「真のバリュー投資のための智慧と実践」を読んで-書籍自体に10倍超の価値がある

一冊目の「真のバリュー投資のための企業価値分析」「真のバリュー投資のための企業価値分析」を読んで | すがわら あつしに続いて、バリュー投資銘柄を具体的に15社(超(笑))紹介しながら、参入障壁を作り、継続的に企業価値を高める仕組みを作った企業とその事業内容を紹介した本が本書です。

1990年代から、長期に渡り投資する価値のある企業を研究、業界、企業分析を定性、定量面から行い、決算内容からその企業のその時点の理論価値/理論株価まで算出してしまう。

そして、その分析が間違っていなかったからこそ、柳下裕紀さんがAulea Lotusの投資運用実績で、日本株(以下HPによると運用開始から190倍)、アメリカ株(運用開始から59倍)と、とんでもない実績を上げている裏付けにもつながっているんだと思います。

投資運用関連 – Investment Management – | Aurea Lotus

目次は以下となります。

第1章 価値創造の本質

①経営の意思決定の連続で刻まれる企業DNA

②ROICからの仮説検証によるビジネスシミュレーション

第2章 参入障壁を持続的に強化する価値創造のビジネスモデル

①参入障壁とビジネスモデルの整合性

②全体最適のオペレーション設計がつくるキャッシュマシーン

③事業特性のポイント-BtoBかBtoCか、製造業か流通業か

第3省「負けない投資」の実践とポートフォリオ

①M&Aによる価値創造-シナジーとマリアージュ

第4章 投資決定における複利価値創造の考察

①投資決定における複利価値創造

②価値増大企業をみるポイント

①競争優位性のある堅固な企業DNAを持つ企業とは何か。

柳下さんが考える投資価値に見合う企業、それは企業の事業や経営が持続的に価値を増大させられるか否か、がポイントになるという考えです。

その際、代替性が低く、他社が参入するのに障害になるような商品・製品やサービスがあるからこそ高いマージンをえることができ、そこに付加価値、差額であるフランチャイズバリューが生まれる。

この参入障壁については、マイケルポーターの

①規模の経済性、

②製品差別化、

③巨額の投資、

④流通チャンネル、

⑤独占的な製品技術、

⑥経験曲線効果、

⑦政府の政策

が上げられています。

更に価値創造のビジネスモデルは、この競争優位の為の参入障壁を持続可能にし、さらに強固にしていくために設計される仕組みだと言います。

柳下さんが選ぶような企業は、企業DNAの中に、競争優位になるビジネスモデルを構築し、価値創造において競争から離れられるような、独自の優位な位置取りを作り、強化している様子が描かれています。

本書の中には、主に15社の企業が紹介されていますが、その企業の沿革、競争優位性を保つための様々な価値創造モデルが紹介されています。

企業名は明かしませんが、その8社のビジネスモデルを簡単に紹介します。

①日本で開発したアミノ酸技術を軸に、巨額の投資によって東南アジアの市場確保を優先し、競合に先んじてプレゼンスを確保して拡大。

経験曲線(=参入障壁)を上げていくアプローチだったり、現地化の徹底により迅速かつ的確に市場のニーズや変化を吸い上げ、商品にいち早く反映させる商品開発の実現につなげる市場最寄り化戦略。

更に創業のDNAにあるアミノ酸技術をプラットフォームとした半導体や核酸医薬品の横展開

②他社と差別化が可能で、顧客が高い付加価値を求めているニッチ市場、大企業が参入するほど大きくなく、中小企業にとっては経験技術がないと参入が困難な市場でグローバルに高いシェア獲得を狙うグローバルニッチトップ戦略の中で、コアとなる光学検査、光応用技術の開発力に徹底してレバレッジをかけ、それを知財で担保して高い参入障壁を実現。

初回ロット販売による限界利益でリスクを負って新市場に向けて開発をした費用を回収する価格設定にすることで、高い付加価値を維持するバリューチェーンを構築

③参入障壁であるコーテイング施工技術の圧倒的な製品及びサービス力。

これが生み出すフランチャイズバリューを毀損させないためにエコシステムのレイヤーであり直接の顧客を囲い込むためのきめ細かく作りこまれた価値創造のビジネスモデル

④間接資材に目を付け、絶対に必要でありながら本業に比べればコストの比率が小さく問題が放置されがちでありながら、結構な頻度でニーズが発生し、トータルでみると現場がかなり多くの時間を割かなければならないサービスをワンストップで取り扱うことで、徹底したサーチコストの引き上げによる顧客ロイヤリテイの囲い込み

⑤会員制による収益の確保の一方、高品質な商品を低い粗利で提供し顧客ロイヤリテイを高め、オペレーションの効率化、大量購入による大量販売と早い在庫回転率による圧倒的な資本効率とキャッシュフローを生み出すビジネスモデルを構築

