本日は、楠木 新さん著作中公新書出版「定年後」を紹介します。
著者の楠木さんは、大手生命保険会社に定年まで勤めあげる一方、「働く意味」をテーマに大阪府立大学大学院でMBAを取得、その後沢山の著書を書かれている方です。
この本は2017年に出版後、今でもAmazonの評価で高かったため、購入してみました。
楠木さんは、ご自身が47歳の時に会社生活に生き詰まり体調を崩して長期に休職。
その時に退職後のことにも思いをはせ、復帰後も50歳からのヒントを求めて、定年退職した先輩に話を聞いたりしたそうです。
ところが、彼らが思ったよりも元気がない事、背中がやけに寂しい人が多かったことから、会社の仕事だけではなく何かをやらなければならないと感じ、執筆活動に取り組むことになったそうです。
また、定年退職後の企業研修で50歳前後の社員に対して、応対する中で、定年後のことを明確に意識している人は極めて少ないんだそうです。
楠木さんの考えでは、「終わりよければすべてよし」
若い時に華々しく活躍する人も、素晴らしいが、若い時の喜びをいつまでも貯金しておくことはできない。
一方で、若い時に注目されず、中高年になっても不遇な会社人生を送った人でも、定年後が輝けば過去の人生の色彩は一変する。
そういう意味で「人生は後半戦が勝負」なんだそうです。
第1章 全員が合格点
第2章 イキイキした人は2割未満?
第3章 亭主元気で留守がいい
第4章 「黄金の15年」を輝かせるために
第5章 社会とどうつながるか
第6章 居場所を探す
第7章 「死」から逆算してみる
①東京と地方の定年後は異なる
都心にある市役所の人事課長は、
「市役所員が定年後も元気で暮らしてもらうためにどういう研修をすればよいか」悩んでいるんだそうです。
一方で、地方の市役所の人事課長は、「市役所員は60歳で退職してもやることはいっぱいある職員が多く、実家の農作業だけでなく地元の自治体の幹事や消防団の役員など地元にいる人たちから頼りにされる」そうです。
つまり、定年後の課題が大きいのは都心部であって、地方では退職後も地域に自分を求めてくれる場があり、定年前後のギャップは圧倒的に小さいそうです。
②イキイキした人は2割未満?
定年退職した後、初めの1か月程度は解放感に満たされたが、それ以降はやることがなくなり、家に引きこもりがちになって半年もすると手例の前から立ち上がれなくなった。
朝起きてやることがないと、朝食をとった後また寝てしまうんだそうです。
その後は外出する気分も失せてテレビを漫然と見ていることが多い。
だから出来るだけ外出することを心掛け、図書館や百貨店、映画館などをぶらぶらしていることが多いそうです。
また、退職後3週間余りが経過すると、だんだん曜日の感覚がなくなり、平日の曜日が分からなくなるそうです。
また、退職から2,3か月経過しても解放感は依然として続いているものの、同時に会社からの拘束や仕事上の義務の中に自分を支えるものがあったことに気づき始めたそうです。
更に決まった時刻に起きることはその日の生活リズムを就けるという意味では有意義な機能を果たしていることに気が付くが、退職後は無理に起きなくなる。
その他、誰からも名前を呼ばれなくなる。
図書館に入りびたる。
スポーツクラブが大盛況。
スーパー銭湯や理髪店など、中高年男性が多いが、だれもが独りぼっちであるそうです。
また、著者が参加する65歳の方の参加する同期会では、イキイキした生活を送っている人の割合は、全体の1割5分くらいで、多くのメンバーは「忙しい、忙しい」と話しながらも、よくよく聞くと月1,2回ほどの頻度だったりしている。
一方、元気な1割5分の人たちは、在職中に転身して大学で教えていたり、出向先から若い人の面倒を見る組織の理事に就任していたり、学生時代に取り組んだ楽器の演奏を再び始めた人なんだそうです。
③亭主元気で留守がいい
定年退職して1年半経った頃に、学生時代の同窓会があった際、無所属だったのは3人だけで、悠々自適ができると思われる3人ですら、「そろそろもう一度働こうかな。やっぱり仕事が一番面白い」と切り出した。
その後「会社は天国」なのか語り合った。
兎に角会社に行けば人に会える。
昼食を一緒に食べながら色々な情報交換ができる。
若い人とも話ができる。
出張は旅行、接待は遊び。
