本日は、波多野卓司さん著作 ぱる出版社出版「「ひとり会社」の起こし方・育て方」を紹介します。
この本は2017年に出版され、私自身2018年7月に購入しています。
ところが、最近深く読んで、初めて感じ入ったということは、当時はまだその考えに至っていなかったことが良くわかります。
尚、読者層が異なるかもしれませんが、デレク・シヴァーズさん著作「Any-thing you wantすぐれたビジネスはシンプルに表せる」の考え方に似ているとも感じました。
まず、この本では起業をむずかしくしてしまう三つの前提があるという誤解について波多野さんは説明しています。
事業を起こすためには
・チャンスを逃してはならない(いまから〇△年間が最後のチャンス)
・お客様に気に入られなくてはならない(どうしたら多くの人に好かれるのか)
・競争に勝たなければならない(事業は勝つか負けるか)
という三つの「ねばならない」にとらわれるケースが多い。
一方、波多野さんは何かをやろうとするのは「~しなければならない」よりも「~したい」という抜き差しならない思いがあって始まるものであること。
なにより大切なことは
・流行に左右されないで通じる道は何か(いつから初めてもいい)
・どうすれば人を好きになれるか(多くの人に好かれなくてもいい)
・弱くても幸せに生きられる道をどうつくるか(勝者にならなくてもいい)
言い換えると
・スロー(少しずつ進む)で、
・スモール(自分の持ち味を生きる)で
・ローカル(コツコツ続ける)な道のりだといいます。
なお、波多野さんのところにきた「やりたい」と思った人の約半数はそれをカタチにしたり、残りの約半数も挫折したというよりも、この道を歩くうちに「自分は別の道のほうがいいかな」と思い直して、より自分らしい道に軌道修正したそうです。
波多野さんの関わる方で、自分の商品づくりにこだわる「職人気質」を持ち、それぞれの小さな職に特化した職人が、日々の「営み」の中で、相互に商品とお金を交換しながら、共同体を形成してきた。
さまざまな成約を抱えながら、それでも「思いをカタチにしたい」と思うなら、この「スロー」で「スモール」で「ローカル」な世界は、日本のどこに住んでいようとその入口になる。
この手法を波多野さんは丁寧に本書で説明しています。
目次
Step1 思い醸成期-「命」を「受容」する
Step2 トライアンドエラー期-「100の挑戦」が「商品化」へつながる
Step3 事業立ち上げ期-自分の「商品」を計算する
Step4 事業継続期-お金を支援に繋ぎ、多くの人とつながる
①「好き」なことを「カタチ」にしよう
多くの「〇〇をやりたい」という人が相談に来られるたびに波多野さんは「どうしてそれをしたいと思うのか」を訊ねてきた。
この時に、
①それが好きだから。
②人の役に立ちたいから。
③お金を儲けたいから。
上の三つとも大切だが、敢えて順位をつけるとしたら?と問うた時、波多野さんの考える答えは、①>②>③の順番だと考えるそうです。
現実に「好きだからやりたい」という人が、一番それをカタチにして、続けている。
言い換えるなら、何かを「好き」であるとは、その何かにおけるあなたの「才能」だと波多野さんは言います。
では、人の役に立ちたいから、お金を儲けたいからは要らないのか。
あなたが「人とつながる」ことができるのは、むしろこちらを通して。
だから「好き」から始まることは、間違いのない道で、①→②→③の順番で取り組む。
そしてまた、①に戻ることで、あなたは深く、継続的に、誰かとつながっていけると考えるそうです。
そのために、まず思い(価値観)から入る。
問1「あなたは、どんなことに惹かれ、どんなことに突き動かされるか」
問2「あなたは、何に我慢できず、苦しんできたか」
問3「あなたの人生で、ふと思い出す、忘れられない光景、忘れられない人は?」
そして「それは、ずっとこだわり続けたい、自分らしさだろうか」と何度も自問自答する。
ここにあなたの本質(原点、価値観)があり、それを抱えて生きるしかないと波多野さんはいいます。
何かに出くわすたびに、自分をいつも照らし出す本質を基準に物事を考えれば、後戻りしつつも生き方にブレが少なくなる。
その抜き差しならない「問い」に向き合う準備ができているか。
また、自分の命をかけ、愛を注ぎ込み、商品作りに集中し、対価を得るという経営の循環は、
1.命を「受容する」
2.愛を造形する。
3.商品を「計算する」
4.お金で支援する(自分と他社を支援)。
では、「受容する」とは、自分はどう生きたいか。何がしたいか。どんなことに惹かれるか。どんなことが許せないか。
「造形する」とは、挨拶を練習する、カタチをデザインする、材料を削る、システムを構築する、販促物をつくる、
チームをつくるなど。
「計算する」とは、「価値÷価格」で考える、「費用対効果」で考える、「原価率」を考えるなど。
「支援する」とはお客様の命を支援する(もっと喜ばせる商品をつくるために働いて得たお金を使う)、自分と家族の命を支援する(暮らしていくために働いて得たお金を使う)、仲間の命を支援する(働きに報いるためにお金を支払う)など。
