人間関係を築く機会を得る機会があるにもかかわらず、実際には、既に知っている相手かどうかが交流会で最も多く話す相手を左右したといった調査結果もあるそうです。

多様性にはさまざまなメリットがあるにもかかわらず、馴染みのあるものを好む性質のために、似たもの同士で人間関係を構築する傾向にある。

何故ならば、自分と同じレンズを通して世界を見ている人の方が、容易に信用できるからだそうです。

そこでこの「惰性」を克服するためには、良く知らないものを良く知っているものに変えてやればいい。

新しいアイデアはビールと同じで、初めて口にしたときは後味が悪い場合が多い。

だが、慣れるにつれて抵抗が和らいでいく。

そこで、この惰性を克服するために、幾つかの戦略を示しています。

戦略その1、何度も繰り返して見せる

人間はある文が実際に正しいかどうかにかかわらず、前に見たことがあるという理由だけで、その文を正しいと考える傾向があるそうです。

この「何度も見聞きするうちに本当のことに思えてくる」効果は、かつてナポレオンなども用い、同じ主張を何度も繰り返すことで言葉が心の中にしっかりと留まり、最終的には、実証された真実として受け入れられる傾向にあるそうです。

リーダーは発表できる状況になるまで、アイデアを表に出さないことがよくあるが、それでは新しい取組に従業員を慣らす時間も機会もありません。

目標は変革の確約を求めるずっと前に、人々の心の中にアイデアを植えつけることが肝要だそうです。

戦略その2、小さく始めること

大きな変更が必要な場合は、アイデアを小出しにした方が、初めて知った話でもすんなり聞き入れられることが多い。

何十年も使われてきたシステムやテクノロジーをそれを管理する人たちと一緒に一新する試みは、大きな抵抗を生み出すことになります。

例えば、デジタルトランスファーの推進という観点で変革を起こそうとする場合、既存の組織には、次に達成したいと思っている重要なことについてだけ訊ねます。

そしてデジタルを最優先にする新しいアプローチで取り組むことの価値を示す良い機会として、組織単位ではなく、小型化したプロジェクトを活用します。

課題の規模が小さくなっているため、こうすると人々はより受け入れやすくなります。

そしてプロジェクトが成功すればそのプロジェクトは、刺激を求めている組織にとっての道標となります。

戦略その3:伝達者をオーデイエンスに似せる

売り込もうとしているメッセージが馴染みのないものであったとしても、情報を伝える人が誰かということに大きく左右されます。

以前取り上げた自動車販売員アリは、自動車販売市場の中に自分が入り込めていない消費者層があることに気づきました。

それがメキシコ系アメリカ人であったことから、そのコミュニテイの一員であるカルロスを弟子に迎え入れ、アリの売上を奪わずに、カルロスがメキシコ系アメリカ人の市場で高い成績を上げることになったそうです。

戦略その4 提案を典型的なものに似せる

一般にカテゴリー内の典型と言われるものと一致するアイデアは、そうでないアイデアより身近なものに感じられます。

テスラが初めて電気自動車を発売したとき、車の特徴を何から何まで完全にデザインし直すと思われていたが、初期のモデルSは典型的な車によく似ていたそうです。

一方、後続モデルはモデルXやサイバートラックとしい、既存の車の典型とは言い難いデザインだそうです。

つまり、当初は、既存の車のデザインを発売することで、なじみやすくさせ、後に、テスラ自体がメッセージの発信先に馴染みのあるブランドに変わっていったため、常識から逸脱しても許容される範囲が広がったと考えているそうです。