歓迎会、送別会でみんなと語り合える。
遊び仲間、飲み友達もできる。
時には会社のお金でゴルフもできる。
規則正しい生活になる。
上司が叱ってくれる。
暇にならないように仕事を与えてくれる。
おまけに給料やボーナスまでもらえる。
スーツを着ればシャキッとする。
会社は家以外の居場所になる、などなど上げればいくらでも出てきたそうです。
また、妻にとって夫の在宅によってもたらされるストレスが主な原因となって主婦に発症する様々な疾患として主人在宅ストレス症候群という心身症もあるそうです。
④「黄金の15年」を輝かせるために
「60歳の自分」というテーマで、5,6人のグループで自由討議を実施したところ、初めは部長など高い役職にある社員がグループの議論を引っ張ったが、具体的な討議に入ると、高校を卒業して地元の工場で働いている社員たちが積極的に話し始めた。
つまり、社内で高い役職についているからといって、未来の自分が必ずしも輝くとは限らず会社の仕事に比重を掛け過ぎているとかえって定年後が厳しくなることも考えられる。
60歳児の平均余命で見れば、現在60歳の人は男性で85歳前まで、女性は90歳近くまで生きる計算になる。
また、東大社会総合研究機構の秋山教授の調査結果によれば、お風呂に入る、電話を掛ける、電車やバスに乗って出かけるといったごく普通の日常生活の動作を人や器具の助けなしでできる、つまり自立して生活する能力は、7割の男性が75歳頃から徐々に自立度が落ちていく。
つまり、60歳から74歳まで、自立を確保できて、かつ今までの組織における義務の束縛から逃れ、家族の扶養義務も一段落つく。
多くの時間を自分のために費やせる人生のラストチャンス。
この60歳から70歳が本当は自分の能力が一番発揮される時期であり、自らの個性に合った働き方、生き方をすればよい。
大切なことは退職後の一日一日を気持ちよく「いい顔」で過ごせることだといいます。
仕事中心の生活から、成熟した人生への切り替えが求められる。
別の言い方をすれば伸ばしてきた寿命の中身を充実させる段階に来た。
それでは、会社の仕事以外のものを手にするのにどのくらいの時間軸で考えればよいのだろうか。
中年以降に会社員から転身して別の仕事を始めた人のインタビューを繰り返した時に「一区切りつくまで3年」と発言する人が多かったそうです。
著者の場合は50歳から務めと並行して執筆に取り組んだそうですが、3年を3回で10年と考えれば、60歳の定年まっでに1クール回せることになる。
また、在職中から新たな取組をスタートさせることで、多くの人に会うことができる在職期間中が最も刺激が多いんだそうです。
つまり、リタイアするまでが勝負と思い定めた方がいいんだそうです。
更に、著者が会社員から転身した人たちや中高年になってもイキイキと組織で働いている人たちを取材する中、感じていたのが、小さい頃のことが大切なんだそうです。
定年前後も子供のころの自分を呼び戻すことがレールを乗り越える、または複線化する際のポイントになるのが実感だそうです。
小さいころに得意だったこと、好きで好きで仕方がなかったことが、次のステップのカギを握っているケースがある。
それは例えば、文章を書くこと、小さい頃の大道芸人へのあこがれなどなんだそうです。
美術家の横尾忠則氏は、大人になってからの経験は知識の延長で、自分にとっての創作は10代までに貯めこんだ言葉にできない思いを吐き出し続ける行為だと言っているそうです。
ちなみに著者の中高生時代の友人に執筆を始めたことを話すと、
「お前は昔から人の話を聞いてそれを別の人に面白く伝えるのが得意だったからなあ」
と言われることがあったそうです。
会社の同僚や取引先は会社外の特殊な活動として理解していたにもかかわらず。
⑤社会とどうつながるか
ライフサイクル面からみて、自由で自立して動ける黄金の15年のライフステージをどうするのかという観点から、思い切って裸一貫からでもやっていこうと思えば、雇用延長に手を上げるという選択肢はない。
一方、定年退職しても何もすることがなく、孤独な日々になることが想定されるのであれば、とりあえずは雇用延長を希望するという判断もある。
また、主体的意思や新たな生き方を見出す観点からすれば、50代から「定年後」を検討することが妥当と思える。
