海外の顧客と会い、突然新規プロジェクトの話が出て、具体的な商談の話も始まる。
社内に報告すると、数十億円の受注の可能性があるということで、盛り上がる。
エンジニアが客先のニーズに基づく仕様検討なりを始める。
海外の顧客回りや商談件数が少ないうちは、一つのプロジェクトの相談が来ると、案件が発掘されたと盛り上がることがあります。
しかし、不動産で、俗に成約件数が1000に三つと言われるように、有望な顧客は限られており、プロジェクトが成案化する可能性は高くないことを意識することはとても大切です。
更に、営業は顧客との接点となり、また社内の司令塔となりえる故に、まずは慎重に顧客を見極めることが先決です。
①顧客がビジネスを実行する力があるかを見極める
前回のコラムでもお伝えした通り、設備投資を本気で検討する顧客は、その事業若しくは事業の上流/下流の事業で儲かっており、新たな設備投資に伴う事業拡大も吸収できる顧客層を既に持っていたり、自社で吸収できる需要量があったりします。
インドネシア市場で独占した優良顧客の見つけ方-海外法人営業編 – アイアンマンブログ (ironman1977.com)
一方、自社の商売で儲けていない顧客は、市場が拡大しているにも関わらず、必要な商材の提供ができていなかったり、顧客開拓が不十分であったり、資金が足りなかったりなど、商売の環境が良いにもかかわらず、利益が上げられていません。
こういった顧客は、設備投資のみならず、その資金の借入についても、サービス提供者側に泣きついてきたりします。
私が担当していたメッキ鋼板の東南アジア市場では、
①GI材(亜鉛メッキ鋼板)からGL材(アルミニウム・亜鉛メッキ鋼板)への置き換えが進んでいたこと
②特にGL材の販売を手掛ける鉄鋼会社は、その供給先の建材加工会社と協業し、顧客に対して20年間の品質保証をするといった新しい商売の手法を生み出していたこと
③従来のメッキ鋼板の切り板を問屋に流し、問屋が建設会社や個人に売っていた商流から、メッキ鋼板及びその加工品を一つのブランドとして素材から商品までを繋げ、販売するといった商流に置き換わっていったこと
結果として、ブランド化に成功した鉄鋼会社と建材加工会社は十分な利益を上げ、それ以外の鉄鋼会社は商売が伸びないという現象が起こっていたのです。
更に、建材加工会社と鉄鋼会社で起こっていたのは、
①建材加工会社は市場が拡大する中で、販売量を増やしたいにも関わらず、鉄鋼会社による設備投資への意思決定等が遅く供給体制が整っていなかったこと
②従い、建材加工会社はシェア拡大分はベトナム等、他国からの輸入に頼らざるを得ない状況となり、建材加工会社が鉄鋼会社に成り代わってメッキ鋼板の製造に乗り出す設備投資ニーズがあったのです。
②顧客だけではなく、関係者に評判をヒアリングする
但し、経験値が少ないうちは、自分の目が正しいものにはならないですし、自分の感覚が常に正しいとも限りません。
従って、顧客のみならず、周辺関係者にヒアリングし、評判を確認します。
他の鉄鋼商社でも、鉄鋼材料や商品の取引の際、商品の品質、支払い能力があるか否かといった顧客との実際の取引から得ている情報があり、その情報は正確です。
それらの情報と自分がヒアリングした情報や感覚を繋ぎ合わせると、将来有望な顧客となりえるか否かが見えてきます。
③調査会社のレポートを利用して、経営/財務データを確認する
顧客の経営状況を調べる方法として、信用調査会社のレポートを活用することもあります。
日本では帝国データバンクや商工リサーチ、海外では、D&Bレポートなども活用したりします。
インドネシアの場合は、上場していない限り、顧客が信用調査会社に財務諸表を公開していないケースが殆どでしたが、少なくとも売り上げ規模や経営情報、工場などの情報を仕入れるのに重宝していました。
④社内を動かす(技術陣に全面協力してもらう)のは、有望顧客を見極めた後
社内のリソースを動かす場合には、お金もかかりますし、意思決定のプロセスを重ねていかなければいけません。
また、顧客からすると、組織での対応となると中の動きが見えないため、遅く感じます。
従って、最初に顧客に会うのは、営業である私単独若しくは技術1名を加えた形と限定し、その周辺情報も含めて社内関係者にタイムリーに打ち合わせ情報を提供していきます。
その後、周辺関係者にもヒアリングし、見込みがあると自分自身が理解できた時点で、社内の責任者とも対話上、検討チームに正式な依頼をするといったプロセスを踏んでいました。
結果として、私が持ってくる案件は、優良顧客を引っ張ってくることが多い為、成約率が高く、技術陣との信頼関係が高まりました。
④纏め
- 顧客開拓にて、法人営業がまず大切にすべき点は、客先がプロジェクトを実行できる顧客か見極めることです。この見極めができないと、社内を振り回すだけとなり、結果案件の成案化もできず、信頼関係を失います。
- 顧客の見極めには、自分自身で経営者に会い、オフィスや工場を訪問し、稼働率を直接確認する方法に加え、顧客回りの利害関係者に会い、評判を確認することで、客観的な見方ができます。
- 信用調査会社による財務/経営データによる情報収集も有益な情報となりえます。
- 社内(技術陣)を動かすのは、有望顧客か否かの見極めをした上で、具体的に協力を依頼することが大切です。結果として成案化率も高まり、社内での信頼関係も高まります。
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