これを循環させることで、自分の命をかけ、愛を注ぎ込み、商品に妥協しないで、他人と世の中からの対価で評価される、その循環を生きればあなたはもう「経営」という道の上にいるといいます。
そのためにも、
①自分の原点たる「命」と「愛」を再確認する。
②「商品」として造形し、アウトプットする。
昨日も今日も明日も、この小さなことの繰り返しなんだそうです。
②壁を乗り越えるヒントは経験にある
波多野さんはもともとエンジニアとして、学生時代は機会工学科、社会人になってからは工業製品の製造ラインの設計から新商品開発まで技術畑を進んでいたそうです。
一方、30代で経営支援者に転身。
その際、技術者としての十数年間の経験を棚卸して自分のやり方を言葉にしてみることにしてみたそうです。
ささやかな成果をあげたとき、ささやかな失敗をしたときに自分はどんあやり方をしていたのだろうか。
それらをいくつも挙げていく。
そしてその小さな一つ一つのできごとに共通して見えてきた「自分の壁の乗り越え方」を「自分の持ち味」として簡潔なキーワードにまとめていった。
そして数か月後、その時点での持ち味をA4用紙1枚にまとめることで、自分でも予想もしなかった思いが湧き上がってきた。
その後活動の柱の一つになった「営業マン支援」。
波多野さんは技術者の経験はあっても営業マンとしての経験はなかった。
そこでやったことは、書店をハシゴして「営業マン入門」のノウハウ本を何冊も買い込み読む。
頼みの綱はA4用紙1枚にまとめた「持ち味シート」であり、製造業の現場で培ってきた十数年間の経験があり、汗があった。
以来、接客指導、起業支援、組織マネジメントと新しい分野の仕事を依頼されるたびに、試行錯誤の中で過去の経験から見出した「持ち味」を当てはめながら、小さな成果を積み重ねていったそうです。
手順は以下だそうです。
①これまでの人生のささやかな成功体験を書き出す。
②書き出した項目を並べて、なんとなく共通の「自分らしさ」だと思えるものを同じグループに入れていく。
③同じグループの項目の中から自分らしさを「持ち味キーワード」として統合し、ずばり一言で表現する。
「質より量」「分からないことは聞く」「分析より統合」など。
この「持ち味」を使えば、どんな道でも苦労はしながらも乗り越えていけるそうです。
なお、あなたらしさの活かし方は、苦手な環境に置かれたときも、きっと道を照らし続けてくれる。
「コンセプト」とは、多くの人が行きかう雑踏の中を、「あなたは何者で、どこに立つ人なのか」を伝える言葉。
①お客様は既存の商品・サービスに対して何を困っていますか。
②あなたの商品・サービスは、それをどのように解決するのですか。
一つは、お客様の困りごとが、既存の商品、サービスで満たせていないものであること、
二つ目は、①と②が、一対一の対等な対であること。
たとえば①地球の温暖化を解決するために、②環境に優しい石鹸を売るというのは、理念としてはすばらしいが、コンセプトとしては成立しない。
次につくったコンセプトを眺めて、さらに次の二つの問いを見つめる。
「それはあなたの持ち味やスキルを活かせますか」
「それは、これからもあなたでないと提供できないものですか(そうできますか)?」
この二つにもイエスと言えるなら、それが「あなたの生きる場所」になるそうです。
自分たちができることで、それを求める人がいて、他にはできないこと。
日々それを深めていけば「天与の場所」が見えてくるそうです。
高齢者介護デイサービスを起業した方が、事業を始める前に考え続けたのがコンセプト。
「既存の商品・サービスが満たしていないこと」を「自分の施設ならこういうふうに解決できる」。
それが一つでダメなら二つ、二つでダメなら三つと、何十のものコンセプト(小さな独自のサービス)と積み重ね、くみ上げていき、ようやく古い民家を改修した「小さなデイサービス」をオープンした。
すぐあとに中規模、大規模サービスがオープンしたにもかかわらず、その小さなデイサービスは、競争には巻き込まれず、利用者の支持をしっかり得て、入居者は減りなかったそうです。
③「10年後」に向け悔いなき選択をしよう
10年後のあなたにやってくる「確実な未来」とはなにか。
それはあなたも、あなたの家族も仲間も10年の年齢を重ねるということ。
あなたの現在地である、ここに咲く花や、身をつける木々の根は、過去10年のプロセスが育てたはず。
それと同じように10年先の不確実な未来にどんな花が咲き、どんな木々が値をはるかを決めるのは、いまから始める10年。
だから10年先の自分から改めて現在を見つめれば、その選択はより深く細やかで、後悔の少ないものになる。
現在という版木の色と未来という版木の色を刻々と重ねると、そこに「あなたの道のり」と「あなたのカタチ」がごまかしようもなくできている。
また、未来を希望に満ちたものにするため、あなたにとって決して外せない選択は?