戦略その5:喩え(アナロジー)を使う

コンピューターが登場する前、人々が物理的な世界で仕事をしていました。

紙とペン、そして物理的なファイル、フォルダー等を使っていた。

従って、ステイーブジョブスは、一つ一つのコンピューターの機能を人々が良く知っている従来の職場と馴染みのない新しい仮想の職場とを効果的な喩えで結び付けました。

例えばドキュメント、フォルダー、デスクトップなど、馴染みのある用語を使うと新しいテクノロジーが理解しやすくなるということです。

選択肢の提示に相対性を取り入れる 

新しいやり方を人々に提示するときには、必然的に比較対象が存在する。

「現状」だ。

人は馴染みがあって快適なものと新しいものを比較する。

その際、極端な選択肢を追加することで、そのリストの中で2番目に高いものを注文する理由が正当化しやすくなる。

ある経営学者は、ケロッグ経営大学院で、経営学部の同僚に神経科学者の採用を働きかけてきた。

行動神経科学は刺激に満ちた新しい分野であり、発想が豊かである。

従って、採用すれば、大学として差別化を図れるようになる。

一方、この理由が抵抗の原因ともなっている。

これが新しい試みで前例がない。

神経科学者を採用する利点ばかりを説明していたら、経営学部が普段から採用している類の気遣いが不要な教員と比較することになっていた。

そこで、候補となるすべての神経学者を「ハイブリッド型」「ピュア型」の二つに分類した。

①ハイブリッド型-経営学者が通常行うような研究課題-社員のモチベーションを高めるにはどうしたらいいかといった課題を異なるツール(神経科学)を用いて答えを出す人。

②ピュア型-人が情報処理する方法は感情によってどのように変わるかというような人間の行動に関するより基本的な研究をする人

に分け、提示することで、①のハイブリッド型の神経科学者が持続的に採用されることになった。

このように過去からある基準点の比較にせず、極端なカテゴリーを基準点にすることで、新しいアイデアに対する抵抗が減ることがあるそうです。

更に、尖った選択肢を入れることで、新しい選択肢が選ばれる可能性が高くなるそうです。

④カニも人も最少の労力で最大の成果を得たがる

太平洋沿岸の岩場に住むヨーロッパミドリガニは、餌とするムラサキイガイのうち、殻の小さいものは、放り出し、殻の大きいムラサキイガイには目もくれず、中型のムラサキイガイのみをせっせと食べるそうです。

その背景には、摂取エネルギーを最大にするために、食料収集時のコスト(消費するエネルギー)と利益(獲得するエネルギー)比較検討するよう設計されているそうです。

カニにしてみれば、ムラサキイガイは小型であるほどえさの量は少なくなり、殻は大きくても小さくても明けにくい為、摂取できる以上のエネルギーを消費する。

一方、年を経るごとにムラサキイガイの殻は厚くなる殻を開けるのがとりわけ難しくなるため、殻で爪を折ってしまう可能性が非常に高くなる。

従い、長い目で見ると大きなムラサキイガイを餌にするのは危険な戦略なんだそうです。

実は、人間もカニ同様に最も少ない「労力」で最大の見返りが得られる道を探し、それを選ぶようプログラムされているそうです。

例えば、毎日の通勤時に、給油するガソリンスタンド、通るルート、利用する交通手段までどれにするかの意思決定はすべて最少努力の法則に従っているそうです。

他にも、小売業の変遷を見ても、街や都市が発展し始めたころ、米国人が小さな店で商品を買っていたのに対して、百貨店のシアーズによる通信販売カタログを使い、自宅に居ながら買い物が出来るようになり、デパートやショッピングモールが最も効率的な買い物の手段になったこと。

そしてウオルマート、アマゾンと変遷し、今ではワンクリックで買い物ができるようになっている。

人々はより効率的な買い物の仕方を求めており、Aiアシスタントやドローン配送といった新しいテクノロジーがオンラインで買い物をすることへの抵抗を減らし、小売業を再び一変させると予測しています。

実は友人関係においても、職場で個室やオフィスが近い同僚と時間を過ごすが、50m以上離れていると会話や協力がまったくといいほどなくなることが分かっているそうです。

労力が最優先されるとなれば、ビジネスで使われている従来のたくらみの多く、つまり顧客サービスなど顧客を感動させるために努力していること。

キャッシュバックや粗品提供など顧客の期待を超えることを目指した燃料中心の戦術では、顧客ロイヤリテイが構築されないことが分かります。

むしろ顧客サービスでのやり取りで良く発生する「抵抗」を減らすことで、ロイヤリテイが構築される事がわかったそうです。

この調査結果は、「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではなく、「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか」が大切だというそうです。

更に、アメリカが第2次世界大戦時に国債を売って戦費をまかなうことにした際に、感情に訴えるスローガンによるキャンペーンを展開したそうですが、最も効果的だったのは、燃料系(敵に対する恐怖心、愛国心に訴えかける)よりも、いつどのように支援すべきかを解くものが最も効果的だったそうです。