⑥食品の販売でありながら、原材料となる農業漁業から製造業、流通業、小売業をすべて網羅して取組、製造業の合理性を徹底して詰め、大容量商品の大量生産によって収益性を高め、一気通貫のスタイルを確立することで、川上から川下まで価格支配権を完全に握り、大量出店、大量生産、大量供給により高い資本効率を生むビジネスモデル

⑦自社で研究を行い新薬開発に会社のリソースを振り分けるためのM&Aにより、世界中へリーチ出来る販売、製造、そして臨床実験を備えた世界的な企業との協業による研究開発力の強化向上による互いの企業価値を高めあうエコシステムによる価値創造のビジネスモデル

⑧インフラ設備を主力として拡大した歴史から培ってきた技術アセットが横展開でき、シクリカル性が低く、成長できる海外事業の拡大を意識した事業の選択、売却、買収を実施。

(1)再エネ市場拡大の中必要な消費電力と発電量のデジタル管理、高圧直流送電事業をM&A含めて実現、

(2)鉄道車両・信号製造事業の強化、M&Aによる対象市場の拡大、信号機/保守といったシクリカル性の低い事業へ拡大

(3)ユーザーが使いやすいインターフェイスやサービスの構築技術/事業の買収により、インフラ向けの強固なシステムに組み合わせることで、IT×OTのプラットフォームの構築

といった世界レベルでのグローバルNO.1事業の育成、強化による価値創造のビジネスモデルの構築

②長年の投資での実績を通じたフランチャイズバリュー企業の渾身の紹介

通常、書籍や情報は何年かすると、色あせていくものです。

その当時ブームとなっていた国の経済、企業、考え方も十年も経つと色あせてきたりもします。

企業においても、一時的に政府の施策、世の中の流れに乗る企業もある中、柳下さんは、永続的に複利で企業価値を向上させる企業があるという主張をされています。

そしてその具体的な企業名とビジネスモデルを本を紹介すること自体、今後の予測に相当な自信がない限り、世に出せるものではありません。

ましてや、本書では、将来の継続価値も含めた現時点の企業価値を過去の決算から丁寧に数値で算出しており、上で紹介したビジネスモデルと共に、紹介している一つ一つの企業が永続して伸びることに相当な自信があることを感じました。

例えば、上で上げた企業以外にも、売上高が15億円程度にしか届いていないGIS(Geographic Information System)の企業も紹介されています。

この企業は地図配信サービス、GPS機能を活用した119番通報するシステムを開発し、地方自治体や消防庁といった政府向けに提供しています。

この対象市場を定義し、ニッチな市場でストック型ビジネスを展開、2010~20年代に多くの自治体で採用されることで、自治体を通じた人口カバー率が70%を超えてきたことが紹介されています。

柳下さんが取り上げる投資に値する企業は、他にも何社もある中、今発刊された書籍の中でこの15社を選んたことにも意味があるのではないかと感じました。

③本を読み終えた所感

私自身は、B to Bの企業に3社 合計25年勤めており、現在は、海外のプラントやインフラ設備のマーケテイング、営業を15年以上行っており、インフラの海外法人営業のプロフェッショナルのつもりです。

従って、投資には、自分が及ばない投資のプロフェッショナルがいることは分かっていましたし、柳下さんの講義や書籍を読めることは凄くありがたいと思っています。

一方、柳下さんを通じて投資の世界を知って、絶望しているのは、企業DNAや、企業の沿革、そこから出てくる全体最適を意識したビジネスモデルを作ることで、ようやく投資に値する、つまり永続的に価値創造ができる企業であるという考えです。

私の現在所属する企業は、事業としては、一定の収益を継続的に上げられており、またシクリカル性を押さえるために、ストック型のビジネスモデルを作ろうとしたり、エンジニアリング企業の中では、とても優良な企業だと感じるものの、競争優位性が高くフランチャイズバリューを作れる事業体には、とてもなっていないとも感じます。

そして私が直接的に携わり、責任を負う法人営業という一機能では、到底そのようなビジネスモデルの構築には繋がらないとも感じてしまう。

紹介いただいた企業には、必ず技術や企業DNA、その前に経営者が全体のビジネスモデルを構築していく中で、全社で競争優位を確立する仕組を確立、強化している。

サラリーマンとして、折り返し地点に来た私は、投資という形でそのような企業にお金を入れ、投資家として見守ることしかできない。

この辺りが、寂しいものだとも感じました。

いずれにせよ、この本は、私の書評などで理解できる内容ではなく、業界やビジネスモデル、商品知識など様々つくものなので、是非読んでみてほしいと思います。

なお、本書の中で、前書の出版に関わられた大江英樹さんの名前を拝見しました。

ということで、彼が書いた「となりの億り人」を改めて見ていたら、長期株式投資をするのに、柳下さんの前書が推薦されていました。

柳下さんにたどり着くまでに、カテキンさんや大江さんを通じていたことを改めて感謝し、人間関係の大切さを感じたところで、この本の書評を終えます。