問一 あなたにとって、なにより大切なこと(〇〇年後の希望)はなんですか。
問二 そのために必要なのに手を付けていないことはなんですか。(それをやらないと大切なことが満たせなくなること)
問三 さあ、いまから何を手につけていきますか。
あなたにもさまざまな制約がある。
けれど、そんな中でも未来のために、今始められる選択肢は無限にあって、だから未来もまた、無限に道をつけていくことができる。
そして最後に
①あなたの理念を言語化しよう、
②あなたが、苦楽をともにする仕事を周囲に伝えるための会社名、お店の屋号、ブランド名を考えておきましょう。
③そして名刺をつくりましょう。
と波多野さんはまとめています。
④あなたは誰と生きていきたいか?
①お客様に喜ばれることで、②あなたにできることで、③他の人が提供できていないこと。
事業はこの三つの要素が重なったところで成立する。
これでもう一つ何より大切な問いがある。
「あなたは、誰と共に生きていきたいですか?」
あなたは、どんなお客様をイメージしたでしょうか?
具体的な誰かをイメージしたでしょうか?
その誰かは、なぜ、あなたの商品/サービスを必要とするのでしょうか?
あなたの商品・サービスをどのように感じてくれるのでしょうか?
あなたの「こんな商品・サービスを提供したい」という思いと、その誰かの「こんな商品・サービスがほしい」という思いがずれていなければ、交換は成立する。
聞けばズレません。
すでに、いくつかのお客様のイメージがあるなら、その人たちの思いがあなたの想定とずれていないか、その人のところに行き、インタビューして確認する。
イメージする対象者の層に向けてのインタビューとして、
①レポート用紙を準備する、
②あなたの訊ねたいテーマ「〇〇のこと」を伝えて、知りたいことをシンプルに聞く、
③相手が言ったことを要約して、ひとつ残らず書き出していく、
④深く聞く(もっと深く知りたいときは、相手の言葉を重ねて聞く)、
⑤広く訊く(一つの視点だけではなく、ほかの視点、意見がないかも訊く)、
⑥一人ではなく、数人に聞く。あなたのイメージする「ともに生きていきたい人たち」であることが前提。
⑦インタビューが終わったら、書き出した何十かのメモ/キーワードを同じカテゴリーに入りそうなものに分類する、
⑧カテゴリーごとに、それらを一つの統合した言葉にする。この言葉がこれから提供していくべきことの指針になるそうです。
⑤100回描けば、姿は見えてくる
一つの思いを自分以外の誰かに見てもらい、意見をもらい、その意見を参考にして、さらに練り直す。
その作業をコツコツ100回続ける。
あなたの思いを紙の上に置き換えていく。
描いては消す。
消しては描く。
描いた上から、また描く。
けれど元の形は消えてなくなるものではない。
その痕跡は命の積み重なりとなってそのプランにチカラを与えるんだそうです。
プランをつくりながら、あなたは実際に世の中とも触れ合って、プランがずれていないかどうかを確かめていかなければならない。
だから、まず商品をつくってみる。そして使ってもらう。
できればほんの少しでも対価をもらう。
これから、あなたの仕事を長く続けようと思っている。
あなたの商品、お店を10年、20年と長くお客様に使っていただこうと思っている。
だったら、焦らず商品作りに何度も何度もトライする。
やがてその商品やあなたのお店は使い込むほどに底光りしていく。
あなたの「どう生きるか、どう人と関わるか」というヒューマンアプローチの世界に魂を吹き込むのは、「どうお客様に支持される商品をつくるか」というテクニカルアプローチの世界なんだそうです。
⑥毎日やり続けることを3つ決めよう
「人間、毎日、続けられるものをいくつ持てるかで、人生の豊かさが決まる」
意図していても意図していなくても、結果として言えることは、事業を継続的に営む人は、その事業に関わることで、毎日やり続けていることをいくつか持っていて、それを続けていることこそが、事業を支えている。