一方、会社員から独立して初めて、自分の関心がいかに自身や上司、同僚にしか向けられていなかったかを痛感したと語るデザイン関係のフリーランスもおり、著者自身も会社員は社外に目が向かず、社会とのつながりについて意識が薄いことはいつも感じてきたそうです。
社会とつながる力=X(自分の得意技)×Y(社会の要請や他人のニーズ)と考えると、Xの部分は組織での仕事の延長線上でも対応できるので、会社員の比較的得意な分野と言える。
しかしY(社会の要請や他人のニーズ)をグリップする力が弱いので、会社を離れるととたんに関係が途切れてしまう。
定年退職者が社会とつながることを考えると、①引き続き組織で働くという選択肢、②以前の会社での業務と関連のある仕事に就く人たち(保険代理店など)、③そして今までの仕事とは全く違う生き方に取り組むケースがある。
どのような社会とのつながりを目指したとしてもそこに優劣はない。
しかし、著者は、次の2点にはこだわった方が良いとアドバイスします。
1点目は何に取り組むにしても、趣味の範囲にとどめないで、報酬がもらえることを考えるべきであること。
何か物事に取り組むときに他人の評価をお金に換算する感度は持っておいた方が良く、報酬があるということは、だれかの役に立っているということであり、その瞬間に単なる趣味ではなくて社会的な活動に転換すると言っていいそうです。
またお金を稼ぐレベルを目指すことが自分の力量をアップすることに繋がります。
大切なことは社会の要請に応えられるレベルの指標としてお金の価値をうまく使うことなんだそうです。
2点目は、望むべくは自分の向き不向きを見極め、自らの個性で勝負できるものに取り組むことなんだそうです。
定年後の60歳から74歳までは自分自身を縛るものが少なく、且つ裁量をもって動ける黄金の15年であることから、人生後半戦の最大のポイントという意気込みで自分ならではのものを見出したいと考えるべきだそうです。
また、中高年から全く新しいことに取り組んでも、長年の組織での仕事で培ったレベルに到達することは容易ではない。
今まで取り組んできた仕事を直接、間接にカスタマイズして社会の要請に応えられるものにすることが力を持つんだそうです。
また、時間をかけて、じわりじわりと好きなことに近づいていくことは、組織の中にいても可能であるし、得意なことに徐々に軸足を移していくことで、定年後にも有力な武器になる。
①助走の大切さ
「定年後、趣味を仕事にしたいと思っているのなら、少なくとも会社に居る四十代ぐらいのときから、市場調査をしたり、それなりに商売のやり方を考えておく必要がある」
②子供のころの自分に立ちかえる。小さなころからモノ作りが大好きで手作りの模型飛行機などを作っていた電機メーカーの社員が定年後にリフォームやになってレベルの高い仕事を手掛けている例など、宝物は自分の外にではなく、自らの子供時代に眠っているというのが著者の実感、
③会社で培った能力や力量を役立てている人が多い。
第二の仕事をビジネスとして成り立たせている人の中には、現役時代から社内起業のようなことをしてきた人や営業の第一線で活躍してきた人が多い。
会社員の経験が物をいうケースは少なくない。
⑥死から逆算してみる
定年退職者が語る「元気で働ける年齢を74歳までとするなら」「残りの人生が30年あるならば」は、いずれも死を意識しながらそこから逆算して自分の未来を考えている。
数十年間生きて、そして今死んでいかなければならないという厳粛さは日々の自分勝手な思い込みなどから解き放たれ、本当に自分にとって大事なものに気づく機会となるんだそうです。
この絶対的な死との関連において、定年後の自分の立ち位置を確立させるならば、そのアイデンテイテイはかなりゆるぎないものになっているそうです。
⑦自分の所感
これまで定年後の様々な生き方を示した本を何冊か読んできましたが、著者のように自らが50歳代からフリーランスと二足の草鞋をはき、働き方を考えてきた人は、言う話が自分事で、とても説得力があると感じました。
60歳から74歳は人生後半の黄金期、子供の頃に好きだったことをやってみる。
社会人で身についた知見も活用してみる。
色んな示唆を得られた本になりました。
流石中公新書の本でした。
この本は会社員は是非読んでみると様々なアイデアをもらえると感じました。
是非本書をお読みください。