そのポスターには、会社で働く従業員が描かれており、職場の勧誘員が支援を呼びかけたら国債を購入しようというキャッチフレーズが添えられていたことが最も効果的だったそうです。

つまり、支援の方法とタイミングをはっきりさせたロードマップを示すことで、効果的になったそうです。

他の事例では、経営者は従業員にもっとやってもらいたい行動として、「イノベーションを起こすこと」、「新しい人脈作りに時間を割くこと」、「部門間の高い垣根」に頭を悩ませていることだそうです。

しかし、従業員がもっとやってほしい行動が実際に行われるべきタイミングを、1日、1週間、または1か月の中のいつなのかを書き出し、その行動を起こすための道筋がはっきりしていなければ、経営陣が望む行動はまず起こらないそうです。

⑤感情-最も優れたアイデアが最も大きな不安を生むのは何故か

米国では、今では、一からケーキを焼く人よりも必要な材料が調合されたミックス粉、つまりケーキミックスを使って作る人の方が6000万人ほど多いそうです。

しかし、1929年に初めてケーキミックスが発売されたときは大ヒットからは程遠く、その後25年経ってようやく人気商品になったそうです。

長年ヒットに恵まれず、同社は、心理学者を雇い、ケーキミックスにつきまとうマイナスイメージを取り除く方歩を探りました。

その結果、ケーキミックスの改変した内容は、調理済みの粉から粉末卵を取り除き、生卵を加え混ぜるという一手間を加えたことだそうです。

実は、従来ケーキを作るという行為は大切な人への愛情を表現するために焼くのであり、焼くのにかかる時間がその心遣いを表すといった感情的な側面がありました。

ところが、ケーキミックスが始めて出回った頃は、そういうものを使うのは、心のこもっていない行為だとみなされていたため、普及を妨げる抵抗になっていたそうです。

先に挙げた生卵を加える手間は、一から作るよりも依然としてはるかに簡単でありながら、ケーキを「自分で作った」と感じることが出来るからだそうです。

他の事例では、1978年、エジプトとイスラエルの両国がシナイ半島をめぐる40年に渡る紛争の解決を成立させようとアメリカ キャンプデービッドで交渉に臨んだ際、半島に関して、エジプトは過去ファラオの時代からのエジプトのものであり、エジプトが主権を主張。

一方、イスラエルは支配権の維持を主張し、歩み寄る余地がないようにみえたそうです。

しかし、交渉団がアプローチを変え、何が欲しいのかに目を向けるのではなく、なぜ欲しいのかといった理由に目を向けると、両国の違った問題意識が出てきたそうです。

イスラエルの動機は安全保障で、その土地をエジプトに返還すれば、エジプト軍が国境に駐留することになり、イスラエルが攻撃を受けやすくなるというものだったこと。

一方、エジプトは何世紀もの間外国の侵略者に占領されており、文化的な誇りとアイデンテイテイを取り戻したいという強い思いだったそうです。

従って、首脳会談が行われるまでは、紛争の機能面(土地の面積、境界線、国境線)を中心に交渉が行われていたそうですが、争点が領土の分割から領土を希求する根本的な理由に映ると解決策はおのずと見えてきたそうです。

それは、シナイ半島はエジプトに返還するが、エジプトはそこを武装化しないことに同意するという案だったそうです。

商品や提案の採用に関しても、さまざまな抵抗を簡潔かつ行儀のいい一言に纏めると、たいていコストや経費になるものですが、コストに対する不満は抵抗の症状であって、根本的な原因ではない。

コストに対する不満の根っこを突き止める秘訣は埋もれている「なぜ」にたどり着くまでじっくり時間を掛けて答えを解き明かすことだそうです。

実はこの「5回のなぜ」と呼ばれる手法を導入したのは1970年代のトヨタ生産方式の一部であるが、その前提としてあるのは、製造の仕組みにかかわるどのような問題も、その真因は通常、表出している症状の5階層下にあるという基本的な考えなのだそうです。