「今日の仕事」のために続けていることのほかにもう一つ、「未来の仕事」のために毎日続けることを持つことは、同じくらいに大切だと波多野さんは言います。
さまざまな制約の中で、それでも命を交換するような商品作りを目指す私たちは、そのような小さくて地道な方法論によってのみ、その世界の深みに近づくことができる。
あなたは、未来のために、毎日、何を続けると決めるか。
無理なく、肩に力を入れず、少しさぼりながらでも続けていく。
あなたの中の初心は、「今日と未来のために、毎日続けている、ささやかなこと」を通じて守られ、育まれる。
また、大切なことは、いつも前後にある。
事業でいえば、お買い上げ(サービス提供)の前後、
①お客様対応の準備をする、
②売り込む。
③お買い上げいただく、
④アフターフォローする。
ほとんどの人や企業は、この②、③でしのぎを削っているが、①準備をする、④アフターに力を注ぐことにより、⑤リピートと⑥ご紹介がある。
このことを意識しておくといいそうです。
更に、あなたが商品力をさらに深めるために考えていただきたい5つの視点。
①No.そしてYes.
「〇〇な商品は売りません」「××なお客様は、ウチには会いません」
このようにNoということで、あなたの存在意義が明確になっていきます。
「けれど最後に〇〇なことならば、任せてください。きっとお役に立てると思います。
②希少・限定・地域・非量産.
あなたの提供する商品が欠品になるか、デッドストックになるかのどちらかの場合、あなたはどちらを選ぶか。
お客様にとって価値ある商品は、きっといつだって欠品です。
キーワードは「あなただけに」であることを意識する事。
③前後を見つめる。
あなたの商品はその前後にも、誰かが関わっているでしょうか。
キーワードは源流にさかのぼって価値をつくることと、
流れ全体を見ることだそうです。
④倶楽部化
売り手も買い手も倶楽部の一員。
つまり仲間となってしまえばいい。
ではどうすれば、仲間になれるか。
その入り口は「レッスン」ということ。
コーヒー店であれば、「美味しいコーヒーの飲み方講座」を開講することで、ただのコーヒー店主から世界の先生であり、師匠になります。
⑤生き方/理念
ある会社では、会社の志を「理念Book」という冊子にまとめており、そこには会社が目指すもの、どう社会に貢献するか、いかに手を掛けながら技術を育ててきたかが記されている。
小さなあなたの事業/会社/お店が、より歴史があり、規模の大きい会社と仕事ができないかと思っても一般的には仏類愛とみなされますが、「生き方/理念/技の探求での共鳴」はそのような壁を超えるようです。
⑦あなた自身の商品を正確に伝えよう
お客様に「私の商品を買ってください」と無理に言う必要はない。売り込むのではなく、どうみられるかでもなく、「きちんと正確に伝える」ことが大切だと著者は言います。商品力を正確に伝えるための三つのポイントがあるそうです。
①あなたの商品を「誰に」買ってもらいたいのか?
②あなたの商品の「特徴・機能」とは何なのか?
③あなたの商品の「お客様からみたメリットは何なのか?
ここで大切なポイントは、「①誰に買ってもらいたいのか」から始めること。
次に大切なもう一つのポイントは、②特徴、③メリットを一緒にしないことだそうです。
「~だから・・・できる」という論理の展開により、お客様のメリットが、利用シーンを思い浮かべないと考えることができず、①から③までを簡潔に伝えることが、商品を余すことなく伝えることになるそうです。
⑧自分の所感
この本は、極めて誠実に自分の商品を作り、商売を作ることを考えていると感じた一冊でした。
創業者であれば、当たり前のようにやっている話なのかもしれませんが、サラリーマンという機能で物事を考えがちな立場だと、どうしても自分の商品を作っていくという発想に乏しい。
その点を100回は見直しながら力を付けていく過程が凄く勉強になりました。
さて、また一つ宿題が増えました。