この問いかけの手法は、「感情面の抵抗」を見つけるのに特に適しているそうです。

尚、この問いかけに正しい回答をもたらす際、あるデザイン会社が高齢化や高齢ユーザーにフォーカスした製品を開発しようとした際、90歳の元作業療法士だったデザイナーが参加したことで、他の高齢ユーザーにとて最適な製品をデザインする方法について、欲しかった意見を聞くことが出来たそうです。

若手デザイナーが見落としがちな機能面の問題(ボタンの大きさやユーザーインターフェイスなどの手指の関節炎や視力定価に苦しむ高齢者に利用しずらいものになることもある細かな点)に加えて、「感情面の抵抗」を予測できるようになったことが大きかったのだそうです。

ターゲットオーデイエンスをイノベーションのプロセスに参加させるやり方は、つまり外部の人を引き入れるであり、顧客がチーム内にいるということは、感情面の抵抗を最小限に抑えた製品やサービスを作るという意味で、究極の競争力になるそうです。

⑥心理的反発 変化に抵抗したい衝動にかられるのはなぜか

米国のシートベルト義務化の例では、変化に抵抗したがる人間がいかに不合理化を表すものはないそうで、1980年代の米国っでは、ニューヨークを皮切りに複数の州が相次いで追随したが、2年経っても、シートベルトを常用着用している米国人は17%、反シートベルト運動はさらに10年続いたそうです。

シートベルトを着用することで交通事故による死亡率は50%近く下がり、およそ3万人の命が毎年救われているにもかかわらずです。

2020年には、マスク着用の義務化で同じ論争が置き、マスクは新型コロナウイルス感染症の蔓延という社会的害悪を押さえるための手軽で効果的な方法にもかかわらず、多くの人がマスクの装着を拒んだそうです。

これは人は変化を強要されることを嫌い、ああしろ、こうしろと指図されたくない。

これを心理的反発と呼ぶそうです。

変化に対する抵抗を惰性とするならば、心理的反発は変化させられることに対する抵抗なのだそうです。

人に影響を与えようとすると、事実上、その人の自由を奪うことになる。

人は自由が奪われそうになっていると感じれば感じるほど、反発する必要性をますます感じるようになるそうです。

この心理的反発を克服するための秘訣は、変化を無理強いするのをやめることだそうです。

その為には、自己説得の1つのルール、指示するのではなく質問することで、何を考えるべきか指示するのではなく、自己発見につながるような質問をする。

ある研究者が「運転は慎重に」と掛かれた大きな看板を前庭に設置させてもらえないか訊ねたところ、同意したのは全体の20%にしかならなかった。

一方、『安全運転』と書かれたステッカーを車貝絵に貼ってもらえないか訊ねたところ、殆どの人が同意した。

そして1週間後に「運転は慎重に」という看板の設置を再度お願いしたところ76%もの住民が依頼に応じたそうです。

つまり、合意点や一致点を明らかにする質問から始めると、新しいイノベーションやアイデアが受け入れやすくなる。

人はイエスと応えていくうちにプロセスに関与しているという感覚を強めていくため、人々を自己説得に導くことが出来るそうです。

また、あるレストランで電話での予約が受け答えマニュアルに沿って行われる中、「いらっしゃれない場合はキャンセルのお電話をください」と指示しているのに対して、「いらっしゃれなくなった場合は、キャンセルのお電話をいただけますか」と訊ねることで、無断キャンセルの割合が大幅に下がったそうです。

更に、デザインの世界では、ステークホルダーとともに集団として想像するプロセスをコ・デザインと呼ぶそうで、コ・デザインの根本原理は、新しいアイデアや取組をデザインするプロセスへの積極的な関与を求められた従業員や顧客や利害関係者は、デザインが出来上がった時のそのアイデアを受け入れたい、実行したいという気持ちがより強くなるというものだそうです。

⑦自分の所感-新規事業をしている人には目からうろこでは?

この本では、そのあとも事例研究として、「石油から起業への転換を成功させたドバイ」「米国での短期間での大麻合法化」などを惰性、労力、感情、心理的反発の観点から、どのように政策で取り除いていったかを分析しています。

新規事業に取り組んだり、新しい考え方を世の中に広げようとしている人にとって、説得力があり、本の内容を実践すると成果が出るのではないかと感じました。

是非是非本書の内容を理解し、実践していただいたり、本を手に取って、お読み頂ければと思います。